第二十二話 「鴉の王と影の継承」



──静かなる出発の前、幸蔵はタガラに問いかけた。


「出発前に、ひとつだけ確認しておきたい。

タガラ、お前……同胞を何羽喰った?」


タガラはわずかに笑った。だが、その声は、深い闇の底から響くようなものだった。


「……さすがは預言者か。いいだろう、教えてやろう。

──私は、同胞5千億羽を喰らった。かつての王だ」


幸蔵がわずかに目を見開く。


「鴉族は、一人の王と二人の配下で大戦に臨む。使命はただ一つ、陰の総意の回収。王が果たせなければ、配下が王となり、その陰を継ぐ。

──もし現王が器に足りぬなら、配下のどちらかが王を吸収し、王位を継ぐ。

どちらにせよ、我らはやがて一つの存在に還る。


……今の我らはまだ未完成の段階。レイを王に据えてはいるが、私は彼を真の王に鍛え上げる。その時が来れば、我らが命をもって、王を完成させる。」


幸蔵は小さく息を吐いた。


「……安心したよ。

お前がレイを認めていないのではと、少しだけ思っていた。」


タガラは即答した。


「当然だ。太陽に選ばれたのは、レイであって、私ではない。それほどまでに、太陽の意思は圧倒的なのだ」


そして、声の調子が変わる。低く、慎重な響きとなった。


「──良い機会だな、お前に伝えておきたいことがある」

「なんだ?」


「この世界には、王から王へ受け継がれる意思がある。初代から現王まで、力と記憶は連綿と受け継がれている。王には二種類ある。子に力を継承する者と──魂を喰らい、肉体を残してなお存命する者。


……そして、今暦はあまりにもイレギュラーだ。強大な勢力があまりにも多すぎる。中でも、絶対に無視してはならない種族がいる。それが──龍族だ。


奴らはこれまで、戦いに消極的だった。滅ぶこともまた、自然の流れだと受け入れていたからだ。だが──今回は違う。太陽の意思が、恐竜の遺骸に入り込んだ。二万三千年を生きる龍王と、太陽の龍が手を組み、この地球を──取りに来るぞ。


……さらに付け加えるなら、この世界には絶滅したとされる生物たちが数多く存在する。だが、真に滅びたわけではない。奴らは、絶滅を偽装し、その時に備えて、力を蓄えてきただけだ。それが目覚める時──地上の勢力図は、完全に塗り替わるだろう。」


幸蔵は深く頭を下げた。


「……この場で、お前の話を聞けたこと。本当に幸運だった。ありがとう、タガラ。

俺の戦略はまだ甘い。これから、お前と共に新たな指針を描いていきたい」


──タガラは一瞬だけ、穏やかな眼差しを見せた。


(……幸蔵という男、やはりこやつも王の器か。)


「良かろう、共に描こう。

お前の戦略──人間王に見つからぬよう、地上から姿を消し、空と海を制圧する。

実に優れた視点だ。私も賛同する。だが、もうひとつ。同時に進めるべきことがある」


幸蔵が頷く。


「聞こう」

「共同戦線の構築だ。我々鴉族が把握している限り、現在、太陽の使徒は二名確認されている。第二使徒、それが先ほど述べた龍族。第六使徒、我らが王・クロ』


「なるほど……ということは俺たちは、空の勢力を吸収しつつ、他の太陽と共同戦線を張る必要があるってことか」


タガラが頷いた。


「その通りだ、幸蔵。早急に動くぞ」


幸蔵はすぐさま声を張った。


『ああ、ヒナタ、準備しろ!

……急ぐぞ!!』

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