愚かな決闘、臆病な魔法使い、そして私の隠された秘密

翌朝、村は再び騒然となった。


「世界でただ一人の男」が騎士アリアと決闘するという知らせが村中に広まった。


女たちは皆、祭りを見るかのように軽食を持ち寄り、広場に集まっていた。


ヒロシは青白い顔で闘技場の中央に立っていた。


「な、なんで私が決闘しなきゃいけないの!私って、こんなに弱いのに!」


アリアは長剣を手に、やる気満々の表情でヒロシの正面に立っていた。


「本当に男なら、その強さを見せろ。さもないと、ただの足手まといだ!」


ヒロシは手を挙げた。「え、最初から足手まといだって認めていい?」


人々は冗談だと思って大笑いした。


アリアは鼻で笑った。「ふん!逃げ場がないわ!」


村長のセレナが審判として闘技場の脇に立っていた。


「よし、決闘開始!ただし、殺しは厳禁だ。」


ヒロシは即座に手を挙げた。「できれば怪我はしないように!」


再び会場の笑い声が上がった。


アリアは剣を構え、彼に向かって駆け寄った。


ヒロシは子供のように叫んだ。「あああああ!!!」


目を閉じ、たまたまバッグの中に入っていたBLコミックを盾に掲げた。


「ガリッ!」 アリアの剣は、二人のイケメンが抱き合っている様子が描かれた表紙のすぐ手前で止まった。


アリアは目を見開いて凍りついた。「な、なんだこれは…?」


観客は不思議そうにざわめいた。


ヒロシはコミックの表紙を一瞥し、驚いたように頬を赤らめた。「え?これ…僕の好きな読み物なのに。」


アリアは顔を赤らめ、一歩後ずさった。「え、あれ…あれ…二人の男…なんてこった!」


会場は大騒ぎになった。 「あんなの見たことない!」


「なんであんなに熱烈に抱き合っているんだ?」


ヒロシは唾を飲み込み、頬はさらに赤くなった。「しまった、秘密がバレてしまった…」と心の中で思った。


アリアは両手で顔を覆った。「あなた…うるさい!こんな変な物で決闘するなんて!?」


ヒロシは恥ずかしそうに慌てて両手を上げた。「え、でも生き残れって言ったのはあなたでしょ!」


セレナは笑いをこらえた。「よし、これで決闘は終わりだ。勝者は…ヒロシ。」


闘技場はたちまち騒然となった。


「あいつ、変だ!」


決闘の後、ヒロシはよろめきながら村の家へと歩いて行った。


そこでは、分厚いノートを抱えたリリアが待っていた。


「あ、私…ヒロシと話したいことがあるの。」


ヒロシは驚いた。 「え、何?まさか変な実験でもしたいとか言わないでよ?」


リリアは顔を真っ赤にして、慌てて首を横に振った。「い、いや!ただ、君のことをもっと知りたいだけなんだ。」


ヒロシは疑わしげな目でリリアを見たが、やがて彼女の向かいに座った。


「わかった。聞いてくれ。」


リリアは本を開いた。「まずは…どうして女性に興味がないんだい?」


ヒロシはしばらく黙っていた。


彼の顔に作り笑いが浮かんだ。「ああ…それは昔からの問題だ。」


リリアは頭を下げた。「あ、話したくないなら、構わないけど…」


ヒロシはため息をついた。「実は、小学生の頃…女子生徒に嫌がらせを受けたんだ。」


リリアはショックを受けて、すぐに手で口を覆った。


「あいつ…隅に引きずり込まれて、制服をずたずたにされた上に、無理やりキスされたりもしたんだ。」


ヒロシは膝を強く掴んだ。「抵抗できなかった。体が弱くて。男子はみんな笑うばかりで、先生たちは大したことじゃないって片付けたんだ。」


声は震えていた。「それ以来、僕は…女の子を安心して見ることができなくなった。」


リリアは哀れそうに彼を見た。


「でも、BLに出会って…安心した。女の子もいないし、恐怖もない。ただ、男の子同士がお互いを守り合う愛があるだけ。」


ヒロシは苦笑した。「だから腐男子になったんだ。そこにいれば、安心できるから。」


部屋が静まり返った。


リリアはノートを置き、真剣な顔でヒロシを見た。


「ごめんなさい。僕が女だからじゃなくて…世の中が君をひどく扱ったから。」


ヒロシは呆然とし、そしてかすかに微笑んだ。「君の言う通りだよ。それは過去のことだ。」


突然、リリアが小さなハンカチを彼に手渡した。


「泣きたいなら、これを使って。」


ヒロシはハンカチを見て、それからリリアの紅潮した顔を見た。


ヒロシはハンカチを見て、それからリリアの紅潮した顔を見た。


心臓がドキッとした。「え?なんでこんなに緊張してるんだろう?」


リリアは慌てて立ち上がった。「あ、行かなきゃ!研究があるの…!」


彼女はハンカチを手に持ったまま、言葉を失ったヒロシを残して、急いで走り去った。


ヒロシは天井を見つめ、小さく呟いた。「僕…女の子って、本当に苦手…なのかな?でも、どうして彼女といると、いつもと違う感じがするんだ…」

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