第8話 もっと活動の幅を広げるようです
ある日、ジャンヌ・ダルクと矢場芽衣子のライブ映像が配信された。彼女たちの力強いデュエット、響き渡るハーモニーは多くの視聴者に感動を与え、その中にはある一人のゲームクリエイターの姿もあった。
「……この声だ。探していたのは、まさにこの魂の響きだ。」
そう呟いたのは、人気ゲーム制作会社「ASW」で音楽やデザイナー、イラストレーターなど多岐にわたって手がける
配信を見たその日のうちに、右渡はジャンヌの所属事務所に連絡を入れた。
「ジャンヌ・ダルクさんの力強い歌声を聞き、当社の作品『Goldy Peer』に登場する新キャラクターのテーマ曲でボーカルを担当していただきたいのですが、ご検討いただけますでしょうか?」
突然の依頼に、事務所スタッフも驚きを隠せなかった。ちょうどその場にジャンヌがいたため、スタッフはすぐに相談を持ちかけた。
「ジャンヌさん、『Goldy Peer』ってご存知ですか? かなり人気のあるゲームで、特にBGMの演奏や歌唱が難しいって有名なんですよ。ロック調で、音域もリズムも複雑で……確かにあなたの声にはパワーがありますけど、ロックは未経験ですよね?」
ジャンヌは少しだけ視線を落とし、思案するように目を伏せた。しかし、その瞳にはかすかな光が宿っていた。
「……はい。ロックは歌ったことがありません。でも、だからこそ挑戦してみたいんです。これまで触れたことのない音楽に向き合うことで、自分の可能性をもっと広げてみたいと思っています。」
その言葉に、スタッフも思わず頬を緩めた。
「わかりました。あなたが本気なら、こちらも全力でサポートします。お返事は“前向きに検討します”でお伝えしておきますね。」
数日後、ジャンヌはASWを訪れ、右渡大輔と直接顔を合わせる機会を得た。会議室での対面は、どこか制作現場らしい熱気と緊張感に包まれていた。
「ジャンヌさん、今日はありがとうございます。あなたの歌声はただの“上手さ”じゃない。まるで信念を伝えるように響いてくる。だから、この新キャラクター——『ミリアム』のテーマをあなたに託したいんです。彼女は、絶望の中でも希望を手放さなかった戦士です。その魂に、あなたの声を重ねたいんです。」
「……ありがとうございます。とても光栄です。彼女の心に寄り添えるよう、私も全力で挑ませていただきます。」
ジャンヌは拳を握った。挑戦するということは、失敗を受け入れる勇気を持つことでもある。しかし、彼女は知っていた。過去に神の声に従っていた自分ではなく、今の自分の意志で“歌”を選び続けている限り、前に進めるのだと。
翌日から、ジャンヌは徹底した準備に入った。まずは、ロックの基本を体に叩き込むことから始めた。スタジオでのトレーニングに加え、夜には一人でカラオケルームにこもり、ひたすらロックナンバーを歌い続けた。喉が焼けつくように痛む夜もあったが、彼女は声を張り上げ続けた。
「自分が歌いたいと思ったなら、誰よりも努力しなきゃ……」
そう自らに言い聞かせ、ひとつずつ音を刻むように練習を積み重ねた。
やがて、レコーディング当日が近づいてきた。ジャンヌの中に芽生えたのは、緊張ではなく、誇りだった。まだ見ぬ誰かの心を打つために、自分の声を捧げる——それが、今の彼女の使命だった。
新たな音楽との出会いが、ジャンヌ・ダルクの表現者としての地平をさらに広げていこうとしていた。
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