第2話【固有スキル】
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
「新規探索者登録です」
順番待ちが終わり、受付の人に事前に準備していた資料を渡す。
今いるのは探索者協会、役所のような雰囲気だが、これには理由がある。
いくら国から独立したとはいえ、武力を一般人が持つという事で活動する国に告知義務があり、税金等の調整もしてくれる探索者協会に登録するには戸籍なんかの資料が必要になってくるのだ。
「本日15歳になったばかりですね。早速探索者になるんですか? 学校に行ってからでも遅くないと思いますが…」
少し驚いたようにこちらを見て言ってくる受付嬢さん。
まぁ、普通15歳で登録する人はいないしな。
というのも、J国には有名な探索者を育成する機関が3つある。
これは世界でも有数で、J国出身の上級探索者が多い理由でもある。
そんな有名な探索者を育成する機関の内1つが国立探索者学園、通称
J国人の入学枠は8割、約1万2000人、入学倍率は驚異の31倍。
大抵の人は諦めて、普通の高校に通い、大人になってから探索者を目指す。
というのも、探索者学校に通わないと探索者と学生の両立をしなくてはならなく、それは非常に困難を極める。
何故なら探索者は命懸けだ。
部活と学業を両立するなんてレベルじゃない。
特に15歳となると受験があるので、その歳で探索者になる中学生は非常に少ない。
まぁ、俺は早く強くなるためにこれまで必死に努力して、模擬試験は全教科合格基準、内申点稼ぎも色々やってる。
そして、それをこれからも怠る気はない。
1分、1秒でも早く強くなる。
そして、お金も稼げれば母さんも楽になる。
国探は奨学金とか無いから学費が高いし、少しでも稼がないと…。
一応、奨学金と似たような制度はあるけどあっちはやりたくない。
母さんは気にしなくていいし、通いたいなら通えば良いって言ってくれた。
というか、通わないと探索者にはならせないとまで言われているので、俺が15歳になったらすぐ探索者になる代わりに俺は国探に通うという条件で話を付けている。
今日が5月6日、もう1年無いのでレベル10を目標に初期ジョブくらいはマスターしておきたい。
「それでは、ステータス付与とスキル鑑定を行います。こちらへどうぞ」
最初は塔でしかできなかったステータス付与だが、今ではその機械がダンジョンから出る事で全国にある。
結構お高い機械だから各家庭に何てのは無理だけどね…。
黒い箱のような2mくらいあるそれの前に立ち、受付嬢さんに言われるまま手を当ててステータスを取得する。
これは数秒で終わり、特に何の問題もなかった。
「では、確認のためステータスオープンと唱えてください」
「ステータスオープン」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
〇名前:
〇年齢:15
〇総合レベル:0
〇必要経験値:0
〇現在ジョブ:未選択
〇過去ジョブ:
〇ステータス
・体力:3
・魔力:0
・筋力:2
・知力:3
・功力:5
・SLP:0
・STP:0
〇固有スキル
【豊穣の儀式】
〇職業スキル
〇武術スキル
〇魔法スキル
〇生産スキル
〇補助スキル
〇耐性スキル
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「ステータスオープンが確認できましたね? ステータス画面は他人に見せる意思が本人にあれば見せる事も可能ですが、基本的には他人に見えません。また、見せる意思がある場合内容を偽る、隠す等の行為は出来ませんので個人情報の取り扱いに気を付けてください。」
受付嬢さんが説明してくれる声が聞こえるが反応出来ない。
あれば嬉しいと思っていた。
無くても頑張るだけだと思っていた。
それでも、あったらこんなにうれしいなんて…。
固有スキル。
それは探索者の才能があると認められた証拠!
これだけで強くなる訳じゃないが、これがある事で強くなる可能性が上がる。
俺は強くなれる。
強くなる。
「では、次にスキル鑑定を行います。こちらの機械に手を入れてください」
俺が無言な事に何かしら気づいたのか早速スキル鑑定をする為、血圧計みたいな機械を示される。
機械の前にある椅子に座り、腕を通すと血圧計のような圧迫感はなく、ピッという機械音だけがする。
「っ! やはり固有スキル持ちでしたか…おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「それでは、探索者証明証を発行しますので、待機室でお待ちください。その間にスキルの詳細や初期ジョブの取得等をして置くのが良いですよ」
「わかりました」
「…それとこれはお節介ですが、気を付けてくださいね」
「え?」
「固有スキル持ちというのは成功者も多いですがそれと同じくらい死者も多いんです。特に初心者は固有スキルを過信する傾向が強い。貴方はまだ若いんですから生き急がないようにね」
「ご心配ありがとうございます」
それだけ言うと受付嬢さんが下がっていった。
まぁ、舞い上がってしまった自分が悪いな。
これはゲームでも遊びでもない。
現実だ。
一歩間違えれば死ぬ。
それだけは絶対に許容できない。
俺は母さんと唯が待っている家に帰る。
父さんとは違って2人を悲しませない。
まずは、固有スキルの確認だ。
過信せず、慢心せず、ただ冷静に分析するんだ。
固有スキルをどう活かすか…受付嬢さんには悪いが固有スキルを活かさない選択肢はない。
固有スキルだけに頼るつもりはないが、他者が絶対に取得できない俺だけの固有スキルは俺のメインウェポンだ。
宝の持ち腐れにする気はない。
固有スキル【豊穣の儀式】
レベルを犠牲にしてSLPとSTPを入手できる。
SLPとSTP…。
これはスキルポイント、ステータスポイントだ。
スキルポイントを消費する事で固有スキル以外のスキルを取得、レベル上げが可能だ。
ステータスポイントは体力、魔力、筋力、知力、功力のステータスに割り振れるポイントで、スペックだな。
この2つはレベルアップかダンジョンのコアを破壊する事でしか入手できない。
ダンジョンのコアを破壊するのは簡単な事ではないので基本的にはレベルアップのみだと思えば良いとして、そんなとても貴重なポイント系がレベルを犠牲にする事で手に入ると…。
しかし、この犠牲という文字が怖いな。
例えば、犠牲にしたレベルはどうなるのか?
レベルダウンするだけなのか、数値だけマイナスされるのか…。
また、総合レベルという累積のレベルが減少するのか、ジョブレベルという現在選択中のジョブのレベルが減少するのか、はたまた両方か…。
固有スキルはその人しか持っていない為自分で試さないといけない。
ただ、少なくとも戦闘系の固有スキルでは無い事が確定した。
なら、俺がやるのは序盤の安定攻略だ。
そういうのは先人の知恵を使う。
ジョブやスキル構成についての攻略サイトがあるので、携帯デバイスでそのサイトを開く。
初期ジョブは全部で3種類、戦士、盗賊、魔法使い。
そこから無数に派生していく。
俺は戦士一択だな。
魔法使いは魔力が無いと使えないから。
初期ステは結構良いんだけどね。
ちなみに初期ステータスは、平均1~2、3~5が高い方だ。
低いともちろん0で、0のが多い人も普通に居るので俺は結構高い方だ。
特に
これが高いと小手先の技術がうまく戦闘で優位に立てる場合が多い。
なら、盗賊向きなんじゃ?と思うかも知れないが、俺はソロだ。
15歳の成りたての探索者を仲間にしてくれる奇特な奴は少ないし、そういった子供を食い物にする奴らも少ないが居る。
なので、1人でもしっかり戦ってレベルを上げられる戦士になるんだ。
そして、ステータス画面から戦士を選択。
選択するとレベルが1になり、SLP1とSTP10を入手した。
この割り振りに関してはサイトに載っていて、戦士なら、体力と筋力に割り振って使う武器に合わせて武器術スキルを取得するのが良いとなっている。
なので、俺はこのように割り振った。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
〇名前:
〇年齢:15
〇総合レベル:1
〇必要経験値:100
〇現在ジョブ:【戦士Lv1】
〇過去ジョブ:
〇ステータス
・体力:3(+4)
・魔力:0
・筋力:2(+6)
・知力:3
・功力:5
・SLP:0(±1)
・STP:0(±10)
〇固有スキル
【豊穣の儀式】
〇職業スキル
【戦士の心得Lv1】
〇武術スキル
【剣術Lv1】
〇魔法スキル
〇生産スキル
〇補助スキル
〇耐性スキル
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
ステータスの体力はスタミナみたいな物で、ゲームのHPとは違う。
しかし、これを上げる事で継続戦闘能力が上がるのでどんなジョブでも上げ得らしい。
筋力は物理攻撃や移動スピードに直結するので必須だ。
ちなみに、握力換算で言うと今の俺はリンゴくらいなら軽く握りつぶせるくらいに強くなった。
元々握力25くらいの俺がSTPを割り振るだけでこれだけ強くなれるんだから勘違いして犯罪したり無茶して死ぬ人が増えるわけだよ。
「お待たせいたしました。夏目 勇樹様」
「あ、はい」
「こちらが探索者証明証になります。無くさないように肌身離さずお持ちください」
「ありがとうございます。それで、早速ダンジョンに行きたいのですが」
「…早速ですか? ここの支部には訓練所等も」
「
さっき忠告したのにもうダンジョンに行くのかと少し不満そうにして、訓練所を進めてくる受付嬢さんには申し訳ないが、被せるように俺が事前に調べておいた行きたいダンジョンを伝える。
加茂池ダンジョンは深度1のダンジョンで訓練用のスライムしか出てこない小さなダンジョンだ。
深度というのはダンジョンの強さ、深さを表している。
深度1は弱いモンスターしか出てこないか、階層が非常に浅い、もしくは両方の可能性が高いダンジョン。
今回指定した加茂池ダンジョンは1階層しかなく、小部屋が3個とそれをつなぐ通路くらいしかなくボスもいない、一番奥の部屋にコアがあるダンジョンだ。
こういった深度1のダンジョンは良く発生する代わりに下級探索者でも破壊出来るので積極的に破壊されているが、一部保護されているダンジョンがある。
保護されるダンジョンにはいくつかルールがあり、大きく分けて訓練用、資源用の2種類がある。
深度1の保護ダンジョンは基本訓練用で、その殆どがスライムダンジョンだ。
資源用は基本深度が高いダンジョンになる。
深度が高くなればそれだけ強いモンスターが居て良い素材が落ちるからな。
ただ、代わりにダンジョンブレイクした際の危険性も上がるので、資源用に定期的に潜る探索者等を協会は確保していたりするらしい。
まぁ、俺にはまだまだ先の話だな。
そいうのは深度5以上だ。
下級探索者は深度3までしか入れない。中級探索者になれば一気に深度7まで入れるようになるが、深度の高いダンジョンに入るのは自己判断だ。
上級で深度9まで、深度10以上は最上級以上じゃないと入れない。
深度の上限は既に破壊済みのA国ダンジョンで18だ。
「…まぁ、そこなら良いでしょう。申請させていただきます」
おっと、俺の思考が飛んでいる間に受付嬢さんが納得してくれたようだ。
「はい。申請が完了いたしました。こちらが、加茂池ダンジョンへの入ダン許可証になります」
「ありがとうございます」
パソコンで何かしらを入力して、俺に小さなチケットのような物を渡してくれる。
これはダンジョンに入るために必要な許可証だ。
発見されたダンジョンには告知義務があり、告知されたダンジョンはすべて探索者協会で監視員が配置され入場時にこの入ダン許可証がないと入れないようになっている。
これは、ダンジョンブレイクが起こった際に一早く察知する為というのと、ダンジョンから出た資源は高額で取引される物だけじゃなく危険な物もある為、いつだれがダンジョンに潜ったかを管理する目的で設けられている。
「いえ、それよりも気を付けて行ってきてくださいね?」
「はい」
少し怖いような顔で見てきた受付嬢さんに返事をして探索者協会を出て加茂池ダンジョンへと向かう。
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