第5話 岩戸の前の対決 前編

クリス:「やはり、君だったのか。シャルクス」


不意に背後からかけられた声に、リーアの挙動に意識が向いていたシャルクスは、びくりと肩を震わせて振り返った。


そこには、見慣れない青年が杖を手に立っている。ローブの裾が揺れ、瞳には懐かしさと挑発が混ざっていた。


シャルクス:「なに、誰だ。お前は」


警戒を滲ませたシャルクスの問いに、青年は眉を下げてみせた。


クリス:「なんだよ。僕のこと、忘れたのかい?」


青年は苦笑しながら一歩踏み出す。


シャルクスは顔を顰め、青年の顔を凝視する。確かにどこかで見たことがあるような、しかしどうしても思い出せない。この奇妙な既視感に、彼の頭の中は混乱でいっぱいになった。


クリス:「クリスだよ。クリス・ロールブレア」


その名前に反応したのは、シャルクスではなく、隣に立つメディルだった。彼女の瞳が、僅かに細められる。


メディル:「ロールブレア……? 」


彼女の声には、微かな驚きと警戒が混ざっていた。


メディル:「アーポットは、この国の王家と付き合いがあるのか。」


メディルの鋭い指摘に、クリスは口元を歪めて笑う。


クリス:「それだけじゃないんだけどね。魔女さん」


クリスの視線がメディルへと向けられる。挑発的な眼差しに、メディルは妖しい光を宿した瞳で、にやりと不敵な笑みを浮かべた。




シャルクス:《呪文》闇の剣よ


シャルクスの詠唱と共に、虚空から漆黒の剣が出現し、クリス目掛けて鋭く斬りかかる。クリスは咄嗟に反応し、その杖で闇の剣を受け止めた。キン、と硬質な音が響く。


クリス:「シャルクス!」


クリスの叫びも虚しく、シャルクスは血走った瞳で言い放つ。


シャルクス:「お前が誰であろうと、俺の邪魔はさせねぇ」


その言葉には、理性の欠片も見当たらなかった。剣を受け止めながらも、クリスはシャルクスの瞳の奥に宿る狂気を見逃さなかった。


クリス:「その目……操られているな」


クリスは漆黒の剣を杖で押し返し、メディルを睨みつける。


クリスに睨みつけられたメディルは、挑発的に笑みをこぼす。


シャルクス:「うるさい!」


シャルクスは叫び、後方へ跳躍し、距離を取る。クリスも同時に身を引き、二人は空間を挟んで対峙する。


シャルクス:「《呪文》黒炎!」


クリス:「《呪文》雷光よ!」


シャルクスの放った黒炎の球と、クリスの雷光の球が空中で激突した。爆裂音と共に、衝撃波が空間を揺らし、光と闇が交錯する。



その激戦を、少し離れた場所からメディルがほくそ笑みながら眺めていた——が。


ワードック:「高みの見物かい。させぬよ」


不意に、真正面から現れた隻腕のドワーフ・ワードックが戦斧を振りかざし、メディルへと斬りかかる。


メディル:「っ……!」


メディルは咄嗟に後退するが、肩をざっくりと斬られ、鮮血が舞う。


メディル:「貴様は……隻腕の狂犬か」


肩を押さえながら睨みつけるメディル。


ワードック:「ほぉ、久しく聞かぬ名じゃたがな。お前さん、よお知っておるな」


ワードックは目を細め、その表情に微かな笑みを浮かべた。


メディル:「フン。魔族であんたの二つ名を知らない奴はいないわよ」


メディルが手を離すと、斬られた傷はすでに癒えていた。魔族の再生力が、彼女の余裕を支えている。


ワードック:「欲望あるとこ魔族あり、か」


ワードックは戦斧を構え直し、再び突進する。


メディル:「そういうことさ」


メディルも漆黒の爪を伸ばし、迎撃の構えを取った。




シャルクスとクリス。メディルとワードック。四人が激闘を繰り広げてる後ろで、リーアはまだ、金塊に張り付いていた。



















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