第4話 黄金に笑う女

その夜――冒険者の宿屋「アーポット亭」の地下倉庫に、二つの影がひそかに忍び込んだ。


シャルクスとメディルだ。


二人は宿屋の見張りの目をかいくぐり、物音を立てないように足を滑らせながら、地下倉庫の薄暗い空間へと踏み入った。


だが、薄暗い室内は思ったより狭く、埃をかぶった生活雑貨が無造作に積まれているだけで、黄金の気配はまるでなかった。


メディル:「何もないじゃないか。」


メディルは腕組みをして壁にもたれながら、悪態をついた。


シャルクス:「・・・・」


シャルクスは無言で、ポケットから一枚の金貨を取り出す。


シャルクス:《呪文》黄金よ、光のある所を示せ。


金貨を掲げ呪文を唱えると、金貨が眩いばかりに光り輝き、一筋の光が地下倉庫の床の一点を示す。


メディル:「そいつが、アーポットのところにあった手がかりか。」


横からメディルが低く感嘆の声を漏らす。


シャルクスは地下倉庫の棚からスコップを手に取り、無造作に床のレンガを叩く。


シャルクス:「ここだな」


壊れたレンガの隙間から、ひっそりとマンホールの蓋が姿を現した。


メディル:「そうね」


メディルは淡々と頷く。そして、


メディル:「頑張ってね♪」


重たい蓋も、シャルクス一人に持ちあげさせ、メディルは見守るだけであった。


二人がマンホールに備え付けられた梯子を伝って降り立った先には、さらに奥へと続く通路が広がっていた。


地下の闇に包まれながら、シャルクスは小声で呟いた。


シャルクス:《呪文》光よ。


指先からほのかな光が放たれ、二人の足元を優しく照らし出す。


慎重に、しかし確かな足取りで、奥へと進んでいく。


それから、どれほどの時間が経っただろうか。


二人が降りていった梯子から、今度はクリスとリーア、そして隻腕のドワーフであるワードックが降りてきた。


クリスはパチンと指を鳴らした。


クリス:《呪文》光よ


そのひと声と共に、通路全体が明るく照らされ、辺りの壁や床がくっきりと浮かび上がる。


リーア:「まさかウチに、こんな場所があるなんてな」


リーアは物珍しそうに辺りを見回し、感嘆の声を漏らした。


クリスは引き締まった表情で言う。


クリス:「さあ、行きますよ。」


リーア:「ああ」


三人は静かに、更なる深奥へと歩を進めていった。



通路を進むシャルクスとメディルの眼前に、突如として巨大な岩戸が立ちはだかった。シャルクスは掲げた光を強め、周囲を照らし出すと、その威容がはっきりと浮かび上がる。


シャルクス:(魔法による施錠か。……かなり厄介だな)


シャルクスは呟き、岩戸の表面に触れては、その複雑な魔術的構造を丹念に探り始めた。指先から伝わる冷たい感触と、わずかに感じる魔力の波動。しかし、彼の表情は次第に険しくなっていく。


シャルクス:(これは無理だな。)


彼は小さく首を振り、腕を組みながら後方に控えていたメディルに視線を送った。その仕草だけで、状況を察したメディルは、小さくため息をつく。


メディル:「仕方ないね」


メディルは軽く肩をすくめると、組んでいた腕を解き、両手をゆっくりと掲げた。次の瞬間、彼女の指先から、おぞましいほどに長く鋭利な黒い爪が、ぐにゃりと伸び始める。それはまるで、彼女自身の影が具現化したかのようだ。


メディル:「ハアッ!」


気合と共に、漆黒の爪が岩戸目掛けて振り下ろされる。


ジャキーン!


甲高い音と共に、岩戸は豆腐のように切り裂かれ、ゴトゴトと重々しい音を立てて崩れ落ちていく。


その先に広がっていたのは、全てを飲み込むかのような、深い闇の空間だった。


シャルクス:《呪文》光よ!


シャルクスの詠唱と共に、投げ入れられた魔導の光が暗闇を切り裂く。それはただの光ではなく、黄金色の輝きを帯び、瞬く間に空間全体を神秘的な金色に染め上げていった。


シャルクス:「これは、き……」


思考を遮るかのように、背後から突き刺さるような絶叫が響き渡る。


リーア:「金塊だああああ!」


思わず振り返ると、そこにいたのは、昼間追いかけ回してきた従業員の女――リーアだった。彼女は狂気を宿した瞳でこちらに向かって勢いよく突進してくる。


シャルクス:「な、なんだあ・・・・・。」


リーア:「うおおおおおおおお!」


呆然とするシャルクスとメディルの横を、彼女は風のように駆け抜け、黄金色に輝く空間へと一直線に飛び込んでいった。


空間の中央には、強大な金塊が鎮座し、その身から眩いばかりの光を放っている。それはまるで、この世の全ての富を凝縮したかのような輝きだった。


リーア:「大金持ちだああああ!」


リーアは目を爛々と輝かせ、まるで獲物に飛びかかる獣のように、その黄金の鉱物に勢いよく抱きついた。






















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