第2話 真夜中の侵入者

ロールブレア王国の王都オーディビル、アーポット商会の商館。



街の灯りが一斉に消え、静寂が支配する保管室。その闇の中、まるで夜の霧のように、ひとりの男がふわりと姿を現した。


シャルクス:(ここにほんとにあるのか。いや、あってくれ。頼むよ。神様。)


祈るような気持ちで天を仰ぎ、そっと手を合わせる。しかし、次の瞬間にはその眼差しは鋭く光り、保管室の奥深くを見据えていた。


保管室には、様々な形や大きさの魔法アイテムが所狭しと並べられている。どれもこれも、高値で取引される逸品ばかりだ。



暗闇の中、シャルクスは慎重に棚を探りながら進んでいく。すると、保管庫の中央に置かれた金庫から、他のどんなアイテムとも違う、異質な魔力の波動を感じ取った。



シャルクス:(これか)



シャルクスは金庫に近づき、念入りに調べ始める。どうやら、普通の鍵による施錠だけで、魔法的な封印はされていないようだ。幸運を確信し、彼はポケットから精巧なピックを取り出した。



鍵穴にピックを差し込み、慎重に、しかし淀みなく内部を探っていく。やがて――「カチリ」と小気味良い音が響き、鍵が開いた。



シャルクス:「よっしゃ…!」


シャルクスは小さくガッツポーズを決めて、ニヤリと不敵に笑う。そして、金庫の中を物色し、その中から箱一つ取り出した。


その時だった。



クリストファー:「誰だ?なにをしてる。」



背後から、凍るように鋭い声が響き渡る。



シャルクス:(まずい、見つかったか。)


シャルクスの背筋に冷たいものが走る。



振り返ると、入口付近に人影がぼんやりと見えた。まだ姿を完全に捉えられてはいないと判断し、シャルクスは素早く呪文を唱える。


シャルクス:《呪文》闇よ、我を隠せ!



闇がシャルクスの全身を包み込み、彼はそのまま暗闇に紛れて窓際まで移動しようとする。しかし――。



クリストファー:「フッ…。それで、隠れているつもりか?」



クリストファーの声は、余裕に満ちていた。ゆっくりとした足取りで近づいてくる彼は、まるで暗闇の中でもシャルクスの位置を手に取るかのように把握しているかのようだ。



クリストファー:《呪文》光よ、闇を剥せ!



クリストファーが呪文を唱えると、眩い光が保管室を包み込む。闇に紛れていたシャルクスの姿が、再び白日の下に晒された。


シャルクス:「くそっ…!」



舌打ちをしながら立ち止まったシャルクスだったが、すぐさま反撃の魔法を放つ。



シャルクス:《呪文》闇の剣よ。行け。



シャルクスの周囲に、次々と漆黒の剣が生み出されていく。それらは意思を持つかのようにクリストファーめがけて猛然と飛んでいった。


しかし、クリストファーは迫りくる漆黒の剣を前にしても、その余裕の表情を崩さない。




クリストファー:《呪文》爆発しろ!


キュイーン。

鋭い音が響き渡り、シャルクスとクリストファーの間の空気が歪められ、漆黒の剣を巻き込みながら凝縮する。



シャルクス:!



ヴォゴゴーン。



そして、凝縮された空気が一気に爆裂し、凄まじい爆風が四方八方に広がる。保管室にあったすべての物が、まるで塵のように吹き飛ばされていく。



シャルクス:「うあああっ…!」



荒れ狂う爆風に飲み込まれ、シャルクスは悲鳴と、砕け散るがれきと共に、夜の闇へと吹き飛ばされていったのだった。


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