第4話 魔女は欲望を喰らう



ワッツは舌打ち混じりに吐き捨てた。


ワッツ:「ちっ……何しに来やがったんだ、あの野郎は?」


クリストファーたちが去っていった扉を睨みつけながら、苛立ちを隠す気もなくロイドスに問いかける。


ロイドスはソファに身を沈め、肩をすくめて答えた。


ロイドス:「表向きは、苦情を言いにきたようですが……まあ、違うでしょうね」


ワッツ:「なに?」


ワッツは唸るような声で問い返し、ロイドスの正面のソファにドスンと腰を下ろす。拳を握りしめるその様子は、今にもテーブルを叩きそうな勢いだ。


ロイドスは、わずかに身を乗り出しながらワッツの瞳を覗き込む。


ロイドス:「あなたの手下が、彼の商館にお邪魔したようですね。その件で、牽制しに来た……といったところでしょう」


ワッツ:「……そうかい」


ワッツは視線を逸らし、唇の端を歪めて不機嫌そうに呟いた。




ロイドスはソファに深く身を沈めたまま、ふと目を細めた。


ロイドス:「それで……黄金の手がかりは、あったんですか?」


その瞳がギラリと光る。


ワッツは鼻を鳴らし、椅子の背にもたれながら答えた。


ワッツ:「ねぇよ。ガセだったんだろ。」


ワッツは忌々しげに舌打ちし、投げやりに答える。


だが、ロイドスは一切動じない。むしろ、真顔のまま静かに告げた。


ロイドス:「嘘ですね」


ワッツ:「……なんだと?」


ワッツの目が鋭くなり、ロイドスを睨みつける。だがロイドスは、まるでその視線を楽しむかのように淡々と続ける。


ロイドス:「今日は何をしに来たんですか、ワッツさん」


その冷静さが、逆にワッツの心を揺さぶる。沈黙が数秒、場を支配した。


そして──


ワッツ:「……チッ、敵わんな。オメェには」


睨みつけていたワッツの表情が、ふっと緩む。口元に浮かんだのは、苦笑とも皮肉ともつかない笑み。


ロイドスはその変化を見逃さず、静かに言葉を重ねる。


ロイドス:「ここに来たのは、何か“あった”からですよね」


ワッツは笑いながら、ロイドスの瞳を真っ直ぐに見返した。



ワッツ:「手下がな。そこで面白れぇ奴を見たってぇ、言うんだ。」


ロイドス:「面白ぇ奴?」


ワッツ:「ああ、見ただけだがな。」


ロイドスの怪訝そうに眉を顰める。


ロイドス:「どなたです?」


その問いに、ワッツは口角を吊り上げて笑った。


ワッツ:「昔の仲間だった、シャルクスってやつだ。……知ってんだろ?」


その名が口にされた瞬間、ロイドスの表情から笑みがすっと消えた。


ロイドス:「シャルクスさん? さあ、知りませんね。どちら様でしょう?」


ロイドスは苦笑を浮かべながら、肩をすくめてとぼけてみせた。


だが、ワッツの目は笑っていない。


ワッツ:「とぼけんな。そいつも黄金を狙ってんだ。オメェが知らねぇわけねぇだろ。」


低く、鋭く。まるで刃のような声が空気を裂く。


ロイドスは視線を逸らし、困ったように顔を伏せた――その瞬間。


メディル:「シャルクス・ラスパル、か。」


隣の部屋のドアがゆっくりと開き、一人の女が姿を現した。




ワッツ:「てめぇは・・・・。」


ワッツの声が低く唸る。


隣室から現れた女――その存在が放つ異様な気配に、ワッツは反射的に腰を浮かせ、ソファから立ち上がっていた。


目の前に現れた女は、怪しげな笑みを浮かべながら、音もなく歩み寄ってくる。


ワッツ:「なんで、テメェがここにいるんだあ。メディル。」



警戒感を露わにしているワッツに対し、ロイドスはソファに座ったまま、落ち着き払っている。


ロイドス:「あなたがしくじるからですよ。ガスパー様がよこしたんです。」


ロイドスは肩をすくめて苦笑する。


ワッツ:「ガスパーがねぇ。」


ワッツはフッと鼻で笑い、警戒心を解く。




メディル:「シャルクスは、バルデンの弟子だったハルト・ラスパルの息子さ。」


ワッツ:「ほぉ、だからあいつは、バルデンの黄金のことを知ってたのか。」


メディルは舐めるような視線でワッツをねちっこく値踏みする。


メディル:「感のいい男は嫌いじゃないよ。」


ワッツは鼻で笑って受け流した。


ワッツ:「なるほど。シャルクスはお前らに追い出された貴族ってわけか。」


ワッツは再びロイドスを睨む。


ロイドス:「よしてくださいよ。人聞きが悪い。」


ロイドスはソファから立ち上がる。


ロイドス:「世の中は弱肉強食です。あなたならわかるでしょう。」


ロイドスの言葉にワッツは視線を外して頷く。


ワッツ:「・・・そうだな。」


ロイドスは満足そうに頷き、背中で手を組む。


ロイドス:「ところで、頼みたいことがあるんですが・・・。」


ロイドスを媚びるような視線で、ワッツを見つめる。


ワッツ:「またかあ。」


ワッツは嫌そうに答える。


ロイドス:「ロメオドス街道でのお仕事に戻ってもらいたいんです。」


ワッツは怪訝そうに顔をしかめる。


ワッツ:「そっちで勝手に外しといてか。」


ロイドス:「そうなんですが、どうも商人どもが腕利きの冒険者を護衛に雇ったみたいでしてね。ここんとこ失敗続きなんですよ。」


ワッツ:「・・・腕利きの冒険者ねぇ。」


ワッツは興味深そうに頷いて、思案する。


ワッツ:「黄金の方はどうするだ。アーポットが相手なんだろ。」


メディル:「それは、私がやることになった。」


ワッツは割り込んできたメディルに視線を向ける。


メディル:「アンタは大人しく言われたやればいいのさ。」


メディルは鋭い視線をワッツに向けたまま、唇舐める。


ワッツ:「・・・・」


その不気味な視線にワッツは無言で睨み返す。


ロイドス:「私もバックアップを頼まれましたね。まあ、こちらのことは心配なさらなくてもよろしいですよ。」


ワッツ:「分かったよ。受けてやる。」


ワッツは不満げな顔をしつつも、了承した。


ロイドス:「ありがとうございます。ガスパー様もさぞお喜びになると思いますよ。」


ワッツ:「そうかい。」


ワッツはそう言って応接室を出ていった。


ワッツ:「あいつも、俺たちと同じだったのか。」


誰もいない廊下を一人歩きながら、ワッツはぽつりとつぶやいた。

















































































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