第3話 孤独な狂戦士 ワッツ・バンブス
煌びやかな衣装に身を包んだ貴族や商人たちが行き交う大通り。その喧騒の中を、ひときわ異質な男が歩いていた。
背中には、常人なら両手でも持ち上げられないほどの巨大な
「……誰だ、あれ」 「物騒な奴が来たぞ」
そんな囁きがあちこちで漏れるが、男は気にも留めず、堂々と歩みを進めていく。
そして、ひときわ豪奢な商館の前で足を止めると、重厚な扉を押し開け、ロビーへと踏み込んだ。
受付に立つ若い女性が、慌てて笑顔を作る。
受付嬢:「い、いらっしゃいませ。ご用件は……?」
男はニヤリと笑い、低く唸るような声で名乗った。
ワッツ:「ワッツ・バンブスだ。ロイドスに会いに来た。いるんだろ」
その名を聞いた瞬間、受付嬢の顔がこわばる。
ロイドス・ロイド。ガスパーの第1秘書であり、彼が最も信頼する腹心。
普段。表舞台に出てこないガスパーに代わり、面裏で活躍する重役である。間違ってもワッツのような風貌な男が気楽に訪ねられるような人物ではない。
受付嬢:「ア、アポイントメントは……お取りでしょうか?」
ワッツは肩をすくめ、口の端を吊り上げた。
ワッツ:「んなもん、取ってねぇよ」
受付嬢:「‥あ、ちょっ、困ります。お待ちくださ――」
制止の声を背に、ワッツはズカズカと奥へと進んでいく。
その瞬間、奥の廊下から甲冑に身を包んだ守衛たちが飛び出してきた。
守衛:「待て、貴様――ぐえっ!」
先頭の守衛が何か言いかけた瞬間、ワッツの拳が唸りを上げて飛ぶ。鉄兜ごと顔面を打ち抜かれ、守衛は壁に叩きつけられて沈黙した。
ワッツ:「俺を止めたきゃ、殺す気できな。……ま、それでも無理だけどな」
挑発的に笑うワッツ。その言葉通り、守衛たちの攻撃はことごとくかわされ、逆に次々と殴り倒されていく。
拳が唸り、甲冑が軋み、悲鳴が響く。だが、ワッツの動きは一切ぶれない。まるで、戦場を渡り歩いた猛獣のように蹂躙していく。
そして、すべての守衛を殴り倒したワッツは、震えあがっている受付嬢に振り返る。
受付嬢:「・・・・ロイドスは、応接室に接客中です。」
受付嬢はおどおどしながら、ロイドスの居場所を告げた。
ワッツはニッと笑う。
ワッツ:「ありがとよ。こいつら、役立たずだ。もっと腕利きを雇いな」
そう言い放つと、大声で笑いながら、奥へと消えていった。
クリストファー:「なんだと、この野郎!」
応接室の前に差し掛かったワッツの耳に、怒鳴り声が突き刺さる。
ワッツ:(喧嘩か?……面白ぇ)
眉ひとつ動かさず、彼はノックもせずにドアノブを握った。そして、躊躇なく押し開ける。
バタン。
室内では、ロイドスが大柄な男に胸倉を掴まれ、壁際に追い詰められていた。
ロイドス:「あっ、ワッツさん! いいところに!」
まるで溺れる者が藁を掴むような目で、ロイドスが助けを求めてくる。
ワッツ:「・・・」
ワッツは無言で部屋に足を踏み込む。
ワッツ:「見た顔だな。どっかで会ったか?」
ワッツは二人に近づきながら、淡々と尋ねる。
クリストファー:「ねぇよ。よく言われるがな。」
クリストファーは即答し、ロイドスを放す。ロイドスはすぐさまワッツの後ろに回り込む。
ロイドス:「や、やっちゃってください。ワッツさん。」
ロイドスはワッツの背後で震えながら促す。
ワッツ:「・・・・」
そんなロイドスに呆れつつも、ワッツはクリストファーを睨みつける。
クリストファー:「やる気かあ。」
クリストファーは不敵な笑みを浮かべ、拳をゴキリと鳴らした。
ワッツ:「いいぜ。」
ワッツはニヤリと笑い、返事を返す。
エリーゼ:「やめなさいよ。」
ワッツとクリストファーの間に割って入るように、エリーゼが一歩前に出る。
エリーゼ:「あなた、喧嘩弱いんだから。無駄に仕掛けないの。どうせまた負けるでしょ?」
ワッツ:「……は?」
思わずワッツの眉が跳ね上がる。今のは、聞き間違いか?
ワッツ:「弱い……? こいつが?」
信じがたいものを見るような目で、ワッツはクリストファーを見やる。
クリストファー:「殺し合いなら、負けねぇんだけどな」
頭をかきながら、クリストファーは妙に素直に認めた。
ワッツ:「おいおい、物騒な奴だな……」
エリーゼ:「それも、やっちゃダメ。単なる暴力よ。」
さらに物騒なことを言い放つエリーゼに、ワッツの背中にじわりと汗が滲む。
ワッツ:「……なんだよ、この二人……」
得体の知れない空気に、ワッツも一歩引き気味に仰け反る。
クリストファー:「……しょうがねぇ。ここは引いてやるよ」
静かに、しかし確かな圧を残して、クリストファーは一歩引いた。
その視線が、ワッツの背後で小刻みに震えていたロイドスに向けられる。
クリストファー:「ガスパーに伝えとけ。俺たち商人を締め上げるつもりなら――代償、高くつくぞ。」
その言葉に、ロイドスの肩がビクリと跳ねた。
だが次の瞬間、彼は深く息を吸い、襟元を正して前に出る。
ロイドス:「承知いたしました。必ず、お伝えいたします。」
ロイドスは端正で紳士的な態度を崩さず、穏やかに微笑みながら返答した。
クリストファーは満足げに頷くと、再びワッツに視線を戻す。
クリストファー:「おめぇもだ、ワッツ。覚悟しとけよ」
ワッツ:「……」
無言のまま、ワッツはその視線を受け止める。だが、目は逸らさない。
やがて、クリストファーは踵を返し、エリーゼと共に応接室を後にした。
バタン、と扉が閉まる。
静寂が戻った部屋で、ワッツはぽつりと呟く。
ワッツ:「……何者だ、あいつら」
ロイドス:「クリストファー・アーポットと、奥様ですよ」
即答するロイドスの声には、どこか緊張と畏怖が滲んでいた。
ワッツ:「そうか、あいつが、 “アーポット”か」
ワッツは、二人が消えていった扉をじっと睨みつけ、呟いた。
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