第7話 光の道筋を行け



シャルクス:「そこまでだっ!」


シャルクスは火花を散らして対峙しているカミ―アとクリストファーの間に迷いなく割って入る。


その手には、一枚の金貨が握られている。



カミ―ア:「シャル!」



カミ―アが叫ぶ。 だが、シャルクスは目を閉じ、静かに首を横に振った。



クリストファー:「やはり、おめぇが持っていたのか。」


クリストファーは口元を歪め、満足げに笑う。


カミ―アが森に向かって駆け出した瞬間、シャルクスは、懐の中で中身だけ抜き取り、空の箱だけをカミ―アに向かって投げたのである。



シャルクス:「こいつは、返してやる。だから、見逃してくれ。」


シャルクスは金貨を放り投げた。


クリストファー:「よくできました。」


クリストファーは金貨を受け取り、ニッコリと笑う。


カミ―ア:「黄金を諦めるのか。」


彼女の瞳が揺れる。問い詰めるような視線がシャルクスに突き刺さる。



シャルクス:「君がいなけきゃ、意味がないんだよ。この黄金は。」




シャルクスの答えに、カミ―アは目を見開き、困惑の色を浮かべる。



カミ―ア:「えっ・・・・どういうこと・・?」




クリストファー:「おめぇはなぜ、黄金を求める。」



カミ―アの言葉を遮るように、クリストファーが問いかける。


クリストファー:「ラスパル家の復興ためか。」



シャルクスは一瞬だけ顔を伏せ、そして静かに顔を上げる。


シャルクス:「・・・・最初はそうだった。・・・だけど、今は違う。」



クリストファー:「ほぉ、今は、なんだ。」



クリストファーの声は淡々としているが、その眼差しは鋭い。


シャルクスはカミ―アに視線を向ける。



カミ―ア:「・・・・・」



彼女は何が何だか分からないような様子で呆気にとらわれていた。 その表情が妙に可笑しくて、シャルクスはふっと微笑んだ。



シャルクス:「ある人と約束したんだ。その約束を果たしたい。」


シャルクスの瞳は、まっすぐで、迷いがなかった。 その眼差しに、クリストファーの厳しかった表情が少しだけ緩む。


クリストファー:「誰が黄金を手にしなきゃいけねぇか、わかってるようだな。」



シャルクス:「ああ。わかってる。」



シャルクスは力強く答えた。




クリストファー:「いいだろう。じゃあ、こいつはご褒美だ。」


シャルクス:「えっ。」


間の抜けた声がシャルクスの喉から漏れる。


クリストファー:《呪文》黄金よ。光への道筋を記せ



クリストファーが金貨を高々と掲げ、詠唱する。


途端、金貨はそれ自身の輝きを増し、まばゆい光を放ち始めた。夜空を切り裂くように、一条の光が遠い空へとまっすぐ伸びていく


シャルクス:「なんだ……?」


シャルクスとカミーアは、呆然と夜空に描かれた光の筋を見上げていた。


クリストファー:「光の指す道筋を行け。そこにオメェの求める黄金はある。」


クリストファーはそう告げると、掲げた金貨をぐっと握りしめる。空に伸びていた光の筋は瞬く間に消え去った。


クリストファー:「ほらよ」


彼はシャルクスめがけて金貨を放り投げる。シャルクスは慌てて両手でそれを受け止めた。


シャルクス:「……どういうことだ?」


眉をひそめ、金貨を握ったまま問いかけるシャルクス。その声には、戸惑いと警戒が滲んでいた。


クリストファーは、そんな彼を見てふっと口元を緩める。


クリストファー:「そいつはな。バルデンの見つけた黄金から作られたもんだ。言わばバルデンの黄金の一部だな。」


シャルクス:「……これが」


シャルクスとカミ―アは金貨を凝視する。


クリストファー:「そいつが持つ魔力が黄金へと導いてくれる。」


シャルクス:「・・・そうか。」


まだ釈然としてない様子で、シャルクスは金貨を見つめる。


クリストファー:「オメェは自分の力でそいつを手に入れたんだ。だから、もっと喜びな。」


クリストファーは微笑みながら、シャルクスの肩に手を置く。


シャルクス:「・・・そうだな。」


ようやくシャルクスは微笑みながら視線を上げる。


クリストファー:「だが、オメェは一つの苦難を乗り越えたにすぎねぇ。この先、まだまだ、多くの苦難や試練が待ち受けている。」


シャルクスは顔を引き締め、クリストファーの目を見ながら、黙って頷く。


クリストファー:「まずはガスパーとの因縁をはらして来い。奴もバルデンの黄金を狙っている。きっとオメェに食いついてくるはずだ。」


シャルクスは力強く頷いた。


シャルクス:「わかったよ。」


シャルクスの返答に、クリストファーは頬んでから、きょとんしているカミーアに目を向けた。



クリストファー:「おめぇはまだ、自分の因縁が見えてねぇようだな」


カミ―ア:「あたいの因縁……」


カミーアは眉を顰める。


クリストファー:「オメェはそろそろそれに挑まなきゃいけねぇんだがな。」


カミ―ア:「やだよ。そんなの。」


カミ―アはクリストファーを挑発するような鋭い視線で睨みつける。


カミ―ア:「あんたの言う事は、何一つわかんねぇだよ」


クリストファーは意に介さず、楽しげに笑った。


クリストファー:「まあ、いいさ。だけどな。」


クリストファーはシャルクスを一瞥してから、話を続けた。


クリストファー:「すでに、オメェの因縁を晴らすために動いている奴がいることを忘れちゃいけねぇぜ。」


カミ―ア:「えっ?」


シャルクス:「・・・・」


そう言い残すと、クリストファーは二人から離れていく。


クリストファー:「因縁晴らして、未来を掴んで来い。二人とも。」


背中越しに響く言葉と共に、クリストファーの姿は暗い夜道へと消えていった。







































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る