第5話 クリストファー・アーポットの襲来
カミーア:「ラスパル?」
その名を耳にして、カミーアは首を傾げた。彼女はシャルクスのフルネームを知らなかったのだ。
カミーア:(あの男、一体何者だ。)
カミーアは目を細め、クリストファーを鋭く睨みつける。警戒の色が濃くなり、指先が剣の柄に触れる。
シャルクス:「…な、なぜ俺の名を知っている…。」
シャルクスの声は震えていた。驚きと困惑が入り混じった表情で、クリストファーを見つめる。
クリストファー:「おめぇとは一度会ったことがあるんだが…覚えてねぇか?」
クリストファーはにやりと笑いながら言う。その余裕に満ちた態度が、シャルクスの記憶を刺激する。
シャルクス:(こいつ…誰だったかな。)
シャルクスは記憶の糸を手繰るように、クリストファーのにやけた顔を凝視するが、なかなか思い出せない。
クリストファー:「おめぇの兄貴とは飲み友達だったんだけどなぁ。」
その一言で、記憶が一気に蘇った。
シャルクス:「…お前…クリストファー・アーポットか。」
その名を口にした瞬間、空気が一変する。
カミーア:「なに、こいつが…あのアーポット…!?」
カミーアの声が震える。
クリストファー・アーポット。伝説的な冒険家であるアーポット夫妻の息子であり、自らも偉大な魔法使いとして名を馳せる冒険家。
その人物が今、目の前にいるのだ。
クリストファー:「思い出してくれたかな。じゃあ、俺の物を返してくれ。」
クリストファーの声は冷たく、そして容赦がなかった。
シャルクス:「くっ…!」
シャルクスは拳を握りしめ、唇をかみ締めた。
ブルトス:「おい、まずいぞ。まさかアーポットが出てくるとはな。」
ブルトスが低く呟きながら、そっとカミーアの傍へと歩み寄る。
カミーア:「分かってる。」
カミーアは苛立ちを隠しきれず、眉間に皺を寄せながら短く答える。だが、その瞳は冷静さを失ってはいなかった。
ジャン:「姉さん、ここは引いたほうがよさそうですぜ。」
ジャンもまた、声を潜めて忠告する。その表情には、明らかな焦りが滲んでいた。
カミーア:「……」
カミーアは何も言わず、ただクリストファーに対峙しているシャルクスの背中を見つめていた。
シャルクス:「なんのことかな。」
シャルクスは肩をすくめ、わざとらしく惚けてみせた。無意味だとわかっていながらも、わずかな時間稼ぎに賭ける。
だが――
クリストファー:「お惚けか。やめときな。また吹っ飛ばされるだけだぞ。」
クリストファーは余裕の笑みを崩さず、首を横に振った。その瞳には、容赦ない攻撃的な色合いが滲んでいる。
シャルクス:「……っ」
シャルクスは言葉を返せず、ただ黙り込む。額にはじわりと汗が滲み、喉がひりつくように乾いていた。
シャルクス:(渡すしかないか・・・だけど)
シャルクスは懐に手を滑り込ませ、盗んできた箱に触れる。今、この黄金の手がかりであるこの箱をどうしても渡すわけにはいかなかった。
シャルクス:(もう、引くに引けねぇんだよ。こっちはよぉ。)
シャルクスは覚悟を決め、口を開こうとしたその時、
カミ―ア:「あんたに先を越されてたようだね。シャル。」
背後からカミ―アの声が響いてきた。
シャルクス:「カミ―ア。」
シャルクスは静かに振り返り、彼女と視線を交わす。彼女の視線の中に、シャルクスは何かを感じとる。
カミ―ア:「仕方ないね。あたいらは、おとなしく退散することにするよ。」
カミーアはそう言い残し、ブルトスとジャンに目配せをすると、三人はゆっくりと森の奥へと歩き出す。
その背に、クリストファーのからかうような声が投げかけられる。
クリストファー:「おい、恋人が困ってるってぇのに、見捨てる気かぁ?」
その言葉に、カミーアは思わず足を止め、振り返る。
カミ―ア:「そ、そんなんじゃない!」
頬がわずかに紅潮し、目を逸らすカミーア。声には焦りと、否定しきれない感情が滲んでいた。
カミ―ア:「あたいは伝説の冒険者の息子にケンカを売るようなバカじゃないんだよ!」
クリストファー:「俺はそういうバカが好きだけどな。」
クリストファーはニヤリと笑い、余裕の表情を崩さない。
シャルクス:「もう、こいつらは関係ないだろ。」
シャルクスは静かに言い放ち、懐から箱を取り出す。
クリストファー:「ほう。」
クリストファーの視線が、カミーアからシャルクスの手元へと移る。
シャルクス:「あんたが用があるのは、こいつだろ。」
シャルクスはそう言って箱を差し出す。
クリストファー:「いい心掛けだ。」
クリストファーが箱に手を伸ばした――その瞬間。
「今だ!」
カミーアが叫び、ブルトスとジャンとともに森へ向かって全速力で駆け出す。クリストファーの視線が一瞬だけカミーアたちへと逸れる。
シャルクス:「カミ―ア。」
その隙を逃さず、シャルクスは懐から箱を取り出し、疾走する彼女に向かって放り投げた。
放り投げられた箱は夜空に美しい放物線を描きながら飛び、カミーアの手元へと吸い込まれていった。
シャルクス:「よし」
シャルクスは拳を小さく握りしめ、成功に安堵の息を漏らす。
だが、クリストファーは余裕の笑みを崩さない。
クリストファー:「やるな。だが、俺はそんなにあまくねぇぞ。」
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