夕暮れの運動場
日が短くなっているな――と、きみは思う。
図書委員でない日もきみは図書室に
吉行淳之介『夕暮まで』は中年男と若い女性の関係を描いた小説だ。この影響で若い女を囲う働き盛りの男のことを「夕暮れ族」というようになったとか。それがいつしか「窓際族」のようにたそがれた意味で使われるようになったとか。
しかしきみはそこに日本と海外の違いを感じる。フランス文学では人妻と若い男の不倫が多いのと対照的だときみは思う。
そしてどちらかといえば自分は仏文の方だと結論づけた。
きみの前に銀髪の女神が現れた。
「そろそろ時間よ」
「鍵が閉まる前には出ます」ときみは言う。
すでに貸し出し窓口は閉鎖されていた。ここに残っているのは勉強会グループだけだ。
「すっかり日が陰るようになりましたね」
「外はまだ明るいのよ」
室内の方が暗く感じると女神は言う。
なるほど――ときみは腰を上げた。
二人で窓際に向かう。
閲覧室の窓から中庭が見渡せる。
校舎の隙間からグラウンドもわずかながら見える。
たしかにまだ明るさはある。
防音サッシのため外の音は聞こえない。蝉の声も聞こえない。
「サッカー部はまだいるのかしら?」
運動場の中心は見えない。しかし端は見える。
そこにチアリーダー姿の一団がいた。その中にきみの生まれながらの相方もいた。
頼まれたら何でも引き受ける。それがきみの相方だ。
夕日を浴びて光るその美しい姿にきみは見とれる。
「応援団は昔から助っ人の寄せ集めね」
「先生も助っ人されたのですか?」
銀髪の女神はこの学園の卒業生でもあった。
「……あったわね、そういうことも」
女神はわずかに頬を赤らめ青春の日を懐かしんでいるようだった。
きみは遠く離れたところで跳躍するきみの相方に目を向ける。
小さくてもその眩しいばかりの笑顔はわかる。小鹿のような脚が高く跳ねる。くびれた腰と腹は
ふと気づくと校内に残っていた男子生徒たちがチアリーダーたちを食い入るように見ていた。
自分のことを棚に上げ、きみは彼らを
「見てみたかったですね、先生の助っ人姿」
きみは女神の見開かれた目を見つめる。
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キャスト
きみ
銀髪の女神
(※) 『気まぐれの遼』
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