リベリオン帝国中央部担当者の怒り

 ミネルバたちは歩き去る。失意と不安が見て取れた。

 グランディールがリュートをかき鳴らしながらついていったが、おそらく何の励ましにもならないだろう。

 メリッサは両腕を組んで悩んだ。


「本当にこれで良かったのでしょうか? ミネルバさんたちにとって良い結果だったのでしょうか?」


「これしかなかったと思うぜ。双方に死亡者が出なかったんだ。奇跡的だと思うぜ」


 ダークが遠い目をした。

「殲滅戦を覚悟していたのによ」

「そうですわ! 私ならミネルバたちをあっという間に撃退しておりましたわ!」

 シルバーが胸を張る。

 クリスは深々と頷いた。

「シルバー様なら当然です」

「クリスはよく分かっているわね」

 二人の会話を聞きながら、ダークは口の端を引くつかせた。

「てめぇらがミネルバをどうするかなんて、どうでもいいぜ。それよりも、俺に関するデマを流した事だ。覚悟はできているよな?」

「あら? 私に何の覚悟がほしいのかしら?」

 シルバーは悩まし気に小首を傾げる。

 ダークの切れ長の瞳がぎらつく。ダークの周囲は、空気が凍てついている。


「俺がハーレムを作っているなんてデマを故意に流したよな? エリックを始め、軍部が騙されていたぜ。敵の流した情報に踊らされるならまだ理解できるが、味方をいたずらに欺くなんざ許される事じゃねぇよ」


「もしかして……本気で怒ってらっしゃるの?」


 シルバーの表情が青くなる。本気になったダークに敵わないのだろう。

 ダークはゆっくりと頷いた。

「何の罰もないと誰が言うと思うんだ?」

「わ、私だってただのいたずらで噂を流したわけではありませんわ。メリッサを守るために仕方なく……!」

「人生最期の言葉はそれでいいか?」

「私が殺されますの!?」

 シルバーは両目を丸くした。

 ダークは露骨に舌打ちをする。

「半殺しにされても文句が言えない事をした自覚はあるよな?」

「そ、そんな事はローズベル様が許しませんわ! 東部地方担当者の私に危害を加えるなんて!」

「中央部担当者の俺に全く権限がないと思っているのか?」

 ダークが両袖からナイフを取り出す。


「ナイフで切り刻まれるかワールド・スピリットで押しつぶされるか選べ」


「お待ちください! シルバー様の行いは僕に責任があります!」


 クリスがシルバーを庇うように前に出て、両手を広げた。

「シルバー様を切り刻んで国中を引き回したうえに磔にして押しつぶすくらいなら、僕を靴で踏みつぶしてください!」

「……そこまで言ってねぇし、てめぇを罰するつもりもねぇよ」

 ダークは冷や汗を垂らしてドン引きしていた。

 クリスが鼻息を荒くし、一歩ダークに近づく。

「ダーク様の靴の味を知りたいです」

「おい、シルバー! クリスの暴走発言を何とかしろ!」

 ダークが怒鳴ると、シルバーは得意げに鼻を鳴らした。

「クリス、私に手出ししないようにダークと交渉してくださる?」

「この身体を使えば良いのでしょうか?」

 クリスは真顔でダークに近づく。

 ダークは心底嫌そうな表情で後ずさった。


「コズミック・ディール、グラビティ」


 凶悪な重力で二人を押しつぶす事にした。

 クリスがうめき、シルバーが悲鳴をあげる。

「いきなりワールド・スピリットなんて卑怯ですわ!」

「うるせぇよ、これくらいですんで良かったと思え!」

 ダークは溜め息を吐いた。

 メリッサは戸惑っていた。

「ダーク、そのへんでいいと思います。シルバー様はきっとデマを流さないように心がけると思います」

「この女が素直に反省するか分からねぇが、また何かあればとっちめるぜ」

 ダークはナイフをしまい、凶悪な重力を解除する。

 シルバーとクリスがよろよろと起き上がる。

「酷い目に遭いましたわ」

「癖になりそうです」

 ダークはこめかみを怒張させた。

「てめぇら全く反省しねぇのか」

「ダーク、二人はいつか分かってくれると思います。痛めつけても変わらないと思います」

 メリッサはシルバーに微笑み掛ける。


「私を守ろうとしてくださった事に感謝しますが、今後はデマを控えてくださいね」


「偽の情報でかき回す事も大事だと思いますけど……分かりましたわ」


 ダークが睨んでいるのに気づいて、シルバーは頷いた。

 ダークは呆れ顔になる。

「ここの用件は終了だぜ。暑くなる前に帰る。コズミック・ディール、テレポート」

 ダークとメリッサが姿を消した。

 シルバーとクリスは互いに顔を見合わせた。

「今度はどんな噂を流しましょう?」

「ハーレムがダメなのでしたら、二人は恋仲であると広めて良いのかもしれませんね」

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