未来を勝ち取る為に

 メリッサは大粒の唾を飲み込んだ。

 これから話し合う事は、リベリオン帝国の東部地方とクレシェンド王国の未来に関わる事だ。言葉を間違えれば、メリッサの意図が伝わらないだけでなく、両者の亀裂が埋まらなくなる。

 不毛な争いが止まらなくなる。

 メリッサは深呼吸をして、ゆっくりと口を開く。


「まずはリベリオン帝国の東部地方と、クレシェンド王国の目的を確認した方がいいと思います」


「そんなもの、闇の眷属の根絶に決まっている!」


 ミネルバが烈火の如く吠えた。まだ立ち上がるほどの体力はないが、赤い瞳は闘志に燃えている。

「私たちは闇の眷属に住処と生活を奪われた。彼らの生存は、私たちの滅びにつながる! 闇の眷属は世界の害悪だ!」

「言わせておけば随分と酷い事をおっしゃいますわね」

 シルバーの両目が吊り上がり、剣幕が厳しくなる。


「あなたたちが闇の眷属を虐げたから、反抗されたのでしょう? 私たちは当然の権利を主張しているだけですわ」

「黙れ! おまえたちの言葉と存在に価値はない!」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますわ!」


 話し合うどころか、激しい罵倒の応酬になっている。

 メリッサは、ミネルバとシルバーの様子を交互に確認して会話を切り出そうとするが、二人の応酬を止める隙がない。

 周囲の人たちはヤキモキしていた。

「やっぱり殺し合うしかないのか?」

「他の白い集団が復活したら怖いわね」

 明らかに険悪な雰囲気になっている。

 そんな時に、グランディールがリュートをめちゃくちゃにかき鳴らす。


「美人二人で何やってんだ!? こんな時こそ仲良くやろうぜ!」


 グランディールの声はよく通る。

 グランディールに視線が集中する。ミネルバとシルバーは、唖然としていた。

 リュートは無造作にかき鳴らされ続ける。

「時は金、世の中は金! 無駄にできるもんじゃねぇ! 二人とも俺様についてきな!」

 グランディールが明後日の方向を指さして、リュートの演奏を止める。

 辺りは静まり返っていた。

 ミネルバとシルバーの応酬は止まっている。

 メリッサは勇気を出して言葉を紡ぐ。


「お互いの立場があるのは分かりました。仲良くするのは難しいでしょうけど、争いはお互いを消耗させると思います」

「……そうだな。戦闘になったら、まだ敵わない。力の差を認めるしかない」


 ミネルバが俯く。

 シルバーは胸を張った。

「当然ですわ! 私たちは未来を勝ち取るために命をかけてきましたの。簡単に負けるはずがありませんわ!」

「未来はお互いにとって大切なものです。シルバー様もご理解いただけるでしょう」

 メリッサが微笑み掛けると、シルバーは鼻で笑う。


「ミネルバたちの未来まで大切にするなんて、お断りですわ」


「ミネルバさんたちを迫害すれば恨みや憎しみが募ります。闇の眷属は、より強い圧力を受けるでしょう。将来的に闇の眷属の為にならないと思います。シルバー様たちの未来を大切にするために、お互いに手出ししない方法を探った方がいいと思います」


 メリッサの言葉を聞いて、ダークは頭をぽりぽりとかいた。

「難しいと思うぜ。東部地方は水源が少なすぎるんだ。みんなで生き残るのは至難の業だぜ」

「そうですか……なんとか水源を増やせると良いのですが……」

 メリッサは視線を泳がす。

 砂漠で覆われた環境で水源を増やすなど、どれほど大変なのか見当もつかない。

 ミネルバは溜め息を吐いた。

「私たちの生活は限界だ。無謀を承知で争うしかない」

「へいへいへい、ちょっと待った!」

 グランディールが騒ぎ出す。

「俺様と旅をして答えを探そうじゃないか!」

「てめぇは旅をしていたのか?」

 ダークが両目を見開く。

 グランディールはリュートをかき鳴らす。

「旅は良くも悪くも面白いぜ!」

「……私たちに故郷を捨てろというのか?」

 ミネルバがガックシと肩を落とす。

 グランディールはチッチッチッと言いながら、人差し指を左右に揺らす。


「みんなが生活する答えを探すんだ! 俺様に任せろよ!」

「信用できない」

「ダイレクトすぎるぜ!? もっとオブラートに包めよ!」

「だが、シルバーたちの手出しさえなければ暮らしていける方法はあるだろう」


 グランディールがわめくのと無視して、ミネルバはシルバーに視線を向ける。

 シルバーはムッとしていた。

「攻め込んできたのは、いつでもあなたたちでしたわ」

「シルバー様から攻め込む意思はないのですね?」

 ミネルバが反論する前に、メリッサが確認をした。

 シルバーはふふんと鼻を鳴らす。

「私にそんな暇はありませんわ」

「停戦なら応じる。それでいいか?」

 ミネルバが尋ねると、シルバーは頷いた。

「よろしくてよ」

「分かった。私たちは引き上げる。だが、また何かあれば覚悟しろ」

 白い集団は少しずつ目を覚ましていた。


「……どうなったんだ? ダークが出てきたのは覚えているのだが」


「いったん引き上げる。停戦となった」


 ミネルバが告げると、白い集団に困惑が浮かんでいた。

「停戦ですか……?」

「俺たちの生活はどうなるのでしょうか?」

 次々に疑問を口にする。

 ミネルバはゆっくりと立ち上がった。

「生き延びるために新たな闘いをする。旅を考えてもいいだろう。私たちの目的は争う事ではない」

 ミネルバは右の握りこぶしを振り上げた。


「私たちの力で未来を勝ち取る!」


 白い集団は悟った。自分たちは戦闘に負けたのだ。そして、未来を勝ち取る為の新たな闘いが始まるのだ。

 その闘いの場を勝ち取るために、ミネルバはシルバーと話をつけたのだ。

 闘志に燃えるミネルバの瞳を見ながら、静かに涙を流す人間もいた。

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