第25話 放たれた光
佐藤からの連絡で、宇佐美が亡くなったことを知らされた。
源八の〈壁を壊す こうなる〉。
宇佐美は、壁を壊した結果として命を落としたということか。だとすれば、博士も危険だ。
宇佐美が持たされた“モダン”。あれは警察に回収され、科捜研へ送られた。すでに分析は終わったのだろうか。
今、旧日方邸に出向くつもりはない。それに私はまだジャーナリストとして、今すべきは博士の容体確認と、科捜研での情報入手。
だが、そんな機密を簡単に教えてもらえるとは思えない。
そうだ、佐藤と同行を依頼しよう。あいつなら極秘事項の一つや二つ、さらりと聞き出せるかもしれない。
「佐藤、今一度、同行してくれないか」
そうして私と佐藤は、再び情報入手のために動き出した。
◇
科捜研では、研究員の田中氏が応対してくれた。
私が“モダン”について尋ねると、田中氏はきっぱりと言った。
「極秘事項のため、口外できません」
そこで登場するのが、我らが佐藤である。
「田中さん、零光会の佐藤です。勉強会でお会いしたことがありましたね。良かった、田中さんで」
「ああ、佐藤さん。その節はどうも。……そちらの渡辺さんは記者さんということですが、記事にしない条件でならお話ししますよ」
そうか、零光会の信者は全国各地に大勢いるのだったな。
零光会信者同士の結束には、いつもながら驚かされる。
私も入信すべきか……いや、やめておこう。
「あの物体は放射線を出しています。長期間所持していると、被曝により生命の危機に脅かされます」
田中はそう言うと、軽くため息をついた。
「この報告が出されたあとは、発掘場所は封鎖されるでしょうね。オリビア教祖に多少なりとも所縁あるであろう山荘が、封鎖とは……残念です」
寺に保管されている“モダン”は、すべて放射性物質か。
ならば、国の管理下に置かれてしまうのも時間の問題だ。
待てよ。博士はモダンを抱えたままだ。
それでは、宇佐美と同じように被曝が続いてしまい命の危険がある。
私は慌てて博士の入院先へ電話をかけた。
モダンを、博士から引き離すようにと。
◇
私と佐藤は病院へ向かった。
モダンの回収のために。
寺に一時的に保管してもらえば、いずれ国の手に渡るだろう。それで良い。
道すがら私は考える。
佐藤を派遣したオリビア教祖、彼女の狙いは何だったのか。
石室そのものか、それとも“モダン”、つまり継花石の情報なのか。
旧日方邸の所有者は、日方ソトの後夫・城切源八、その息子の城切退助が相続したと聞く。
だが、石室に現れた“源八らしき大男”の存在を、退助は知っているのだろうか?
もし生きていれば百歳を越えるはずの源八が、あの時の姿では六十代にしか見えなかった。
なぜ“城切邸”ではなく、いまだ“旧日方邸”と呼ばれるのか。
それは、かつて不気味な噂が絶えなかった石室を囲うように、邸が建てられたという異様な経緯にある。
以来、人々はその屋敷を、畏怖と皮肉を込めて“旧日方邸”と呼び続けてきた。
オリビア・シモンズ・ヒガタ。
あの女は、最初から“モダン”の本質を知っていたのだろう。
腹黒いのか、それともただの狂信か。
私は横目で、隣を歩く佐藤の顔を見た。
無垢なようで、どこか底知れない信仰の影が宿っていた。
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