守宮の会談絵草紙 第十六話「無人のページ」
ふふふ、皆様、ようこそおいでくださいました。
このヤモリ、世の隙間を這いずり集めた物語をお届けするストーリーテラーでございます。
16話目となる今宵のお話は、デジタルな森の奥深くに潜む「無人のページ」の物語。
カクヨムという名の闇に、一度足を踏み入れたが最後、物語は読者を捕らえて離しません。
リンクの先に待つのは、恐怖か、それとも運命か。
このヤモリ、百話の物語を語り終えれば成仏の時を迎えます。
残り84話、さあ、画面の向こうへとご一緒に参りましょう。
【無人のページ】
カクヨムという名のデジタルな森。
その奥深く、投稿された無数の物語が静かに息づいている。
そこには、誰かが心血を注いで紡いだ文章が、まるで生き物のごとく蠢き、読者を待ち続けている。
だが、この森の奥には、決して日の目を見ない作品が存在する。
誰にも発見されず、ただ闇の中で囁き続ける物語――それが「無人のページ」だ。
ある夜、大学生の千波は、ネットの海を彷徨う中でカクヨムにたどり着いた。
課題の息抜きにと、何気なく「ホラー」タグをクリックした彼女の目に、奇妙な作品が映った。
タイトルはただ一文字、「闇」。作者名は「空白」。コメントも評価もゼロ。アクセス数は、なぜか「1」。
千波は首をかしげた。
誰かが一度だけこのページを開いたのだろうか?
それとも、システムのバグか?好奇心に駆られ、彼女はリンクをクリックした。
画面が一瞬暗転し、ブラウザが軋むような音を立てた。
やがて、ページが表示される。
そこには、黒い背景に白い文字が浮かんでいた。まるで、闇に浮かぶ幽霊の囁きのように。
【闇】
この物語は、読まれることを望まない。
だが、君はここに来てしまった。
今、君の目は私の言葉をなぞり、心は私の罠に落ちる。
目を閉じても遅い。このページは、君を離さない。
文章は短く、しかし異様な重みを帯びていた。
千波は背筋に冷たいものを感じたが、なぜかマウスから手を離せなかった。
スクロールするたび、文字がまるで脈打つように揺れている気がした。
ページの端には、リンクが蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
「次の章」「関連作品」「作者の他の物語」。
どれもクリックできない。リンク先はすべて「404 Not Found」
なのに、千波の指は勝手に動こうとする。
「やめよう」
彼女は呟き、ブラウザを閉じようとした。
だが、画面は固まったまま動かない。代わりに、テキストが変化し始めた。
君の名前は、千波だね?
千波の心臓が跳ねた。
自分の名前が、画面に浮かんでいる。
彼女は震える手でキーボードを叩き、ページを閉じようとしたが、カーソルは動かない。
代わりに、新たな文章が現れる。
君は私を見つけてしまった。
だから、私も君を見つけた。
この物語は、君なしでは完結しない。
部屋の空気が重くなり、千波の耳元でかすかな囁きが聞こえた。
誰かが、彼女の名前を呼んでいる。
声はどこからともなく響き、まるで部屋の四隅から這い寄ってくるようだった。
彼女は叫び声を上げ、電源コードを力ずくで引き抜いた。
画面が暗くなり、部屋は静寂に包まれた。だが、静寂は長く続かなかった。
机の上のスマホが、ひとりでに光り始めた。
通知音が鳴り、画面には見覚えのある黒い背景。そして、白い文字。
千波、どこへ行くつもり?
この物語は、君を離さない。
翌朝、千波の部屋は静まり返っていた。
彼女の姿はなく、開かれたノートパソコンにはカクヨムのページが映っていた。
作品のアクセス数は「2」に増えていた。コメント欄には、ただ一言。
「次は、君の番だ。」
カクヨムの森は、今日も新たな読者を誘い続ける。
無数のリンクが血管のように張り巡らされ、誰かを待ち続ける。
君がそのページを開くまでは――
ふふふ、皆様、いかがでございましたでしょうか。
カクヨムの闇に浮かぶ白い文字は、千波を飲み込み、新たな読者を誘い続けます。
一度開いたページは、閉じることを許さず、物語は永遠に君を追いかける。
このヤモリ、世の隙間を這いずり集めた物語の幕を、そっと閉じさせていただきます。
16話目を終え、残るは84話。
次なる物語も、皆様の心に冷たい爪痕を残すことでしょう。
では、またお会いいたしましょう。
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