【連載中】お願いを言え―自称魔法使いが抱いたのは、夜の闇に迷う青年だった

@yusa_michiru

自称魔法使い×借金まみれ青年の同居生活【1-1】王子様は勝手に隣で眠っている

「あれ?まだ生きている」


昨日ですべてが終わりのはずだったのに。

何故か隣には、ピアスが似合うイケメンが寝息を立てて眠っていた。


ほりの深い顔立ちから、明らかに外国人。

年齢は二十代終わりぐらいで、

長い金の髪に埋もれて眠る姿はおとぎ話の王子様みたいだ。


「⋯⋯ここ、⋯⋯俺の部屋だよな」


なぜ、自分の声はこんなにしゃがれているのだろうと思いながら、寝返りを打つ。


目に入ったゴミだらけの貧乏ワンルームの床には、使用済みのゴムが五、六枚。

そして、潤滑液のチューブが握りつぶされた形で空になっていた。


パッケージには見覚えがある。

いつかに備えて、自分が用意したものだ。


――すべてが睡眠薬とアルコールが見せた夢のはず。


内容は、昨夜。

泣きながら呻くツバサの部屋に、隣に眠る外国人がいきなり入ってきて、唐突に「お願いを言え」。


突拍子もなかったから、ツバサも「じゃあ、あんたとしてみたい」と欲望のまま答えたら、

彼は最初は困った顔をした。


そんな表情をされたら、夢でもきまり悪くなって、

「あはは。ウソウソ。誰ともせずに死ぬのが悲しかっただけ」

と、言い訳すると、キスから丁寧にしてくれた。


ツバサは視線を玄関扉へ。


こいつは、どうやって入ってきたのだろう?

鍵を閉めた上にチェーンロックもしていたはず。

開けた記憶はない。


「いくら酔ってたって、みだりにドアは開けないって」


なぜなら、訪ねてくるのは――

「北川ツバサさーん。借金返してくださいよ」

という輩ばかりだからだ。


「⋯⋯ってて」


狭いシングルベッドを抜け出そうとすると、身体が痛む。

特に腰。


床に足をつくと、かくんと膝が抜け、床に崩れ落ちた。


「やばっ。目が覚めちゃったかな?」


振り向くと案の定、彼の瞼は開かれていて、青い目がツバサをじっと見ていた。


(こいつも、借金取り?)


「ハ、ハロー。日本語通じる? ていうか、誰?」


少し寝ぼけていた相手の顔が、途端、険しくなる。

布団を跳ね上げ、ツバサに覆いかぶさるような勢いでガバっと起き上がると――


「アレクセイだっ! 昨晩、何度も呼んでおいて忘れるのか、お前はっ」


完璧なアクセントの日本語だった。

目を瞑ってしまえば、異国の人だとわからないぐらいの。


「ご、ごめん」


怒鳴られて、ツバサの身体は過剰反応。


アレクセイと名乗った男は、少しすねた態度で手首に結んでいた革紐で髪を結わえると、

素っ裸で床に降り立つ。


床にへたりこんでいたツバサは、見上げる形になった。


(⋯⋯でかい)


百八十センチを軽く越えてそうな長身。

膝の位置が高い。

腰の位置も。


股の付け根の茂みは薄茶色で、その下には肉茎がぶら下がっている。


(昨日、俺、あれで⋯⋯。夢じゃなければ、めちゃめちゃ喘がされた)


バッグをするとき、身長差のせいでなかなか腰の位置が合わなくてもたつき、

少し苛立ったアレクセイが、ツバサの腰をガッチリと掴んで挿入部を上向かせた――

あの時の衝撃が蘇る。


もちろん、身体を開かれた瞬間も。


ツバサが俯くと、アレクセイは玄関横にある風呂場の方へ。


「ごめんけど、湯、出ないよ。水も」


夢のような初体験だったが、テーブルの上にある督促状が現実、

というか地獄にツバサを引き戻す。


壁に手を付きながら慎重に立ち上がって、そこら辺に転がっていたシャツを羽織る。

続いてかなり古い型のエアコンを見た。


暦の上では夏は過ぎていても、まだまだ寝汗べったりで目覚める日が続いている。

なのに今、部屋はひんやり心地良い。


エアコンは付かないのに。昨晩、冷たい雨でも降ったのだろうか?


壁の鏡には、青白い顔の自分がいる。

吹き出物ができては消える口元は、少し痕が目立つようになってきた。


「ん?」


尻のあたりにねっとりした湿り気があって、片足を上げて股を覗き込んでみる。

情事の後が流れ出ていた。


「最後、ゴムが無くなって、それでもいいとお前に言われた。中に出せと願われて、その通りにした」


身体が、かっと熱くなる。

覚えがあるからだ。


「そこまでしていいのか?」と戸惑うアレクセイに、「してくれ」と懇願した。


生の体温を感じたいから、と恥ずかしいセリフまで吐いた気がする。


風呂場から戻ってきたアレクセイは湯桶を持っていた。そこからは、何故か湯気が上がっている。

彼はタオルをくぐらせた。硬く絞るとツバサの顎を取り、顔をぐいぐいと拭いていく。

続いて身体も。


少し熱いタオルは、昨晩、交換し合った体温みたいで気持ちがいい。


「もう、いいから。後は自分で」


この家で、湯なんて使えないはずなのにと疑問に思いながら、下半身に下がってくる手をやんわりと阻む。


すると、アレクセイがツバサのシャツを少し乱暴にめくり上げた。

おかげで、尻が丸出しだ。


「いいって」

「まだまだ垂れてくるはずだ。後始末の仕方、分かるか?そのままだと腹を下す」


「自分でやる」

「ほう。手慣れているのだな。昨晩、初めてだと言ったのは嘘か?」

「知識は、あるっ」


拒んでいるのに、指がつぷっとすぼまりに入ってきた。

 

昨晩、別のもので散々可愛がられたそこは、痛いというより甘く痺れている。

強引な男は、ツバサの背後に立ち、距離を詰めてくる。


「まだ柔らかいな」


耳元で言われ、ゾクゾクした。

指がもう一本入れられ、中でVサインみたいに広げられる。


「それ、だめっ」

「いいから、いきめ」


命令みたいな低い声に逆らえず、下腹に力を込める。 

まるで、アレクセイの手に向かって排泄している気分。


「⋯⋯あっ、ん」

本来の性器の方にも充血が極まる。


「勃っている。昨日あれだけ出したというのに。手伝ってやってもいいが、どうする?」

高速で頷くと、アレクセイの空いている手が、ツバサの陰部に添えられた。


すっかり固くなり、先端に密を浮かべている。

摩擦が始まって、ツバサは壁に額をこすりつけた。


同時に内部をこれでもかと広げられた時、羞恥が頂点に達して、アレクセイの骨っぽい大きな手に吐精していた。


「はあ、はあっ」


肩で息をしていると、アレクセイは自分の手を拭いた後、再び湯にくぐらせたタオルでツバサの身体を綺麗にしてくれた。


「荷物をまとめろ」

「え?」

「もう住めないだろう、ここには」


確かに、家賃を数か月延滞していた。

 

不動産会社から速やかに支払いを済ませ出ていくように、従わなければ法的措置を取るという通知が何通も来ていた。毒々しい赤色の封筒は開けていないが、最終通告の書面だろう。


「もしかして、追い出し屋の人?」


最近はどこも人手不足で外国人頼りらしいけれど、退去トラブル業界にまで?


アレクセイは数枚のゴミ袋に可燃と不燃をきちんと分けて入れた後、床に転がっていたリュックにツバサの携帯と充電器ともう小銭しか入っていない財布を突っ込んで渡してくる。


「布団は腐っているし、着られる服もなさそうだから、荷物はこれだけでいいな?あれはどうする?」


壁を指さされる。

前売りでもらえるカード型のムービーチケット。短冊形のも張ってある。

映画が趣味で、少し余裕があるときはたまに観ていた名残だ。


「いらない」

「じゃあ、出るぞ」


彼は、状況についていけていないツバサにキャップを被せ、手を引いて外に。


もう片方の手にはこの部屋の鍵と、督促状の束。脇には、質の良さそうな皮のクラッチバッグ。いや、古めかしいデザインだからセカンドバッグといった方が良さそう。おじさん、というかおじいさん臭いのに、ストラップ付きのそれをアレクセイが持つと雑誌のモデルみたいだ。


「俺、どこかに連れて行かれる?そこで強制労働?」

「まだ夢の中か?」

「でもさ、でもさ」


引きずられるようにして連れていかれた先はコンビニだった。


アレクセイは督促状の封筒から納付書を取り出し店員に渡し、支払いをしている。

電気、ガス、水道。携帯電話。合わせて数カ月分。

合計七万数千円。


次に連れていかれたのは牛丼屋で、

「肉だく牛丼。卵トッピング。味噌汁とお新香セットでいいか?」

「あ、うん」


食券を渡される。おごりらしい。

席につくと一分もしないうちに、湯気の立つ牛丼が出てくる。

アレクセイがぱきっと割り箸を折って食べ始めたので、ツバサもそれに習った。


久しぶりのまともな食事だ。

(これ、最後の晩餐ってやつか?)


どう考えても異常事態なのに、なんとなく他人事にしか思えないのは、七年の社会人生活の後遺症だと思う。



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ここでしか読めない 限定SSはピクシブ公開中。


さらに――

一人称で描かれる“完全版”の物語は

Kindle版『お願いを言え――そう言って、魔法使いは俺を抱いた』 で。


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