第69話 【仮面の男・1】


 強化魔法を何重にも掛けた俺の速度は、既に常識を超えた速度となっている。

 魔力が切れかけてもポーションで回復出来る為、俺は本来は数時間かかる移動距離を約三十分で到着した。

 現場には多くの見物人が居て、瑠衣の近くには湊達が居て未だに東条家と言い合いをしていた。

 俺はその現場へと飛び込み周囲の人間が驚いてる中、瑠衣に駆け寄った。


「瑠衣。顔は大丈夫?」


「ッ! ど、どうしてここに来たのよ?」


 仮面で顔が隠れていたせいか、一瞬瑠衣は俺が誰か判断が遅れ声で俺だと気づき驚いた反応をした。


「瑠衣が怪我したからだよ。流石に我慢出来なかった」


「ちょっ、ちょっと今そんな嬉しい事を言われたら照れるじゃない」


 瑠衣は俺の言葉にぶたれた時以上に、顔を赤く染めて近くにいた朱里さんから「お嬢様。落ち着いて下さい」と声を掛けられていた。


「な、なんだこの者は! 突然現れて邪魔をしおって! 今は大事な話し合いをしてるんだ。さっさとどけ!」


「……話し合いか、そこの問題児が勝手に迷宮に入って勝手に怪我して、治療拒否をしているこちらの方に無理に治療をさせようとしてる事が本当に話し合いなんですか?」


「も、問題児とは何だと! 東条家の若様に向かって!」


 父親からの言葉に対し、俺が言い返すと近くにいた覚醒者がそう叫んで殴りかかって来た。

 俺はその覚醒者の手を掴み、引っ張り地面に叩きつけた。

 「ゴキッ」と鈍い音を立てた男の腕は、本来曲がってはいけない方へと曲げられ気を失った。


「東条家は教育もなってないな、まだ話してる段階で殴りかかって来るなんてな」


 俺は近くにいたカメラマンに向かってそう言い、手で気を失ってる男を映すようにした。

 カメラマンはその俺の考えに気が付き、飛び掛かって来た男の顔面をカメラに捉えた。


「くッ、東雲家め覚えていろよ!」


 父親はこの場に居たら更に問題が大きくなると見て、睨みつける信二を連れて去っていった。

 そして俺は瑠衣達と一緒に移動して、ホテルの部屋に入った。


「一。どうやってここまで来たの? 誰かに送ってもらった感じじゃないけど」


「瑠衣がビンタされただろ? あの瞬間、店から飛び出してここまで強化魔法をかけて走って来たんだよ」


「……嘘でしょ?」


「流石に同じ前衛の俺でも、そこまで早くは移動できないぞ……一。一体、今レベルはいくつなんだ?」


 部屋には湊達も居て、俺の早さに全員が驚いていた。

 そして湊からそう聞かれた俺は、「昨日、丁度150になったな」と素直にその疑問に答えた。


「凄いですね……」


「驚きました。こんな早くにお嬢様とのレベルに差をつけるなんて……」


「ひゃ、150だと!? 覚醒してまだ一年も経ってないのにか!?」


「レベルが上がるのが早いとは思ってたけど、まさかこんな簡単に突き放されるなんてね……」


 瑠衣達は俺のレベルを知ると、全員が驚いた反応を見せた。


「まあ、ワイバーンとかとも普通に戦う階層だからな。ボスを倒したり、階層攻略の報酬でもレベルが上がるから早いんだと思う」


「だとしたら、福岡からここまでこんなに早く来れたのも納得するわ。このままいけば、人類最高レベルも更新しそうね」


「確か300後半だっけ? このペースで行けば、二年以内にはいけそうだな……」


 現在のトップレベルは300後半で、日本国内で言えば300前半を超えたらトップになれる。

 俺は一年以内にここまでレベルを上げられたので、このまま強い敵と戦い続けられるならかなり早い段階で最高レベルを更新しそうだ。


「それにしても、さっきの一はカッコよかったわね。まさか、Aランクの覚醒者を簡単に倒すなんて思わなかったわ」


「……え? あの覚醒者はそんなにランクが戦ったのか?」


「あら、知らなかったの? 東条家の抱えてる覚醒者の中でも、かなり上位の覚醒者で傲慢な態度で有名な覚醒者だったわよ。実力もちゃんとあって、戦っていたら問題が起きると思って私達も大人しくしてたんだけど……」


「そんな覚醒者を一は片手で簡単に倒してしまったからな、多分今頃ネットではかなり騒がれてると思うぞ」


 湊からそう言われて、俺はスマホで直近のニュースを確認した。

 すると、題名に〝仮面の男〟と書かれた記事があり、でかでかと俺が男を倒す瞬間が映し出されていた。

 コメントでは瑠衣を守りに来た騎士の様で、称賛の声ばかりだが一部はこの仮面は誰なんだ? という話で盛り上がっていた。


「そういや、その仮面はどうしたんだ?」


「マスターから貰ったんだよ。人の目を気にしてるってマスターは気付いてて、本当は卒業祝いで貰う予定だった物を今回の事件に行くと伝えたらくれたんだ」


「マスターさん用意がいいわね。もし無かったら、顔がバレて大変な事になっていたわよ」


 そう瑠衣から言われて、俺はネットの記事を見ながら「帰ったら、またちゃんとお礼を言うよ」と言った。

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