第68話 【自滅・4】
数日後、俺は朝早くのニュースを見て「やっぱり」と口にした。
ニュースには、東条家の攻略が失敗した事を大々的に報じられていた。
前回のSランクの覚醒者の時は重傷者は居たが死者は出ず、まだ被害も最小限の状態だった。
しかし、東条家の攻略では三分の一が亡くなったか行方不明の状態となっている。
何故、そのような事になったのか? 理由は臨時で入っていた覚醒者の口から報じられた。
「これは流石に……」
今回、リーダーを務めた信二が無理な攻略を強行したらしく、そのせいで約半分が事故に遭った。
罠や魔物の襲撃に何度も襲われ、覚醒者達が数時間説得してようやく攻略を諦めて帰還する事にした。
しかし、その帰り道に再び襲われその時に信二は覚醒者を囮にして逃げたと、覚醒者から証言された。
「逆にこれ、俺が家を抜けようとしたら反感を買いそうだな……」
こんな状態の家の長男が自分から家を抜けようとしてるなんて、もし世間にバレたらバッシングが酷そうだ。
そんな事を考えていると、瑠衣から着信があり俺は一コール目で出た。
「あら、出るの早いわね。もう起きてたの?」
「外は色々と騒がしいからな、最近は規則正しい生活をしてるんだよ。それより、ニュース見たけどそっちは大丈夫なのか?」
「う~ん。大丈夫と言えば大丈夫だけど、東条家は悲惨な状況でしょうね」
「ニュース見て知ったよ。ここまで酷い醜態を晒したら、逆に俺が絶縁する時にバッシング受けそうだなって見て思ったよ」
俺はそうニュースを見て思った事を瑠衣に言うと、瑠衣は「それは大丈夫よ」と特に問題と思って無さそうな解答をした。
「えっ、それはどうして?」
「だって、世間は一の状況を知ってるわよ? 東条家から酷い扱いを受けてて、家にも帰ってない事は知ってるわね」
「何でそんな情報が出回ってるんだ? も、もしかして瑠衣が流したのか?」
「いいえ、普通に記者が調べて報じた内容よ。流石に一の住んでる所は東雲家が隠す様に指示をしたけど、東条家での扱いに関しては隠さず報じられてるわ」
瑠衣からそう聞いた俺は、パソコンで調べてみると本当に俺の事が報じられていた。
コメントを見ても同情するような声ばかりで、非覚醒者に対する対応も今回の事件が明るみとなり東条家はかなり批判されていた。
「これは流石に元に戻すのは難しいだろうな……逆によく今まで隠し通せてたな」
「運が良かったのと、前まではここまで酷くなかったからでしょうね。それに世界が変化した当時、東条家は評判の良い会社でそれのおかげで初期の覚醒者を集めて会社を大きくしたってお爺様に聞いた事があるわ」
「それが今となっては非覚醒者を蔑ろにして、息子は覚醒者の命を結果的に捨てた者達ってか……先祖様が見てたら、そりゃもう酷い仕打ちをしてるだろうな」
その後、瑠衣は仕事があるからと通話を切り、俺は他のニュースを見ながら朝食を済ませた。
そして今日はアルバイトの日なので、制服を持って家を出た。
「一君、もうそろそろ卒業だね」
「そうですね。卒業後はバイトは辞めますけど、食事には絶対にきますから店は続けてくださいね?」
「ふふっ、大丈夫だよ。金銭的な問題では辞めないから、まあ怪我とか病気をしたら辞めるかもだけど」
「その時は俺を頼って下さい。瑠衣に頼んで治してもらうので」
老いて仕事が出来ないとかなら仕方がないが、病気や怪我で苦しみながら辞めさせたくはない。
その時は瑠衣に頭でも下げて、マスターを治してもらうと俺は言った。
「そうなると、老いて動けなくなるまでは続けられそうだね」
「最後までマスターが仕事してる姿見たいですからね。あっ、でも本当に嫌だったら辞めても良いですよ? 無理に続けさせるのは違いますから」
「大丈夫だよ。嫌な事があったとしても、一君や一君が連れて来てくれる人達の為にも続けたいからね」
マスターは笑いながらそう言い、俺とマスターは店の準備を終えて開店した。
それからお客さんの相手をしながら、テレビでニュース番組を映して手元が暇な時は見ながら仕事をしていた。
「あれ、あの子は一君の彼女じゃないかな?」
食器を洗っていると、マスターからそう言われた俺は洗っていた食器を置いてテレビを見に行った。
するとそこには瑠衣が映っていて、煩く叫んでいる信二が映っていた。
東条家に対して治療拒否と宣言していた瑠衣に対し、信二は他の回復職だと治らないから魔法を掛けろと叫んでいた。
信二側にはいつの間にか現場に駆け付けていた俺の父親もいた。
「ッ!」
次の瞬間、瑠衣は俺の父親から頬をぶたれた。
「は、一君?」
「……マスター。すみません、今日ちょっと急用が出来たのでここで上がらせてもらっても良いですか?」
「……大丈夫だよ。でも一君、行く前に渡したい物があるからちょっと待ってて」
俺の言葉にマスターはそう言って、奥に行くと直ぐに袋を持って戻って来た。
マスターは袋の封を開けると、中から黒い仮面を取り出した。
「一君が店を辞める時に渡そうと思って準備してたんだ。一君って覚醒者として、あまり知られたくない感じでしょ? もし顔を隠せる物をもう持ってるなら必要ないけど、貰ってくれたら嬉しいかな」
「ありがとうございます。丁度、欲しいと思っていました。それじゃ、行ってきます」
「うん。いってらっしゃい。無事に帰って来てね」
マスターからそう見送られた俺は店を出て、強化魔法を全力で掛け鹿児島方面へと走り出した。
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