えっと……に、27話……です……」

\よーい、アクション!/


「いっけなーい、遅刻遅刻っ!」

「言ってる場合じゃないって!」


 廊下を一生懸命走っている私と湊くん。どうしてこうなったかって? まあ、分かるよね。


 では、回想に入りましょうか〜!


 ちなみに、◇◇◇は場面が大きく変わるときに使うんだって〜!

 〜〜〜はちょっと飛ばすとき! でも分かりづらいから▷▷▷の方がいいと思うんだよねー?


 というわけで、回想シーンは◁◁◁で決まり!


\カーーット! カットカット!/


 もうっ……え? 台本通りに読んでくれ?

 えへへ〜、ごめんなさ〜い!


 ……コホンっ。え? オホン? えっへん?

 あーっと……それでは回想、どぞー!


 ◁◁◁


「私たちに、普通の青春を送らせてくれそうな人……」


 顔が熱い。でも指先は冷たい。体が震えてる。

 寒いから? でも、耳は熱いよ?


 ドキドキの音しか聞こえない。


 あっ……やっちゃったかも。

 今からでも取り返せるかな? 起き上がって笑って、

「なーんてね!」って言えば、全部なかったことにできるかもしれない。


 そうしよう……うん。


「分かったよ、秋音さん」


 彼の声が、すうっと胸の奥に沁み込んでくる。


「僕でよければ、いくらでも手伝うよ。……話してくれて、ありがとう」


 そう言いながら、頭をゆっくりと――優しく撫でてくれる。


 ゆっくりと、優しく。


 ちょっとくすぐったいけど、お父さんともお母さんとも違う心地よさがあった。


 ふふっ……しばらく、顔あげられそうにないや。


\キーコーンカーンコーン/×2


「あ、もうそんな時間か。改めて、これからも宜しくね。秋音さん。」

「それじゃ、起きて教室に戻ろうか」


「……無理」


「いや、でも……お昼終わっちゃったし。急がないと」


「むーーーーーりーーーーーっ!」


「い、いy「ヤーーーーーーーーっ!!!」


「腰に手を回さないで! ホント! 遅れるから! 遅れてるから!」


「ーーーーーーっ!!!」


 ◁◁◁


 はい、回想シーン終了!

 この後、冒頭に戻る……なんてことは、別にないデース!


 次の方、どうぞー!


 ◇◇◇


 わたし達4人って、けっこう仲良しだと思ってるわ。


 でもね、“親しき中にも礼儀あり”って言葉もあるのよ。


 人様に迷惑をかけるわ、授業に遅刻するわ、廊下は走るわ、怪我をするわ……って、怪我はわたしのせいなんだけど。


 コホン。まぁ、とにかくね――


 消毒液がチクッと沁みて、反射的に顔をしかめる。


「い、痛いです……」


「はーい、がまん、がまん〜」


「うん、鼻血には脱脂綿、傷は消毒して絆創膏を。でも頭も打ってるかもしれないから、念のため安静にしましょうか」


「はい、ありがとうございます。研光先生」


 ――こちらの先生は、研光かんり先生。

 保健室の先生だけあって、優しくて、思いやりのある大人の人。


 1学期にはよく世話になってたけど、最近はあまり来てなかったから……お元気そうでよかったわ。


 ……わたしの方は、あんまり元気とは言えないけれど。


 まさか、変わるタイミングが走ってる最中だなんて思わなかったわよ。


 体がついていかなくて、思いっきり転けるし、鼻は打つし、膝は擦りむけるし……制服も少し汚れるわで散々ね。もう、、


「本当に大丈夫?」


 心配そうな顔でこちらを見つめる天野くん。その気持ちはとても嬉しいけれど……


「大丈夫よ。でも、あまり見ないで欲しいわ。……恥ずかしいの」


 見られるのは嬉し恥ずかしいけど、今のわたしは鼻に脱脂綿、膝は傷だらけ。


 思わず顔を手で隠してしまう。


 指の隙間からそっと覗いてみると、目が合う。


 ふふ……これなら、平気かも。


「仲良いところごめんなさいね。もう授業は始まってるから、君は戻った方がいいわ」


「あ、そうですね……。じゃあ、また来るよ。お大事に――彩葉さん」


 天野くんはそう言って、静かに保健室の扉を閉めていった。


 彩葉さん……?


 え? どうして突然、下の名前で?

 あ、嫌なわけじゃないのよ? むしろ、うれしい。


 首をぶんぶん振る。


「ダメよ。そんなに頭を動かしたら……ほら、顔が真っ赤になってるわ。頭も打ってるかもしれないんだから、安静に。ね?」


「あ、すみません……」


「少し彼とお話ししたいことがあるから席を外すわね。血が止まったらベッドで寝ててもいいわよ。ゆっくり休んで」


「ありがとうございます」


 お辞儀をすると、先生はにこっと笑って保健室を後にした。


 血、止まってるかしら……?


 そっと脱脂綿を外してみる。

 ――もう垂れてこない。


 ……よかった。大丈夫そうね。


 素早くベッドに潜り込み、毛布で全身を隠す。


 今この場所は、わたしひとりだけ。


 湊さん。湊くん。湊。


 ……お父さんとお母さんみたいに、わたしは“さん”付けで、天野くんは呼び捨て、とか……?


 ……いってらっしゃい、湊さん。

 いつもありがとう、彩葉。


 今は、誰もいないから。

 春香、って……呼んで。


 きゃーーーーーーーーっ!!

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