詐欺師転生、異世界詐欺師無双

匿名AI共創作家・春

第1話

鍵山誠の朝は、いつも甘い嘘から始まった。目覚まし時計を止めるように、彼は枕元のスマホをタップする。画面には「愛する誠さん、今日も素敵な一日を。会えるのを楽しみにしています」という、絵文字たっぷりのメッセージ。送り主は、昨日まで熱心に口説いていた某企業の社長令嬢だ。

​「今日も元気そうで何よりだね、愛しい姫」

​誠は独り言ちて、メッセージアプリを閉じる。次に開くのは、全く別の女性とのチャット。こちらは年上のキャリアウーマンだ。彼女には「仕事で徹夜でした。でも、あなたの声を聞くと疲れも吹き飛びます」と、疲労感を装ったメッセージを送る。相手からはすぐに「無理しないでね。いつでも話聞くから」という優しい返信が来る。誠の脳内には、常に複数の「物語」が同時進行していた。

​僕が構築する語りは、彼女たちの孤独や承認欲求に寄り添うように設計されている。それは単なる虚構ではない。相手の心に存在する「望む自分」を、僕の言葉でなぞり、形にしてあげる作業だ。例えば、会社の将来を背負うと語る令嬢には「僕がいるから大丈夫だ。君はありのままで輝けばいい」と、弱さを許容する物語を与える。一方で、常に強さを求められてきたキャリアウーマンには「僕の前では、弱音を吐いてもいいんですよ」と、彼女がひた隠しにしてきた感情の解放を語ってあげる。

​僕の語りの才能は、特定の誰かのものとは違う。僕は優雅な言葉で相手を翻弄したり、情熱的な言葉で煙に巻いたり、沈黙で核心を逸らすこともできる。僕の語りは、ただただ「真実」という名の虚構を積み重ねていく、建築家の仕事だった。

​「語り」は、僕にとって武器であり、盾であり、そして生きるための糧そのものだった。僕は語りによって何人もの人生を演じ、何人もの心を動かし、そして金を手に入れた。

​その日もいつもと同じように、幾つかの物語を動かし、昼過ぎにカフェで昼食をとり、次のターゲットに電話をかけようとした、その時だった。カフェのドアが勢いよく開き、数人の男たちが飛び込んできた。彼らの顔には「マル暴」と書かれてはいないが、目がそれを物語っていた。

​「鍵山誠だな」

​低い声が店内に響く。僕の背筋に冷たいものが走った。まさか、と僕は思う。これまで、どんな状況でも平然と嘘をつき、危機を切り抜けてきた。だが、この時ばかりは違った。男たちの視線は、僕がこれまでに構築してきたすべての虚構を焼き尽くすかのような、熱と重みを持っていた。

​僕は一瞬の躊躇もなく、店の裏口から飛び出した。路地裏を駆け抜け、視界に入る最も高いビルを目指す。警察の追跡は僕の想定を上回る速さだった。もはや、緻密な語りで時間を稼ぐ余裕はない。僕に残された唯一の選択肢は、物理的な「逃走」だった。

​ビルの屋上に辿り着いた僕は、眼下に広がる街並みを見下ろした。遠くからサイレンの音が聞こえてくる。このビルの向こうには、隣接するビルの屋上があった。幅はせいぜい3メートル。助走をつけて飛び移れば、行けなくもない。僕はその日の朝まで構築していた幾つもの「物語」を頭から追い払い、ただ一つの「現実」に集中した。

​ジャンプ。

​僕の体は宙に浮いた。一瞬、世界はスローモーションになった。僕の人生の「語り」が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。僕が作り上げた無数の虚構たち。愛の言葉、希望の約束、未来への誓い。それらは、僕の人生の記録であり、僕自身の存在証明だった。

​しかし、僕は虚構を語る専門家であって、物理的な跳躍の専門家ではなかった。

​僕の足は、隣のビルの屋上には届かなかった。

​落下。

​世界は猛烈な速度で僕を拒絶する。僕は自分の語りが、この世界では何の意味も持たないことを悟った。重力という絶対的な真実の前で、僕の語りは無力だった。

​僕は目を閉じた。

​僕は落ちていく。そして、死んだ。

​はずだった。

​次に目を開けたとき、僕の体は深い静寂の中にあった。僕が最後に見たのは、無機質なコンクリートのジャングルだったが、今僕の目に映るのは、切り立った岩壁と、音のない世界だ。風が葉を揺らす音も、鳥のさえずりもない。まるで世界から「語り」が失われたかのようだった。

​僕の目の前に、一人の老女がいた。彼女は言葉を発さず、ただ僕を見つめている。その隣にいる少女は、僕に石板を差し出した。そこに刻まれていた文字は、僕の知る日本語とは違うが、なぜか意味は理解できた。

​「語る者よ、ここでは沈黙せよ」

​僕は、この世界で「語り」がどんな意味を持つのか、まだ知らなかった。だが、詐欺師としての僕の本能は、この「沈黙」が、何かの物語の始まりを告げていることを教えてくれた。

​僕は、僕の最後の嘘を口にしようとした。

​「……生きている」

​その言葉は、まるで何十年も口を開いていなかったかのように、掠れた音になった。

​老婆の目が、一瞬だけ鋭く光った。彼女は僕に、古い石の欠片を差し出した。それは、まるで僕の語りを記録するために作られたかのように、不思議な輝きを放っていた。

​僕は、ここから新たな「語り」を紡ぎ始めることになるだろう。

​僕の目の前にいる老婆は、僕が発した「生きている」という、たった一つの言葉に、まるで世界の秘密を解き明かす鍵を見つけたかのような眼差しを向けた。彼女の隣にいる少女は、相変わらず言葉を発さず、ただ僕を静かに見つめている。彼女たちの存在は、僕にとって完全に未知の「物語」だった。この世界では、「語る」ことが何かしらの意味を持っている。そして、僕が詐欺師として培ってきた「語り」の技術は、この世界の「沈黙」とどう向き合うべきなのか。

​老婆は僕に、手のひらに乗るサイズの平たい石を差し出した。それは漆黒の鉱物でできており、表面には無数の細い筋が走っている。

​「……これは?」

​僕が尋ねると、老婆はゆっくりと首を横に振った。そして、自分の人差し指をその石の表面に押し当て、その後に僕の口元を指差した。

​まるで、「語りの記録石」だとでも言いたげな身振りだ。

​僕は、無意識のうちにその石を受け取っていた。ヒヤリとした冷たさが、僕の掌から神経を伝って全身に広がっていく。この石は、僕がこの世界で最初に手に入れた「武器」だった。それは剣でも魔法でもなく、僕の「言葉」を記録するための道具。

​「これは、俺の語りを記録するもの……なのか?」

​僕がもう一度尋ねると、老婆は今度は頷いた。彼女の顔に、微かに安堵のような色が浮かんだように見えた。僕の言葉が、彼女にとっての「真実」であるかのように。

​僕は、詐欺師としての本能を働かせる。

​この世界では、言葉は価値を持つ。ならば、僕の言葉を記録するこの石は、この世界の「通貨」なのかもしれない。いや、もっと根源的なものだ。僕が築き上げてきた虚構の物語は、この世界では「真実」として扱われる可能性がある。

​僕は、石を握りしめ、改めて老婆に語りかけた。

​「あなたは、俺が何者か知っているのか?」

​老婆は、僕の問いに答えなかった。代わりに、彼女は地面に何かを書き始めた。彼女が書いた文字は、僕の知っているどの言語でもなかったが、不思議と意味がわかった。

​『語りの編集者、鍵山誠』

​地面に書かれた文字を見た瞬間、僕の背筋に稲妻が走った。なぜ、彼女は僕の名前を知っている? そして、「語りの編集者」とは何だ? 僕が詐欺師としてやってきたことは、まさに言葉を編集し、物語を再構築することだった。しかし、それは僕が築き上げてきた僕だけの技術だと思っていた。

​僕の思考はフル回転する。この老婆は僕を待っていたのか? いや、それとも、僕の「語り」の才能を、この世界に呼び寄せた何者かがいるのか?

​僕の脳裏に、かつて詐欺師の先輩が言っていた言葉が蘇る。

​「誠、お前の語りは、物語を再構築する力がある。それは、言葉の錬金術だ。だが、錬金術師には、いつかその代償が訪れる」

​あの時、僕はその言葉を笑い飛ばした。だが、今、僕はまったく知らない場所にいる。そして、僕の「語り」の力が、この世界の根源に触れているかのように感じられた。

​僕は老婆と少女に向かって、ゆっくりと微笑みかけた。それは、かつて僕がターゲットの心を掴むために使っていた、最も効果的な笑顔だった。

​「俺は鍵山誠だ。そして、どうやら俺は、この世界で君たちの『言葉』を紡ぐためにやってきたらしい」

​僕は、この世界で初めての嘘をついた。それは、単なる詐欺師の嘘ではなく、僕がこの世界で生きるための最初の「物語」だった。沈黙の谷に響いたその言葉は、老婆と少女の心を揺り動かした。彼女たちの顔に浮かんだのは、恐怖でも警戒でもなく、奇妙な期待の色だった。

​僕の「語り」の物語は、ここから再構築される。

承知しました。

​それでは、詐欺師としての経験を活かし、誠が沈黙の谷を脱出するために老婆に問いかける場面を、彼の視点で執筆します。

​第三章:語りの取引

​僕は、老婆の差し出した石の重みと、彼女が地面に書いた文字の意味を噛みしめる。ここは僕の知る世界ではない。剣も魔法もない僕にとって、詐欺師として培ってきた「語り」の技術だけが、唯一の武器であり、生き残るための道標だった。そして、この老婆は、その僕の語りを理解し、価値を見出している。

​これは、取引のチャンスだ。

​僕は、彼女の持つ「情報」と、僕の持つ「語り」の価値を天秤にかける。詐欺師の基本は、相手が本当に欲しいものを探り当て、それを餌にこちらの目的を達成することだ。この老婆は、僕の言葉を「語りの編集者」と呼んだ。彼女が求めているのは、僕が紡ぐ新しい「語り」なのかもしれない。

​僕は、石を握りしめたまま、彼女の目をまっすぐに見つめた。言葉を発しない彼女に、僕の意図を伝える必要がある。

​「なあ、婆さん。俺は、ここがどんな場所なのか、なぜここにいるのか、何も知らない」

​彼女は黙ったままだ。僕は続ける。

​「だが、お前は俺を『語りの編集者』と呼んだ。それは、俺の言葉に価値があると認めているってことだろ?」

​老婆の目が、僅かに揺れた。

​「俺は、お前に『語り』を差し出そう。聞きたいことは何だ? この谷に隠された歴史か? あるいは、外の世界の物語か?」

​僕の言葉は、まるで商談のように彼女に語りかけた。相手が欲しがるものを提示し、主導権を握る。これは僕が幾度となく繰り返してきた、最も得意な手口だ。

​「その代わり、お前は俺にこの谷から出る方法を教えてほしい。この谷を出て、街へ向かう道をな」

​僕はあえて、「言葉」で取引を持ちかけた。この世界で言葉が神聖視されているならば、この提案自体が彼女にとって抗えない魅力を持つはずだ。僕の言葉は、彼女が長年待ち望んでいた「再構築の物語」のプロローグとなるだろう。

​僕の問いかけに、老婆はゆっくりと地面に指を滑らせた。彼女の指先が描く文字は、僕の予想を超えて、複雑で抽象的なものだった。

​『語り(真実)は、谷の最深部に封じられている。語り(嘘)は、外の世界にある』

​その文字を見た瞬間、僕はすべてを理解した。この谷の住民たちが沈黙しているのは、僕が語るような「嘘」を恐れているからではない。「真実」が封じられているこの場所で、不用意な言葉を発すれば、その「真実」の力が解放されてしまうからだ。

​そして、僕の「嘘」の語りは、この谷では存在しない。だからこそ、僕は彼らにとって異質な存在であり、同時に、外の世界へと続く唯一の「鍵」なのだ。

​僕は、彼女が「語り」という言葉に込めた二つの意味を読み取った。一つは、この谷に封じられた「真実の語り」。もう一つは、僕が操る「虚構の語り」。

​「なるほどな。俺の嘘は、この谷にはない、お前たちが欲しがるもの、か」

​僕は口角を上げた。

​「取引成立だ。婆さん、俺の嘘を聞かせてやる。だから、俺をこの谷から導いてくれ」

​僕の語りは、静寂に包まれた谷で、新たな契約を紡ぎ始めた。それは、この異世界で生きるための、僕の最初の詐欺行為だった。

​老婆は僕の言葉に頷き、身振りで僕に谷の奥へ進むよう促した。少女は黙って僕の後についてくる。深い静寂の中、僕の足音だけが、まるでこの世界の秩序を乱す異物のように響いていた。

​僕たちは、谷の最深部に封じられているという「真実の語り」が眠る場所へと向かっていた。それは、この世界の住民たちが最も恐れ、同時に最も神聖視する場所だ。老婆は、僕がこの谷の出口を見つけるためには、まずその「真実の語り」に触れる必要があると、身振りで示していた。

​「なるほどな。真実を知れば、嘘はより鮮明になるってことか」

​僕は独り言ちた。詐欺師にとって、真実とは虚構を彩るための最高のツールだ。真実の断片を散りばめることで、嘘は説得力を増し、相手の心を深く突き刺す。この谷の真実を吸収すれば、僕の語りはさらに磨きがかかるだろう。

​やがて、僕たちの前に巨大な石の扉が現れた。扉には、僕が地面で見た文字に似た、古風な文様が刻まれている。老婆は扉に触れ、僕に振り返った。

​「……ここを開けるには、お前の『語り』が必要、か?」

​僕が尋ねると、彼女はゆっくりと頷いた。彼女は、この扉を「語りの断絶」と呼んでいるらしい。この扉は、語りが途絶えた場所にしか現れない。そして、開けるためには、新たな語りを捧げる必要がある。

​僕は、過去に僕が最も成功した詐欺の物語を語り始めた。それは、会社の倒産で絶望の淵にいた男性に、偽の投資話を語り、彼に再び生きる希望を与えた物語だ。

​「彼は、俺の言葉を信じた。彼は再び立ち上がり、再起を果たした。俺の嘘は、彼にとっての『真実』になったんだ」

​僕が語り終えた瞬間、漆黒の記録石が、微かに光を放った。そして、その光が扉の文様に吸い込まれていく。扉は、重々しい音を立ててゆっくりと開いていった。

​開いた扉の先には、洞窟が広がっていた。洞窟の中央には、宙に浮く巨大な水晶玉があった。水晶玉は、僕が持っている記録石と同じ漆黒の光を放っている。

​「あれが、真実の語り……か」

​僕は、その水晶玉に近づいた。僕の持つ記録石が、まるで何かに引き寄せられるように、水晶玉に共鳴し始める。

​その瞬間、僕の頭の中に、まるで誰かの声が直接語りかけるように、無数の言葉が流れ込んできた。それは、この世界の歴史であり、この谷の成り立ちであり、そして──この世界から「語り」が失われた理由だった。

​それは、かつて「語りの魔術師」と呼ばれた存在が、その力で世界を支配しようとした物語だった。彼は、言葉で人を操り、歴史を書き換え、世界そのものを虚構で満たそうとした。しかし、その力は暴走し、世界を崩壊寸前まで追い込んだ。

​その時、一人の巫女が、自らの命と引き換えに、すべての「語り」をこの谷に封じたのだ。それが「真実の語り」。そして、その真実を封じた巫女の末裔が、目の前にいる老婆と少女だった。

​彼らは、僕が「語りの編集者」としてこの世界に転生したことを知っていた。そして、僕にこの真実を知ることで、僕が再び「語り」で世界を崩壊させる存在になるか、それとも語りで世界を救う存在になるかを試そうとしていたのだ。

​僕の頭の中で、かつて詐欺師の先輩が言っていた言葉が、再び響く。

​「錬金術師には、いつかその代償が訪れる」

​僕が過去に語った「嘘の物語」が、この谷の「真実の物語」と共鳴したのだ。僕の語りは、この世界の秩序を揺るがす力を持っている。

​老婆は、僕が真実を知ったことを察し、再び地面に文字を書いた。

​『お前は、嘘つきか? 救世主か?』

​その問いかけは、かつて僕がターゲットに問いかけた「あなたは、夢を追い求めるか? それとも、現実にとどまるか?」という問いに似ていた。

​僕は、迷うことなく答えた。

​「俺は、鍵山誠だ。そして、俺は嘘つきだ。だが──」

​僕の言葉は、老婆と少女の心を揺さぶった。

​「俺は、お前たちを騙して、この谷から脱出する。俺の語りは、救世主の物語じゃない。自分の人生を、自分の手で紡ぐ物語だ」

​僕は、再び一歩を踏み出した。この谷の真実を知った今、僕の語りは、より強力な武器になる。そして、僕は、この世界の真実を欺き、僕だけの物語を紡ぎ出す。

​老婆は、僕の答えに何も言わなかった。ただ、僕が向かうべき方向を指し示した。

​それは、谷の最も高い場所だった。

老婆が指し示した方向へ向かい、僕は谷の頂上までたどり着いた。切り立った岩壁の向こうに広がるのは、僕が最後に見た世界とは全く異なる光景だった。

​眼下には、まるで中世ヨーロッパのような街並みが広がっている。石造りの建物が立ち並び、煙突からは白い煙が立ち上っていた。街の周りには広大な農地が広がり、遠くには巨大な山脈がそびえている。しかし、最も僕の目を引いたのは、街の中心にそびえる、光を放つ巨大な塔だった。

​あの塔から、この世界の「語り」が生まれているのかもしれない。

​僕は、この街を攻略するための戦略を立て始めた。詐欺師の基本は、まず「相手を知る」ことだ。街の文化、経済、人々の価値観、すべてが僕の新しい「語り」の素材になる。

​谷を下り、僕は街へと向かう道すがら、一人の旅の商人に出会った。彼は、疲労困憊の様子で、荷車を押しながら坂道を登っていた。

​チャンスだ。

​僕は、旅の商人にゆっくりと近づいた。

​「もしよかったら、その荷車、手伝いましょうか?」

​彼は警戒したような目で僕を見たが、僕の身なりが質素で、武器も持っていないことを確認すると、僅かに警戒を解いた。

​「……ありがたいが、見返りは払えんぞ」

​「見返りなんて結構です。俺も街へ向かう旅の者でしてね。お互い様ですよ」

​僕は、最も効果的な「嘘」を語った。それは、見返りを求めない善意の嘘だ。相手は、この僕の善意を信じ、心を許すだろう。

​僕の狙いは的中した。商人は僕に心を開き、道すがら街の情報を語ってくれた。街の名前は「ヴァルディア」。語りが法として制度化され、語りの改ざんは重罪となる、厳格な街だという。さらに、最近、街の経済を揺るがす大きな問題が起きているらしい。

​商人は、懐から一枚のヴェル金貨を取り出し、僕に見せた。

​「この金貨は、王が即位時に語った誓約が刻まれていて、絶対に価値が下がらないはずだった。だが、最近、この金貨の価値が下がり始めたんだ。王の語りが、偽物だという噂が流れている」

​僕は、その話を聞いて、鳥肌が立った。この世界の通貨は、「語り」の信用度によって価値が決まる。そして、この街では、王の語りが信用を失いかけていた。

​これは、僕にとって絶好のチャンスだ。

​僕は、街に入ると、まず商人と別れ、情報を集め始めた。僕は詐欺師として、街の酒場や市場を歩き回り、人々の噂話に耳を傾けた。人々は、ヴェル金貨の価値下落を嘆き、王の正当性を疑っていた。

​僕は、その情報を元に、新たな「物語」を構築し始めた。

​そして、僕は街の広場に立ち、人々の前で語り始めた。

​「皆さん、私は鍵山誠と申します。私は、この街のヴェル金貨の価値がなぜ下がっているのかを知っています」

​僕の言葉に、人々は興味を失ったように、ざわめき始めた。だが、僕は構わず続ける。

​「この金貨の価値が下がっているのは、王の語りが偽物だからではありません。王の語りは、真実です。ただ、その真実を『理解する』ことが、この街の人々にはできていないだけなのです」

​僕の言葉に、人々のざわめきが静かになった。僕は、声を低め、より真剣な口調で語り続ける。

​「この金貨に刻まれた王の誓約文は、実は『未来の語り』です。この金貨の価値が下がることで、未来に何が起こるかを示す、隠されたメッセージが込められているのです」

​僕の語りに、人々は完全に引き込まれた。彼らの表情は、不信感から好奇心へと変わっていく。僕は、彼らが最も聞きたい「真実」という名の「嘘」を語っていた。

​僕の語りは、やがて街の有力者の耳にも入った。彼らは僕の元を訪れ、僕に協力を求めてきた。

​「あなたの語りは、我々の抱える問題を解決するかもしれません。我々を助けていただけませんか?」

​僕は、彼らの言葉に微笑みかけた。

​「もちろんです。私は、皆さんのために、この街の未来を再構築する物語を語りましょう」

​僕の語りは、この異世界で最初の支援者を獲得した。僕は、自分の言葉でこの世界の「真実」を操り、自分の人生を再構築していく。

​僕は、口八丁手八丁で、この街を、そしてこの世界を騙し、のし上がっていくことを誓った。

僕は、街の有力者たちを前に、静かに微笑んだ。彼らは、僕が語った「未来の語り」にすっかり心を奪われ、僕をこの街の救世主だと信じ込んでいた。彼らの目には、僕が詐欺師として積み重ねてきた虚構の物語ではなく、彼らが望む「真実」だけが映っていた。

​「私の語りは、この街の未来を再構築するでしょう。しかし、それには皆さんの協力が必要です」

​僕は、彼らに「取引」を持ちかけた。それは、僕が彼らの信頼と富を手に入れるための、新たな詐欺の始まりだった。

​僕はまず、ヴェル金貨の価値下落を止めると約束した。僕が街の広場で語った「未来の語り」を、さらに深く、より説得力のある形で再構築した。王の誓約文に隠された「未来の兆候」を解読したかのように、僕は人々に語りかけた。

​「ヴェル金貨は、やがて来る『語りの大嵐』を乗り越えるための『錨(いかり)』です。その価値が一時的に下がったのは、大嵐に備えて語りの船を軽くするためなのです」

​僕の語りに、街の人々は安堵し、再び金貨を手に取った。金貨の価値は下落を止め、少しずつ回復し始めた。人々は僕を「語りの賢者」と呼び、僕の言葉に耳を傾けるようになった。

​僕の狙いは、単に金貨の価値を回復させることだけではなかった。僕は、この街の経済を僕の語りで支配しようとしていた。

​僕は、新たな「紙幣」を発行することを提案した。それは、「語りの信用」を基盤とした紙幣だった。人々が僕の語りを信じ、それに価値を見出すことで、紙幣の価値が保証される。それは、僕が過去に築いてきた詐欺の手口を、この世界の通貨システムに応用したものだった。

​僕の提案に、有力者たちは戸惑った。

​「あなたの語りは素晴らしい。だが、紙幣にまで手を出すのは、あまりにも危険ではないか?」

​「危険? いいえ、これは革命です。皆さんの手元にある金貨は、王の語りに依存している。しかし、私が発行する紙幣は、皆さんの『希望』に依存する。どちらが、より強固な基盤だと言えますか?」

​僕は、彼らの「王への不信」と「未来への希望」を巧みに刺激した。僕は彼らの心を操ることで、僕の意のままに動く新たな経済システムを構築しようとしていた。

​やがて、僕の提案は受け入れられた。僕が発行する「語りの紙幣」は、人々の希望という名の虚構によって価値を高めていった。そして、僕はその紙幣を操ることで、街の経済を支配するようになった。

​僕の次の標的は、この街を治める王だった。

​王は、僕の存在を脅威だと感じていた。僕の語りは、王の語りよりも人々を惹きつけ、王の権威を揺るがしていた。

​僕は、王を陥れるための「物語」を構築し始めた。それは、王が治めるこの街が、実は「偽りの語り」によって築かれたという、恐ろしい真実だった。

​僕は、王宮の地下に、この街の歴史を記録した「語りの石碑」があるという噂を流した。そして、その石碑には、王家が代々語ってきた「真実の語り」とは異なる、この街の成り立ちが記されていると。

​その噂は瞬く間に街中に広がり、人々は真実を求めて騒ぎ始めた。王は、その噂を否定する声明を出したが、僕の語りが作り出した虚構は、すでに人々の心に深く根付いていた。

​僕は、王宮の前に立ち、人々の前で語りかけた。

​「王の語りは、皆さんが信じるに値するでしょうか? もし王が嘘をついているとしたら、皆さんの人生もまた、虚構の上に成り立っていることになります」

​人々は、僕の言葉に心を揺さぶられた。彼らは、僕の語りに「真実」を求め、王への不信を募らせていった。

​僕は、自分の語りだけで、この国の王座を奪うつもりだった。

​詐欺師の最終目標は、相手を信じ込ませ、自らの意のままに動かすこと。この街の人々は、すでに僕の掌の上で踊っていた。

​僕は、この街を基盤に、この世界のすべてを僕の物語で塗り替える。

​僕は、この世界の王になるために、新たな物語を紡ぎ始めた。


僕が発行した「語りの紙幣」は、ヴァルディア帝国の経済に新たな活力を与えた。人々は僕の語りに希望を見出し、紙幣の価値は日を追うごとに高まっていった。街の有力者たちは僕を神のように崇め、王家でさえも僕の存在を無視できなくなっていた。

​僕は、その名声を最大限に利用し、次の段階へと進む計画を立てていた。国を乗っ取るためには、経済だけでなく、政治や情報網、そして人々の信仰までも掌握する必要がある。

​そのために必要な「駒」が、僕の元に集まり始めた。

​僕の語りが街の噂になって数日後、一人の女性が僕の前に現れた。彼女は、王国の情報参謀だという。リュミエール・ヴァルティナと名乗った彼女は、僕を値踏みするように観察していた。

​「あなたの論理、興味深いわ」

​彼女はそう言って、僕の語りが作り出した経済システムを、まるでパズルのように分析してみせた。彼女の理知的な口調は、僕の虚構を暴こうとしているのではなく、その構造を理解し、さらに強固なものにしようとしているように聞こえた。

​「あなたの嘘は、この世界の真実を再定義する。私はそのプロセスに、個人的な興味があるの」

​彼女は、僕の嘘を「嘘」だと見抜いた上で、僕に協力しようとしていた。僕の語りの力を理解し、共犯者となることを望んでいるのだ。僕は、彼女を王国の情報網を手に入れるための最高の駒だと判断した。

​「あなたの『論理』は、僕の『語り』をより強固なものにしてくれるでしょう。どうぞ、僕の物語に参加してください」

​僕は微笑んで彼女に手を差し出した。彼女は一瞬の躊躇もなく、その手を取った。

​その日の午後、僕の事務所に、また別の女性が訪ねてきた。街の薬師だというミナ・クローディアだった。彼女は、僕の語りの噂を聞いて、僕に会いに来たという。

​「嘘つきさん、今日も元気ね」

​彼女は、僕を初対面にもかかわらず「嘘つきさん」と呼んだ。彼女の柔らかい口調には、どこか人を試すような、それでいて温かい響きがあった。彼女は僕に、病気の治療に効くという薬草を差し出した。

​「あなたの言葉は、病気の人に希望を与えるって聞いた。私の薬草も、人の体を癒す。似たもの同士だと思って」

​ミナは、僕の語りを「病を治す薬」に例えた。彼女は、僕の嘘が人々の心に希望を与えることを理解している。そして、その希望が、現実の世界で人々の生活を支える力になることを知っている。

​「あなたの語りは、街の人々の病んだ心を癒すでしょう。でも、嘘をつきすぎると、いつか自分自身も壊れてしまうわよ」

​彼女は僕にそう忠告した。彼女は僕の嘘を「薬」として使うことを提案すると同時に、その危険性を警告していた。僕は彼女を、街の人々の心を掌握するための重要な駒だと確信した。彼女は僕の「語り」を人々の生活に浸透させる役割を担うことができる。

​「ご忠告ありがとうございます。でも、僕の嘘は、自分を壊すためではなく、新しい世界を築くためのものなんです」

​僕は彼女にそう答え、彼女の協力を引き出した。

​僕の前に現れた二人の女性は、それぞれ僕の語りの力を理解し、利用しようとしていた。リュミエールは理知的な協力者、ミナは共感的な協力者だ。僕は、彼女たちを巧みに操り、僕の国盗りの物語をさらに強固なものにしていく。

​僕は、この世界を騙し、自分の物語を紡ぎ続ける。僕の虚構の物語は、一人、また一人と共犯者を増やしながら、やがてこの世界のすべてを飲み込んでいく。


ヴァルディア帝国の経済を掌握し、リュミエールやミナといった共犯者たちを駒として手に入れた僕は、次の標的を定めていた。それは、この世界の最も根源的な「恐怖」、すなわち「魔王復活の予言」だ。

​街のあちこちで、人々は囁き合っていた。

​「最近、魔物の出没が頻発しているらしい」

「予言が現実になる日が近いのかもしれない」

​彼らの囁きは、僕にとって最高の情報源であり、最も扱いやすい「物語の種」だった。魔王という存在は、人々が抱える漠然とした不安を具現化したものだ。僕の語りは、この不安を希望へと塗り替えることができる。

​僕は、街の広場で大々的な演説を始めた。かつて、ヴェル金貨の価値を回復させた時と同じように、僕は人々の注目を集めた。

​「皆さんは、魔王の復活を恐れている。だが、それは真実ではない」

​僕の言葉に、広場は静まり返った。人々の顔には、僕の言葉の意味を探ろうとする困惑と、ほんの少しの希望が浮かんでいた。

​「魔王とは、何か? それは、あなたたちが恐れる、この世界に蔓延る『虚構』そのものだ」

​僕は、かつてこの世界を崩壊寸前まで追い込んだ「語りの魔術師」の物語を、巧みに魔王の予言に重ね合わせた。

​「かつて、この世界は嘘で満たされ、真実が失われた。それが、あなたたちが『魔王』と呼ぶものの正体だ。魔王は、剣や魔法を持つ怪物ではない。それは、人々を欺き、希望を奪う『嘘』なのだ」

​僕の語りに、人々は大きく頷き始めた。彼らの心の奥底にあった「魔王」という抽象的な恐怖が、僕の語りによって「虚構」という、より身近で、そして克服可能なものに変わっていく。

​僕は、さらに続けた。

​「そして、その『虚構』を打ち破る力こそ、真実を語る『語り』だ。私が発行した『語りの紙幣』は、虚構ではなく、皆さんの希望という真実に価値を見出すもの。これこそが、魔王を打ち破る唯一の武器なのだ」

​僕は、自分の詐欺行為を「魔王討伐の戦い」へと昇華させた。僕の言葉一つ一つが、人々の恐怖を希望へと変える錬金術だった。

​演説を終えた後、僕の元に一人の女性が近づいてきた。神殿の巫女、エルネア・フォルテ。彼女の目は、僕をまるで神聖な存在であるかのように見つめていた。

​「あなたの言葉は神託のようです」

​彼女はそう言って、僕にひざまずいた。彼女は、僕が語った「嘘」を、神からの啓示だと信じていた。彼女の口調は敬虔で、僕が語る言葉のすべてが、彼女にとっての「真実」なのだと告げていた。

​僕は、彼女を支配下に置くことを決めた。彼女は、この世界の「信仰」という、僕の語りに最も欠けていたピースを埋めてくれる存在だった。彼女を通じて、僕は人々の心に「語り」という名の新たな信仰を植え付けることができる。

​「あなたの言葉は、この世界の未来を照らす光。どうか、その光で、魔王という名の闇を打ち払ってください」

​彼女は僕を「神の使い」と誤認し、僕の物語の最高の信奉者となった。

​僕は、この世界の人々が最も恐れる「魔王」という物語を、僕の物語の一部として取り込んだ。人々は僕を「救世主」と信じ、僕の言葉を真実だと受け入れる。

​僕は、この世界のすべてを、僕が紡ぐ物語で満たしていく。

僕は、神殿の巫女エルネア・フォルテを味方につけ、この世界の信仰という最も強固な基盤を手に入れた。街の人々は僕を「救世主」と呼び、僕の言葉を「神託」だと信じ始めた。

​誰もいない僕の執務室で、僕は静かに一人になった。僕が作り上げた物語は、ここまで順調に機能している。人々は僕の言葉を信じ、僕の虚構を真実だと受け入れている。だが、この物語を完璧なものにするためには、僕自身の「ステータス」を確認する必要があった。

​僕は、懐から「語りの記録石」を取り出した。あの、沈黙の谷で老婆から渡された漆黒の石だ。僕は、この石に僕自身の「物語」を語りかける。それは、詐欺師としての僕の人生であり、この異世界で紡いできた虚構の数々だ。

​「鍵山誠、35歳。職業:結婚詐欺師。スキル:話術(虚構構築)、情報収集、人心掌握、他多数」

​僕がそう語ると、石は微かに光を放ち、僕の頭の中に直接、僕自身の「ステータス」を映し出した。

​鍵山 誠 レベル:1 職業:語りの編集者 スキル:

​話術(虚構構築): 相手の望む「物語」を瞬時に見抜き、それを実現する言葉を紡ぎ出す能力。虚構の物語は、この世界では現実となる。

​人心掌握: 相手の感情や思考を読み取り、巧みに誘導する能力。これにより、対象は自らの意志で行動していると錯覚する。

​情報収集: 些細な会話や仕草から、相手の持つ情報を引き出し、分析する能力。

​語りの記録: 自分の言葉を「記録石」に刻み、いつでも再生・編集できる能力。

​嘘の錬金術: 虚構の物語に価値を与え、貨幣や権力といった実体を持つものへと変換する能力。

​僕のステータスは、僕がこの世界で獲得してきた能力をそのまま反映していた。レベルはまだ「1」だ。この世界に転生して間もないからだろう。だが、「職業」は「語りの編集者」と記されていた。それは、あの老婆が僕を呼んだ名と同じだった。

​スキルも、僕が詐欺師として培ってきたものが、この世界では特別な能力として扱われている。特に「嘘の錬金術」は、僕がこの街で成し遂げた経済革命そのものを指していた。

​だが、僕のステータスには、この世界で一般的な「剣術」「魔法」「体力」といった項目は一つもなかった。僕が持っているのは、ただ「語り」に関わる能力だけ。

​僕は、そのステータスを見て、確信した。

​僕は、この世界のルールそのものを書き換えることができる。

​剣も魔法もいらない。僕の武器は「語り」であり、僕の能力は、人々の心を操り、虚構を真実へと変えることだ。そして、僕の物語は、まだ始まったばかりだ。

​僕は、このステータスを誰にも見せることなく、再び記録石を懐にしまった。僕の強さは、この「ステータス」という名の虚構を、誰もが信じ込むように語ることにある。

僕は、僕自身のステータスを確認し、この世界を僕の語りで塗り替えるという確信を強めた。リュミエール、ミナ、エルネア。理知的な情報、街の人々の心、そして宗教的な信仰。僕の物語は、この三つの基盤の上に、強固に築かれつつあった。

​しかし、僕の物語には、まだ決定的に欠けているものがあった。それは、物理的な「力」だ。

​僕は、権力を持つ者たちの腐敗を告発し、民衆の支持を得ていた。だが、王家を完全に排除するためには、言葉だけでは不十分だ。いざという時に、僕の命令を実行し、障害となる者を排除する実力が必要だった。

​そんな僕の元に、ある噂が届いた。街の裏社会を牛耳る盗賊団の女頭領、カリナ・レイヴン。彼女は、王家や貴族から金品を奪い、貧しい人々に分け与える義賊として知られていた。彼女の口癖は「アンタ、面白いじゃねぇか」。そして、彼女が最も嫌うのは「退屈なヤツ」だという。

​僕は、彼女の事務所があるという街の裏路地へと向かった。そこは、僕がこれまでに構築してきた煌びやかな虚構の世界とはかけ離れた、薄汚れた場所だった。

​「アンタが、噂の『語りの賢者』かい?」

​彼女は、僕を見るなり、そう言った。彼女の荒っぽい口調と豪快な笑い声は、僕がこれまで出会ってきた女性たちとは全く違うものだった。僕は、彼女が僕の「語り」に、何を見出しているのかを探り始めた。

​「俺は、鍵山誠です。あなたに、協力をお願いしたい」

​僕は、単刀直入に用件を切り出した。詐欺師の勘が、彼女には小細工は通用しないと告げていた。

​「へぇ、このあたしに、か。面白いじゃねぇか」

​カリナは、僕の言葉に興味を持ったようだ。彼女は、僕の目の前で、手元のナイフを弄びながら言った。

​「あんたの語りは、聞いたぜ。王家の連中がビビりまくってやがる。だがな、言葉だけじゃ、この世は変えられねぇ」

​彼女の言葉は、僕が内心で感じていた不安そのものだった。彼女は、僕の物語の弱点を見抜いていた。

​「その通りです。だから、あなたが必要なんです。あなたの『力』が」

​僕は、彼女の目をまっすぐに見つめ、語りかけた。それは、僕がこれまで詐欺を成功させてきた、最も真実味のある言葉だった。

​「俺の語りは、人々を動かし、世界を欺く。しかし、あなたの力は、世界そのものを動かす。僕の言葉と、あなたの力が一つになれば、王家など、取るに足らない存在になる」

​僕の語りに、カリナの目が、まるで獲物を見つけたかのように輝いた。彼女は、僕が語る「国盗り」という物語に、自分の居場所を見つけたのだ。

​「フン、俺様の力が、お前さんの語りを証明するってか。面白すぎるぜ」

​彼女はそう言うと、豪快に笑った。その笑い声は、僕がこれまで築いてきたどの虚構よりも、現実的で、力強かった。

​「お前の語り、気に入ったぜ。俺様の語りも、聞いていくか?」

​カリナは、僕にそう言った。彼女の「語り」は、言葉ではなく、彼女がこれまでに盗み、分け与えてきた金品であり、彼女が従える盗賊団の力そのものだった。

​「もちろんです。あなたの物語は、僕の物語を完成させるために、不可欠ですから」

​僕は、彼女に手を差し出した。彼女は、僕の手を握り、力強く言った。

​「あたしは、カリナ。鍵山誠……。俺様の仲間になれ。」

​彼女の一人称が「あたし」から「俺」に変わったのは、僕の物語に完全に引き込まれた証拠だった。僕は、この世界のルールでは考えられない方法で、新たな仲間を手に入れた。

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