第19話
「うあああああああ!」
体中に痛みが走りリンクスは絶叫した。
リンクスの体を中心に空気が渦を巻き、風を巻き上げ建物は脆い所から壊れ始めている。
バチバチとほとばしる魔力が床や壁を打ち抜いていた。
全身のライト
ブルーを光らせて自分を守るラルカディオが、風に煽られよろめきながらもなんとか立って、地面で床に縋り付き悲鳴を上げているリンクスを見つめる。
「素晴らしい力だ」
胸が痛い。
喉が痛い。
頭が痛い。
全身がバラバラに千切れ飛びそうだと思った。
(落ち着け!落ち着け!)
「ぐっ、かは」
体の内側に痛みが走った瞬間、せき込むと口元から血がこぽりと溢れた。
高笑いするラルカディオの声が聞こえるなか意識が遠のいていくのを感じる。
「おいおい死にそうだな」
ラルカディオがしゃがんでリンクスの前髪を掴んで顔を上げさせた。
覗き込んでくる表情はニヤついていて、癪に障る。
唾でも吐きつけてやろうかと物騒なことを考えていると、ふっと荒れ狂う自分の魔力のなかに、感じ慣れた他人の魔力が濃くなったのに気づいた。
探知魔法の濃度が強くなっているから、多分すでに建物の外にでもいるのだろう。
もしかしたら建物が広いのならば中に侵入しているかもしれない。
もう大丈夫だ。
思わずリンクスは口元に安堵で笑みを浮かべていた。
その表情にラルカディオが鼻白む。
「何がおかしい」
ドオン、となにかもの凄い音と質量のぶつかる音に、建物が大きく揺れた。
ラルカディオが手を離したので、リンクスの頭が力なく地面に落ちる。
正直もう頭を起こす力もない。
ただこのあとに何が来るのかも、その恐ろしい使い手もわかってるから、安心して転がっていられる。
意識を飛ばしそうななか、それは感じた。
幼い頃から慣れ親しんだ魔法使いの物だから、怖さはない。
警戒するようにラルカディオが周囲を見渡し、リンクスから距離をとって中央で身構える。
ああ、それが狙いだ。
(お前は僕に近すぎた)
口からなおも血を吐きながらも、リンクスは安心したように微笑んだ。
彼がやってくる。
それは一直線だった。
光の魔弾がラルカディオの腹部にめり込み貫く。
「あ?」
なにが起こったのかわからないと言うように、ラルカディオは自分の腹部を見た。
そこには自身の血がべったりと流れていて。
ぐふりと口からせり上がってくる血を吐き出すと、立っていられずにその場に崩れ落ちた。
魔石で魔力を増幅するどころか防御する暇も与えなかった。
光魔法が攻撃に向いてないなんて、当てはまらない。
誰よりも努力して強さを手に入れた、リンクスの大切な幼馴染。
こん、とラルカディオの手からリンクスの魔石が転がり落ちる。
地面に縋り付いているせいで爪が割れて血が出ている手を伸ばし、取り戻そうとするがこれ以上体が動かない。
魔石を手にしなければ、魔力が抑えられずに枯渇して死ぬまで止まらない。
魔力が枯渇するのが先か、体が駄目になるのが先か。
「リンクス!」
ゴウゴウといまだ強風と魔力が渦巻くなか、見慣れた幼馴染が、けれど見慣れない必死な顔でリンクスの元までやってきた。
壊れた壁の瓦礫を軽々しく超える体は身軽だ。
ラルカディオを無視して床に落ちていた魔石を拾い、助け起こしたリンクスの体にそれを押し付けて抱きしめる。
魔石が体に触れていることで、どうにか暴走する魔法が威力を少しずつ落としていく。
ぜえぜえと荒い息を吐きながら口元を赤く濡らしているリンクスは、強く抱きしめるアルフィードに小さく呟いた。
「いたいよ、アルフィード」
意識が飛ぶ寸前、自分を抱く彼の体は震えている気がした。
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