第6話 真夜中の一騎打ち②


  地の底から、蝮がググっと鎌首をもたげるかのごとくに繰り出された第一球は、ショーヘイのどてっぱらを抉らんばかりの迫力の、物凄い剛速球の、スライダー、高速のシュートだった!


 あえなくバットは空を切って、ショーヘイはついでに派手にしりもちをついた。

 「ひええええ! すげえ! こんなタマこの世にありうる? 大人と子供だよ!」


 また素っ頓狂な悲鳴が出た。

 

 「なんだよ! やっぱりアンタは魔物か何かじゃないんかい? 150キロを超える高速スライダー? しかもシュート回転? イチローでも一生打てっこないね」


 ”魔物”と呼ばれて、しなやかな体躯をたわませた反動ですこし息を弾ませているオンナは、にやりと白い歯を見せた。


 「ううん、アタシは成人したばかりのJKよ。 メジャーの教育リーグでずっと腕を磨いていて、パパの転勤でしょうがなく帰国したのよ。 小さいころからメジャーに憧れていて、オフの時間はひたすら野球漬けの野球三昧。 大リーグのトライアウトでも成績は抜群なんだけど、やっぱオンナだっていうのがネックで、どこの球団も二の足を踏むのよね。 ジャッキーロビンソンもそうだったみたいにいろいろややこしいんだって」


 「ホンマ、御見それしました。 実力は、紛れもないメジャーのスーパールーキークラスですね! 名前は? 何ておっしゃるんですか?」


 「名乗るほどじゃないけど…清宮乙香きよみや・いつかといいます。 よろしくね。 ショーヘイさん」


 ランディジョンソンとでも対戦したかのごとくに、ショーヘイにはさっきの乙香の物凄い迫力の剛球で、まだショックを受けて、立ち直れていなかった。


 腹の底から震え上がるような体験というものをバッターボックスで味わったのは初めてだったのだ! ほとんどカルチャーショック…メジャーの最高のレベルというものをはからずも、偶然に遭遇体験できたわけだった。


 …ふたりの運命的な出会いは、そうして、これからの長い紆余曲折を予感させるに足るだけの、ひどく衝撃的な、インプレッシヴ極まりないもので…その焔のような出逢いを劇画的にショウアップするかのごとくに、あたかも真っ赤な朝陽が、家並みの狭間からメラメラと立ち上り始めているのだった…


<続く>


https://kakuyomu.jp/users/joeyasushi/news/16818792440631222670







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