第7話 野球センスの塊 


 謎のサウスポー、アンダースローの清宮乙香との対決では一敗地に塗れる醜態をさらしたショーヘイ。


 が、言うまでもなく彼は稀にみる野球の天才。 超高校級の逸材。

 敗北を肥やしにしてたくましく立ち直れる男だった。


 清宮乙香という存在…紛れもない超メジャー級の剛腕投手、しかし中央球界では全く無名の18才の美貌の乙女。

 彼女のことはショーヘイの脳裏に強く刻み込まれ、刻印づけられて、あの夜のマウンド上の彼女の躍動する雄姿が、それ以来ことあるごとに彼に纏わりつき、強迫観念のように悩ましいものとなった。


 「ダメだ…絶対不可能だ! 今の俺にはあの女の球は絶対に打てない!」


 乙香は一見華奢で、投球フォームも変則的な、技巧派のピッチャーという印象。

 寧ろ、軽快で、優雅?華麗? 語彙の貧しいショーヘイには表現が難しいが、いかにも”オンナ”っぽいのだった。


 それでいて、繰り出される豪速球は弾丸のように凄まじいスピードと迫力を孕んでいて、旋風トルネードのうなりさながら、「兇器」という言葉すら連想させる。


 このミスマッチで、彼女の高速スライダーやらの変化球はより打ちにくくなっている。 

 あの夜に、都合13球、ショーヘイは球筋をじっくり観察しつつ、乙香と対戦したが、結局、一回も、ヒットどころかタマにかすりもできなかったのだ。 


 「ショーヘイさん、今日はアタシの完封勝ちだわね。 ていうより完全試合? わざわざあなたをおびき出すために毎晩デモンストレーションしていた甲斐があったわ! 最高のドラマチックさで<清宮乙香>の第一印象を飾れたってわけね!」


 「悔しいなあ! ホンマ脱帽したよ。 あなたは凄い投手ですね! 出会えて光栄ですよ。 またお会いできますか?」


 素直にそういった彼に、「もちろん! アタシのいるのは栄光学園女子部の三年だから、いつでも会いに来てね!」


 と、涼やかに白い歯を見せて乙香は微笑み、自転車で去っていったのだった。


 …その顛末が、何度もショーヘイの記憶にフラッシュバックして、やがて、「どうしても清宮乙香を叩きのめしてやりたい!」という不屈の闘志が、ショーヘイの負けじ魂にメラメラと、あたかも紅蓮の炎の如くに燃えさかるようになっていった。


 <続く>

  


 


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