第2話 謎の投手②


  「ショーヘイ、知ってるか? 都市伝説っていうの?」

 「? 小さい伯父さんとか? あんまり知らん」


 ケージを並べている上級生が話しかけた。

 「小さいオジン? なんやそれ。そうじゃねえんだよ。 この辺の流行ってる妙な噂あってな。 真夜中にね、幽霊みたいな白い影が空き地でピッチング練習をしてるって言うんだよ。 何人も目撃してる。 見つかると逃げていくらしい」


 「へ~ 変わったオバケやな。 野球が好きなんかな。 正体不明なんですか?、それだけのハナシ?」

「いやな、もう3か月くらいあちこちで目撃されていて、だんだん断片的にいろんな尾鰭がついてるんや。 ”髪が長い”とか、 ”すごい美人のオンナ” とか」

「オンナ? やっぱ幽霊ですか? 長い髪が濡れてて? 貞子かよw」


「ハハハ。 でもね、なんだか颯爽としててカッコよくて、すごい剛速球を投げているとも言ってるんだよ、見たやつらがね」


 「うーん、何なんやろ? 見当つかんけど…打ってみたいよなあ、そのオバケの剛速球?」

 ショーヘイのスイング一閃で、「カキーン」という小気味いい音が響いて、軽々と弾き飛ばされた硬球が、ピンポン玉のようにはるか虚空に消え去った。


「ハハハ。 ”打ってみたい”? モノ好きなこと言うよなあ。 ショーヘイは。 やっぱ野球の鬼やなあ」


 長く続く、暑い、殺人的な夏の黄昏、8月が終わりを告げた日は、が、この物語の始まりの日でもあった。


<続く>  

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