第14話
【生存者はまだ3,565人】
ヘンは深く息を吐き、額を汗が伝っていた。
またしても生き延びた……ほんのわずかな差で。
メアリーの柔らかな声が耳に響いた。あの挑発的な調子は、もうすっかり聞き慣れてしまったものだった。
――おめでとう、ヘン……まだ息をしているのね。本当に死ぬと思っていたのに……どうやら顔だけじゃないみたい。
ヘンは答えなかった。
肋骨の痛みと疲労で身体は震えていたが、意識だけは鋭く保っていた。
メアリーは小さく笑い、より陰のある声で続けた。
――でも勘違いしないで……遊びはまだ始まったばかりよ。これから先、もっと酷くなる。
ヘンが問い返す前に、大学内に設置されたスピーカーから金属的な音が響き渡った。
アナウンスだ。
――生存者に告ぐ。これまでの死亡者はわずか。新たな段階をただちに開始する。
ヘンの身体が固まった。
声は続く。
――現在の生存者は3,565人。
心臓が早鐘を打つ。
「新たな段階? どういう意味だ……?」
メアリーの笑い声がヘンの頭に直接響き、残酷な旋律のように広がった。
――あぁ、これは楽しくなるわ……とても楽しく。
ヘンは慎重に暗い廊下を進んだ。腰にはグロック、手にはしっかりと握られたバット。
一歩ごとに呼吸は荒くなる。
数分後、再びアナウンスが流れた。
――生存者は現在2,802人。
ヘンは立ち止まった。
――な、何だと……?
わずか数分で七百人以上が死んだのだ。
どうやって……?
彼はゆっくりと歩を進めた。
頭の中で疑問がこだまする。
「こんな短時間で……何がこんなに多くの死を……?」
角を曲がった先に開いた部屋があった。
目にした光景に、胃がひっくり返る。
床一面に死体が転がっていた。
積み重なった死体、壁を伝う血。
鉄と腐肉の悪臭が鼻を突く。
ヘンは顔を背け、歩みを速めた。
ここで立ち止まる時間はない。
その時、またアナウンス。
――生存者は現在2,143人。
ヘンは凍りついた。
両手がバットを強く握り締める。
「次は……俺か……?」
沈黙を破る音。
足音。
背後から。
振り返った瞬間にはもう遅かった。
冷たい腕が背中に絡みつく。
反射的に床へ転がり、前方に転がって逃れる。
すぐさま立ち上がり、バットを構える。
目の前に影が一つ、よろめきながら近づいてきた。
首を不自然に傾け、バランスの悪い歩き方。
ヘンは目を細めた。
「どこから現れた……? あれほど死体を見てきたのに……誰も動かなかったはずだ。」
懐中電灯の光が、その胸元を照らした。
心臓を貫く深い裂傷。
灰色に変色した肌。
虚ろな瞳。
ヘンの目が大きく見開かれる。
それは生存者ではなかった。
すでに死んでいるはずの存在だった。
【生存者はまだ2,143人】
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