第37話

 ※


 目が覚めたとき、泣いていたことに気が付いた。ほんの少量ではあるけれど、涙が耳に伝っていた。ずい分久しぶりに、ぼくは泣いてしまったようだった。もちろんそれは、悲しかったからだとは思うけど、でも、それだけじゃなかった。姉さんの涙に関するあの言葉をふっと思い出した。いずれにしても、眠っているときだったからかまわない。腕時計を見ると、既に二時間が過ぎていた──と、ニューヨークヤンキースのキャップが、砂浜にたどり着いているのが見えた。それで、何の根拠もないにもかかわらず、きっと三太君は大丈夫だろうとぼくは思った。キャップを拾い上げると、駐車場の近くにあった水道で洗ってから水を切り、車に乗り込んでエンジンをかけ、シートベルトを引き出した。頭の中では、やはり気のせいなんかではない、さっき心臓マッサージ中にぼくを呼んだ優衣の声が、繰り返し聞こえ続けていた。

「わかってるよ優衣、わかってる。パパ、約束はちゃんと守るから」

 帽子を届けたあとで、ぼくは、死ぬつもりだった。

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