第4話

 ※


 突然のお手紙すみません。わたしは、Kの妹です。

 こんな手紙、きっと稀代きだいさん方は、今さら読みたくなんてないだろうし、わたしも書こうかどうかを、ずっと迷っていたのですが、やっぱり、書くことにしました。いろいろな想いがあるにせよ、書くべきなんだという想いが、一番に強かったからです。ただ、そうするのならもっと早く、兄があの事件を起こしてしまったのと近い時点で、行動に移すべきだったとは思うのですが……。でもそのときのわたしはまだ幼く、そうすることが、できませんでした。今から五年前のあの日、わたしはまだ、十歳になったばかりでした。ごめんなさい。言い訳ですよね、こんな言い方。しかもこの先、わたしが何を、どう書こうが、どれだけ書こうが、すべてが言い訳になってしまうのだろうと思います。そしてそんな手紙を読むことは、稀代さん方には、とてもお辛く、不愉快なことだろうというのもわかっています。だけどわたしは、恐れずに、書こうと思っています。開き直る気は少しもないのですが、そうするのが、わたしのすべきことだと、考えているからです。

 もちろん、この手紙を、稀代さん方が、読んでくれるとは思っていません。もしかしたら、封を開けないまま捨てるかもしれないし、初めの何行かを読んだ時点で、やっぱり捨てるかもしれない。わたしが稀代さんの立場だとしたら、多分そうするような気がします。されて当然なのだとも思っています。でもだからと言って、それが、わたしがこの手紙を書かないでいいという理由にはなりません。ですからわたしは、そのことも恐れずに、この手紙を、最後まで書き上げたあと、投函しようと考えています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る