第21話

「……ミミア、怒っていませんかね」

「俺たちを信じて先に行かせてくれたんだ。大丈夫さ、ミミアなら」


 魔王城に突入した世界に変革をもたらさんとする3人の者達は、不気味な程の静寂に包まれている城内をくまなく走りながら言葉を交わしていた。


「それにしてもやけに静かですわね。あまりにもわたくしたちを遮るものが無さすぎますわ。それにどうぞ開けて下さいと言わんばかりにここに宝箱も――」


 と、白髪の少女が隅に置かれていた豪奢な宝箱の蓋に手を掛け、力を込めてゆっくりと両手で開いた。すると――。


「きゃああああああああああああああ!」

「どうしたアメス!? ミミックか!」

「助けて! 助けてフレイム!」


 アメスと名を呼ばれた白髪の少女が悲鳴を上げながら、炎の剣の青年――フレイムに腰を抜かしながら助けを懇願した。フレイムはアメスが宝箱に化けた魔物――ミミックに襲われたのではないかと焦燥したのだが、実際のところそうではなかった。


「ご、ご、ごごご、ごごごごご!」

「ああ、ゴキブリですか。たくさん出てきましたね」

「ちょっとプラント! 眼鏡割りますわよ!」

「えぇ……」


 眼鏡の青年――プラントが宝箱から大量のゴキブリが出てきたのだと気付き、素直に口にしたところアメスに理不尽に罵しられてしまった。


「ゴキブリを宝箱に詰めるとは……チッ、卑怯な手だ」


 フレイムは怨嗟の声を漏らしながらフランベルジュを振るい、大量のゴキブリを一瞬で焼き尽くし、塵へと変えた。


「ですけどゴキブリを罠にするなんて……魔王軍ならもっと恐ろしい魔物とかを仕込んでいると思っていたんですがね」

「正解だ」


 プラントがやれやれと思いながら残りの宝箱を処理しようと乱雑に蓋を開けると、中からひとりの魔族が顔を見せ、プラントの顎を頭頂部で撃ち上げながら宝箱から飛び出した。


「がはっ……!」

「プラント!」


 突然の不意打ちに倒れたプラントに、フレイムとアメスが咄嗟に彼の元に駆け寄る。


「朕はずっと宝箱に詰められていて機嫌が悪い。故にそなたたちを排除する」


 魔族は目の前に集まった3人に向かい指を突きつけながら、そう宣言した。突きつけたその指先には、闇の魔力が集まっている。


「はは……宝箱に入れられていた程度の魔物が、何を抜かしますか。お二人とも、早く先へ行ってください。これくらいの魔物、僕一人で十分ですから」


 プラントは顎をさすりながら起き上がると、首を交互に動かしフレイムとアメスに言った。


「そうですわね。こんな黒いカサカサまみれのところ、もうごめんですわ」

「わかった。お前を信じるぞ! プラント!」


 プラントの言葉に二人は素直に従い、魔王城の最深部へと再び歩を進め始めた。


「僕一人で十分、か……。朕も随分と舐められるようになったものだな……。いや、舐められていたのは元々か……?」


 次第に遠くなる足音を聞きながら、魔族は静かに呟き、静かに怒りを滾らせた。


「実際そうですよ。だって――」


 一人魔族の前に残されたプラントは、両拳を構えながら口を開いた。


「あなたはもう、分析済みですから」

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