第4話 ありがとうの握手

 その後、レイの仲間であろう警察の人達がパトカーからたちまち降りてきてボロボロになったレイを心配する様に囲った。

 そして、この事件は一件落着となったんだ。状況説明をしているのだろうか、その集団の中で真剣そうに話しているレイの方へ僕は向かって行くと、意識を取り戻した様子のユウが歩道の自動販売機に寄りかかっていた。ムスッとした顔を見るに1つや2つ文句があるみたいだ。


「…見てたぞ」


 僕が能力者だったって事だろうか。


「フンッ。お前は人の腹を立たせる天才だな」


 そんなユウは嫌味を言う天才だ。でも僕はそんな事より昼の件でユウに対する申し訳無さが増していた。


「あのさ、ごめん。昼に言った事悪かったよ…。僕の事保健室まで運んでくれたのお前なんだろ?」

「さあ。どこの誰だかね…」

「またまた~。照れちゃって…。お前って結構いいとこあるんだな。今度からはもっと素直になりなよ。顔は悪くないんだからムスッとしてないでもっと口角上げてさ。そっちのほうが絶対いいぜ」


 すると、ユウはたちまち急に顔を赤らめた。


「な…。う、うるっせえんだよ!」


 照れ隠しだろうか、そう僕の耳元で怒鳴ると振り返ってスタスタと不機嫌そうに家路へ帰っていった。やっぱり素直じゃねえなと、僕は眉をひそめた。


「何だか君達って仲が悪いのか良いのか分からないね。…でも気は合いそうだ」


 後ろからレイがそう話しかけてきた。ひとまず状況説明は終わったんだろう。


「うーん、どうなんだろう。あいつ、レイが思っているよりもめちゃめちゃ面倒くさいやつなんだけどね…。でも、気が合うか…?…どうだろ。そうかもね」


 僕とレイは、2人顔を合わせてふふっと笑った。


「あと…ありがとう。レイが居なけりゃ僕は死んでたんだ。かっこよかったんだからさ自分に誇りが持てないなんて言うな、もっと自信持ちなよ!まぁその後のコキの使い方にはうんざりだけどさ…。ありゃ酷いよ!」

「アハハ。ごめんごめん。ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。ねぇ、ミナト。もしよければ、専属能力者になってみないか?」

「え…?」


 専属能力者って響き。夢のまた夢のまた夢のようだ。今日は色々ありすぎて頭がごちゃごちゃになってきた。


「ぼ、僕みたいな素人でいいの!?そんな、専属能力者だなんて…」


 戸惑いという感情が僕の顔に影を作る。非日常を求めていたのは他でもない自分なのに、いざ自分の元に降り掛かってくるとどうすればいいか分からなくなってしまう。


「あぁ、その年齢だと中々例はないが、お前の力だったら試験に通るかもしれない。それに、お前が居なければ俺やあの女の子が助からなかったかもしれない。お前こそ自分を誇りに思っていいんだ」


 彼の言葉に僕は沈黙を貫いた。専属能力者というものに対する好奇心と同時に未知への恐怖に襲われてたからだ。今さっきの様な恐ろしいアンドロイドと戦うのが仕事なんだから生半可な覚悟ではやってられないはず。


 僕が目頭に指を当て悩んでいたその時だった。後ろから幼い声が聞こえてきた。


「お兄ちゃん」


 僕の事だろうか、振り返るとそこには今さっき助けた女の子が顔を赤らめて立っていた。


「…じゃなくて、えーっとお姉ちゃん?まぁ、どっちでもいいや。今さっきは助けてくれてありがとう。でも、ごめんなさい。私怖くなって途中で逃げちゃって…」


「僕は大丈夫だよ!そうだよね、あんなおっかない化け物いたら怖かったよな…。それよりも君が無事で本当に良かった」


「…ありがとう。これしか言えないけど…。お兄ちゃんがいなかったら私…死んでたかもしれない。すごい怖かったけどお兄ちゃんがいてくれたから…。本当にありがとう!じゃあね!」


 女の子はそう言うとお辞儀をし、手を振りながら笑顔で去っていった。初めてだった。自分の存在に感謝されるだなんて。ただただ、嬉しかった。僕のこんな小さな手で誰かを守れるなんて。そんなのもっと先、立派な大人になってからなんだと勝手に思っていた。


 その時、僕の心の中で何かが動いた。


「ミナト、どうする?」


 全く態とらしい野郎だ。レイは僕がどう答えを出すか分かりきっている癖に質問してきた。


「レイ、そもそも専属能力者になれるかとか先の話は分からないけどやってみたい。その話乗った!」

「ノリ良いな。じゃあ決まりだ。取り敢えず係長に話をつけてっと…」


 咄嗟にレイはジャケットの胸ポケットからメモ帳とペンを取り出しスラスラと上の人に連絡するであろう事項を真剣な表情で書き出した。すると、一瞬顔をこちらへ向け話した。


「ミナト、困ったら俺がいつでもいるから。これから俺達は仲間だ。長い付き合いになるだろうが、よろしくな」


 そして、レイは持っていたペンとメモ帳をポケットにしまうと次に右手を出してきた。


 握手しろってことなんだろうか。


「はい、ありがとうの握手」


 僕は、彼の言うありがとうの意味が全然分からなかったけど、なんだかそれが照れくさくて一瞬戸惑った。


「…あぁ!よろしく!」


 そして、僕とレイは夕日に照らされる手を重ねギュッと握手を交わした。

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