第5話 専属能力者

 街を騒がせた狂犬のアンドロイド事件があった翌日、僕は巷で流行っているトレンド曲をあやふやに歌いながら武道館のライヴステージに見える6年3組の教室へ堂々と入場した。


 何故気分がいいか。それは、簡単だ。


 僕が超天才業使いであることが分かったからだ。


 世の中には数多の業使いがいる。爪が伸びるのが人よりちょっと早い人から、炎を操るとか、水の中で潜っても息ができるとか。様々だ。


 そんな中、僕の能力は、ランダムに違う技を出せるというもの。一見ぱっとしないかもしれないし、昨日は散々な結果だったが、我ながら磨けば光るに違いないと確信している。


 それに加えて、今日は珍しく朝早起きして父さんにも怒られることもなく、朝食を食べ終え、朝のニュースの占いコーナーだって僕の星座が1位だった。


 毎日このわくわくが続いたらいいのにと思った時だった。


「朝からうるさいんだけど」


 席について運動着袋を机の横のフックに掛けると、隣で分厚い文庫本を読むユウが睨みつけながら小言を吐いてきた。


 全く、こいつの毒は毎回強烈にくる。


 だが昨日、自分が業使いだということを知って気分が最高潮の僕はそんなことはお構いなしだ。ユウが毒吐いているのなんて、いつもいつも。


「いやだって聞いてよ、専属能力者だよ!警察にスカウトされちゃってさ。はっはっはー!凄くない!?ねぇ?凄くない!?サイコーだよ!」

「はあ、朝っぱらからダル絡みかよ…。別にそんなの俺に話さなくてもいいだろ。お前にはもっと仲良い奴らがいるんだから…そいつらに話せばいいじゃないか」

「まぁ良いじゃん!僕と君の仲なんだしー!一応"しゅひぎむ"とかいうのがあるらしいから家族の父さんにも話せないんだ。だーかーらー、自慢話ができるのユウだけなんだよ!」


 と、ニコニコしながら彼の肩をポンポン叩くとユウはいつも細い目をもっと細め露骨に鬱陶しそうな顔をした。


「いつからお前と仲良くなった?付きまとうな。俺は嫌いなんだよ、そ・う・い・う・の!」


 そして、肩に置く僕の手を突き放した。


「あっそうだ!話は変わるんだけどさ、今日レイと会って試験の説明を受けるんだけどさ。ユウも一緒に行かないか?なんか、1人で行くの緊張しちゃってさー!」

「はぁ?」


 唐突な誘いにユウも、「何を言っているんだ。こいつは…」とかなり引いた表情だった。


 誘った当人の僕も不思議だ。一緒に放課後遊んだことのないユウをいきなり誘おうだなんて。

どうせ答えは決まりきっているし、本当はユウを今日の説明会に誘うなんて気全く無かったが違うんだ。


 ”彼を誘え”と心の奥にいる誰かから命令されている様な気がして無責任ながらユウを勧誘してしまった。


 まあ、ただそんな気がするだけで、単純に自慢になるし、これで僕を見る彼の目が変わるかもと思った。「ミナト凄いよ!尊敬する!」って一生頭下げて僕についてきてくれるようになるかもしれない。


 どうしても、どうしても、どうしても、ユウを誘わなければ。断っても腕を無理やり引っ張って連れて行く。


 すると、いつも眠そうでやる気のなさそうな顔のユウはまた一層顔の力が抜け眉のシワが深くなった。


「なんで俺がお前と一緒に行かなきゃいけないんだ!行ってたまるかそんなもの!たしかに、有名で強い業使いと会えるっていうんだったらちょっとは興味無くはないし…行ってやらなくもないかもな。だけど、こんな田舎にそんな人いる訳がないだろ?1人で行って来い!このバカ!」




※ ※




「何故俺が…」


 放課後、僕は嫌がるユウを無理矢理引き連れ、最寄りのバス停から事前に案内されていたレイのいる八王子警察署へ向かった。


 貰った名刺によると、レイは八王子警察署第一課アンドロイド犯罪対策係 に所属する巡査さんなんだって。アンドロイドだし、仕事歴が長いのかと思って聞いたが、まだ警察になって数年しか経っていないらしい。


 バスを降りて1分もせずに大きな建物が見えた。自動ドアの向こうには新築という訳ではないが小綺麗で清潔なロビーが広がっている。


 僕も今日からここの人間の一員なんだと思うと、いつも居るであろう腕章をつけた職員のおじさんや壁に貼り付けられている交通マナー週間のポスターでさえ特別に見えた。


 ここから僕の専属能力者人生が始まるんだ。色々と将来の展望を膨らませると胸が高鳴った。


「うわぁ、すげぇでっけぇ!なんだかワクワクする〜!」


 目をキラキラと輝かせつい大声を出してしまった。


「うるせぇな。騒ぐほどのもんじゃない。どこからどう見ても普通の警察署だろ。それよりも、受付したほうがいいんじゃないか?これじゃ、ただの迷惑なガキだぞ」

「あっ、そっか!」


 ユウにはっとさせられ、トコトコと受付のお姉さんのもとへ駆け寄ろうとした瞬間だった。


「――――ミナトか!こっちだ!」


 エレベーター付近にいるレイがこちらに大声で呼び掛けおいでおいでと手を振ってきた。しかし、彼の部位で僕が一番最初に目に入ってきたのは包帯がグルグルと巻かれた右腕だった。


 僕は後ろに突っ立っていたユウに呼びかけそちらの方へ小走りで駆け寄った。


「レイ、それ大丈夫?…もしかして、直らないの?」

 

 昨日僕を庇ったせいで彼の腕が一生直らないかもと思うと、申し訳無さで心がいっぱいだった。せめてお礼と謝罪だけは言わないといけないと思い、烏滸がましいながらも素直に今の気持ちを言葉に表した。


「気にするな、大丈夫だ。俺の身体は空白の期間製で構造が複雑だから今の時代の技術じゃ直すの厳しいらしいんだけど、思っていたよりもキズが浅かったから補強できるらしい。文明規制法にも抵触しない程度の傷だし、来週には直してもらう予定だよ」


 レイの腕が元の様に直ると聞くと、今さっきまで僕にのしかかっていた肩の荷が下りた。


「それだったら良かった…!それにしても本当にレイって人間みたいだよね。木の枝みたいに浮き出た血管とかさ、皮膚の細かいシワとかさ、昔の人の技術って相当凄かったんだな…」


「あ、あの。先日は…その…。ありがとうございました…。お、俺、木場ユウです。昨日しっかりお礼言いたかったんですけど…すみません…。その…」


僕に対してはいつも辛辣で嫌味ったらしい性格な癖に、年上など自分より立場が上の人間に対しては猫かぶりやがる。


「いや、いいんだよ。それが俺の仕事だから。で、君も来てくれたんだ!嬉しいよ。ね、ミナトのお友達」


「…と、友達ではないです!こいつとなんか、ぜんっぜん!友達なんかじゃ!」


レイが意地悪そうにからかうとユウは先程まで愛想の無かった青白い顔を赤らめとっさに否定した。


「えー?そうなの?昨日ミナトは君のこと友達だから助けに行きたいんです!って俺に言ったけど?」

「え…?」

「そーゆー余計なこと言わなくていいって!」

「あはは!ごめんごめん。とりあえず君と一緒に話をしたいから付いて来てくれないか?よかったら、ユウ君も一緒にどうぞ」

「は、はぁ…」


 ユウは僕の友達という看板を他人に植え付けられたことに羞恥しているのか乗り気では無い様子だ。

 

 なんだかんだ、僕はユウの事を友達だと思っているのに、片思いは悲しい。僕の友達で何が悪いんだよ、失礼だ。


 僕は河豚のようにぷくうと、頬に空気を入れ膨らませた。


 レイに案内され雑然とした廊下を歩いた。警察署といったらガタイが良く制服を着た人ばかりだと思っていたが意外にもワイシャツを身に纏って書類を持った人たちが忙しそうに駆け回ってた。


 そして僕達は、書類が乱雑としている広いデスクを抜けた端にある白いドアの狭い個室へ案内された。


 浅いお辞儀をして中へ入ると、傍にあった茶色の高級そうな革のソファにユウと座った。ふかふかで、駄目だと分かっていても僕は自然と埋もれるかのように浅く腰を掛けた。


 レイはどうぞと、透明のグラスに入れられた2杯のオレンジジュースを机の上に差し出した。そして彼は向かいの椅子に腰を掛けると僕に本題の質問してきた。


「じゃあ、単刀直入に聞くけど専属能力者試験は受けるってことでいいのかい?」

「あ、あぁ!受けるよ。だって、それやらないと専属能力者にはなれないんだろ?」

「ありがとう!助かるよ」


 レイは、その答えを聞けてホッとしたのか胸に手を当てニコリと微笑んだ。


「ありがとう?僕がそんなこと言われる覚えはないけど」


「実は今、警察省は専属能力者不足なんだ。元々、能力者って世界でも数えるほどの人数しかいないのに、最近は待遇の良い情報局にばかり人が流れていってしまってね…。警察省で試験を開いても中々有望な人材が集まらないんだ…」


 ああ、昨日のありがとうの握手ってそういう意味か。それで、警察に所属しているレイが困って僕をスカウトしたというところに繋がるのか。


 よくよく考えてみれば、レイが僕を専属能力者に誘った理由がイマイチ見えてこなかったからやっと分かって少しホッとした。


 それにしても、情報局ねえ…。僕も薄っすら【ここ数年でできた警察よりも権限がある政府組織】っていう印象しかないけど、警察よりも給料いいんだ。


 隣りにいるユウは水滴がついたコップを手にすると無言でジュースをストローで吸いだした。


「そ、そうだったんだ」


  そう説明を聞いていると、ユウが横から口を挟んできた。


「でも乙神さん。そもそも、専属能力者のスカウトなんてあなたがやる仕事なんですか?乙神さんは、ただの刑事さんでしょ?そういうのって本部の人とかがやるんじゃないですか?」

「まあ、俺の仕事じゃなくてもいいんだけど…。ミナトがすっごく強い能力だったから…”ここで俺が雇わなきゃ”って思ってね…」

「…ふうん」


 ユウは不服そうな表情になった。ざまあないね。


「そうそう。専属能力者は強さによって統合政府が定めた1から6までのランクという指標に分けられるんだ。ランク1が一番強くて6が一番下だよ。ランク1は世界にも50人ほどしかいない」

「ご、50!?」

「東京にはその内の数人がいるけど、警察省に所属しているのは1人だけだよ」

「へえ、すげえ…」

「そして、警察省では能力ランクやキャリアに応じて1番上の第1種から第3種までの専属能力者制度というものを作っていて、それぞれ待遇や給料が違う。ミナトみたいな子供は年齢制限無しの第3種試験だったら受けられるんだけど、どうする?試験は筆記と実技の両方。比率としては筆記3の実技7ぐらいかな…。3種だったら、戦闘実技である程度の活躍が期待されるランク4以上あるって判断されれば、筆記が酷くてもほぼ確実に受かると思うんだけど…」

「ランク4…?」

「ああ、ごめんごめん。ランク4って言われてもパッとしないよね。ランク4だと、1キロ先の声まで聞こえる業を持っている人とかがいるかな」

「1キロ先…すごいな…」

「でも…怒らないで聞いてくれるかな?この試験、あと1週間しかないんだ…」

「い、いええーーーーー!?1週間だって!?…ま、まぁこの天才能力者須藤ミナトに任せてみろって!任せてくださいよお!はっはっはっはっは!」

「…はあ。調子に乗っていると後で痛い目見るぞ…」

「ん、ユウはうるさいなあ…」


 うっさいうっさい。ユウなんか無視無視。


 タイムリミットがあと1週間しかないと聞いて内心バクバクになった。筆記の試験?どんな問題が出るんだろう。算数、文学、理科、社会。全部僕の苦手だ。全部1桁と1桁の計算とかだったら全然いいんだけど。


 それに、実技試験ってどんな試験だ。レイの話が本当なら、筆記より実技試験で評価されなきゃいけないってことだよな。


 少し、前へ進むのが怖くなった。


 いいや。でも、せかっく手に入れたこのチャンスを手放すわけにはいかない。 やると言ったからには絶対合格。後ろを振り返るわけにはいかない。


 隣でユウは興味なさそうに中身がもう無くなったジュースをストローでジュージューと吸っていた。


「で、そのだな…試験を受けるには第1種専属能力者資格を持っている人の推薦状とサインが必要なんだけど…」


 何故かその話になった途端、レイは頭を掻き言葉を詰まらせながら渋々話を続けた。


「分かった!じゃあ、その"すいせんじょお"とかいうやつよく分かんないけど、誰が書いてくれるんだ?」

「いや、それが…」


 レイが何かを言おうとした瞬間、突如としてその嵐がやってきた。コツコツコツとヒールの音と共に男の様な声の女が後ろから厭味ったらしく語りかけてきたのだ。


「巡査、そんなチビっこ連れてきてどうするつもりだ?」


 僕達が振り返ると、大きな胸を強調するかの様に黒いスーツを着崩し、左右非対称の黒髪のおかっぱ女がドアを開け寄り掛かっていた。左右非対称といった通り彼女はかなり奇抜な髪型をしていて、僕から見て左側は首までの長さ、右側は胸辺りまで髪が伸びそれを繋ぎ止めるかのように後ろは斜めにカットされていた。


 20代後半ぐらいなんだろうが、厚化粧から年増というイメージは払拭できない。しかし、雪のように白い肌に鼻の高いスラブ系の美女ではあった。


 僕はそのつり上がったバイオレット色の瞳にはどこか氷の様な冷たさを感じた。


「名前はすでに巡査から聞いている。須藤ミナトだったかな?昨日アンドロイド退治の際も巡査に助けられてばかりだったらしいな。ついでに業を持っていると判明して1日しか経っていないのであろう?そんな生半可な子供にアンドロイドと戦うなど任せられん」

「な、何だと〜!バカにしやがって!」


 会って数秒の人間をいきなり貶すなんてこいつはどんな女だと、僕が激昂した。すると、レイは青ざめた表情ですぐさま間に入ってきた。話題を少しでも変えようと震えた声で彼女の紹介を始めた。


「―――ミナト!この人は俺の上司の八王子警察署第一課アンドロイド犯罪対策係係長ニキータ・アバカロヴァ・戸越さんだ。ランク1の実力を持っている警察省第1種専属能力者で…その…史上最年少で第3種専属能力者試験に受かって、史上最年少でランク1判定をもらった方だ。そして…俺の上司だ…」


 先程レイが言っていた東京に1人しかいない1ランク相当の警察省所属専属能力者って、こいつのことかよ。しかも、史上最年少で専属能力者に合格した女。


 嘘か誠か。東京で…いや、世界で最も強い業使いが今僕の目の前にいる。


 今さっきまでつまらなそうに中身の無くなったジュースの氷を溶かして飲んでいたユウも「ランク1」という単語を聞いた瞬間空のコップを乱暴に置き「うえぇ!?ええ!?」と声を荒らげた。


 以前から警察や専属能力者にちょっとは興味あると言っていたが、実際のところかなり興味津々なようで、万年仏頂面のユウがここまで目を見開くなんて珍しい。


――――ユウも、業使いになりたかったのだろうか。


 本人に聞いていないから本当のところどうだって言うのは全くわからない。しかし、そうなら昨日の出来事のあと、僕のことを「人を腹立たせる天才」というはずだ。


 きっと、業使いになった僕を妬んでいるんだろう。


「警察に所属している第1種の専属能力者しか試験を受ける許可の推薦状を発行できなくて…。でな、はあ…正直に言うと…この人に推薦状を貰いに来た全員追い返されている…」

「えぇー、言うの遅いって…」

「ごめんごめん」

「他の人じゃだめなの…?」

「八王子辺りだったらこの人しか…。本部に行けば他にも何人かいるけど、俺はあんまり関わりなくてさあ…。俺の話を聞いてくれるかすらも微妙なんだよね…」

「巡査。何をコソコソしている?サインと推薦状が欲しいと言って私の下に来る愚か者には毎度説明しているが、私は推薦状を書く気もサインをする気も一切ない。時間の無駄だ。巡査も、初めて業使いを連れてきたかと思ったらガキか。まだ中学にもなっていないだろう?こんなガキに戦わせたところで何ができるんだ?足手まといになって、こいつの身代わりに死人が出るかもしれないんだぞ」

「…その、ですがっ、ミナトの力は係長が思っているよりも強大だと俺は確信しています!警察省のお力にもなれるはずです」


レイ…。僕のことそんな風に思ってくれていたんだ。


「強大な力?…私よりもか?」


 レイの説得も虚しく、ニキータの自信に満ち溢れた声と氷のような眼差しが彼を突き刺す。


「それは…」

「どうせ肝心の業も大したものじゃないだろう」

「いえ、そんなことはっ…!1度でいいから見てください!」


 舐めやがって。まだ何も見てもいないくせに見る価値なんかありませんってか。言ってくれるぜ。


 レイだって僕のためにこんなこわ~い上司に説得してくれているんだ。ここで自分の強さを信じず引き下がるわけにはいかない。


「それに、係長も…そろそろ誰かを推薦し実績を作らないと”立場”がまずいのではありませんか?”あれから”は時間が経っていますし、きっかけさえあれば本部にも…」

「―――――巡査。貴様も言うようになったな?」


 2人の間にやばい空気。”立場”?”あれから”?


 2人が何を指して話をしているのか分からないが、空気が読めないバカな僕にも触れちゃいけない事柄なんだということだけは分かる。


 …にしても、一旦冷静になって考えてみたが、史上最年少で専属能力者の試験に合格したランク1天才って言う割には、ニキータ…戸越…名前も聞いたことないな。中にはメディアにも出演して巷ではヒーロー扱いされている警察省所属の専属能力者だっているのに。


 大口叩いておいて、実は大した実力持っていないとかなんじゃないの?


 ユウはというと、窓の外を見て「そんな話僕の耳には入ってませんよ」と知らんぷりをかます。このヤバい空気の中逃げやがった。


「そうだそうだ!なんだよお前!見てもいないのに決めつけんな!自分は史上最年少で試験受かったくせに!自分は良くて他人はだめなのかよ!そんなに文句言うんだったら、僕と戦えよ!」


「おい、ミナト!そんな無茶なっ!」


 レイは僕を真剣に止めたけれど、この女に認められれば終わる話だ。何でもできる可能性を持っている僕の能力だったら、ただのランク1のこいつより強いかもと、心の中で舐め腐っていた。


「それで僕が勝ったら推薦状をくれ!負けたらここから追い返すでも何でもいい。見たこともない癖にごちゃごちゃ言われるのが一番ムカつくからさ!」

「…ふんっ。そこまで言うんだったら良いだろう。威勢のいい人間は嫌いじゃない。貴様のしょうもない業の物見見物ぐらいだったら付き合ってやる」

「なんか今さっきまで駄目だとか言ってましたけど、このおばさん、いきなり態度が変わりましたね」


 ユウは僕が思っていたよりも口に出やすいタイプの様だ。その辛辣なツッコミは女を余裕の表情から一転させ、生意気なユウを指差した。


「そこの黒髪のチビ。小声で言ってるつもりだろうが聞こえてるぞ」

「ちっ」


 ユウは女から顔を反らし、小さく舌打ちをした。


「ユウ。係長はね、こんな地方の治安維持任せられて実力を発揮する場が無いんだよ。平和が一番とはいえ、ここ数年であった事件も先日のアレくらい。だから今日は大分はりきって…」

「巡査もうるさいぞ!揃いも揃ってなんだ。その言い草は!これだから面倒くさいんだ。やるんだったらとっととやるぞ!」

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