第56話 2大バンド、遂に世界進出!1(明未の視点)

2030/4/13(土)PM7:00(瑠実の視点)



 この日ウチら4人は社員食堂で一緒にお昼ご飯を食べてた。そんな中、ざくろ姉が不意にこう言い出しおった。


「皆の者、チェーコラでアメリカに行く前に、長寿園に顔をだしに行こうと思ってるのだ我は」

「長寿園って確か、ざくろ姉が以前勤めてた職場やろ?」

「何で又そこに行こうと思ったんだ?」

「そこの人達に、我の美声を披露しようと思ってな。事情はどうあれ、突然姿を消してしまったから、我なりの罪滅ぼしをしようと思い立ったのだ。それに、利用者の喜ぶ顔が見たいのだ」

「要するに『バックレ』って奴だな…。」

「ウチも行くで、ドラム叩きに」

「無理はするな、ルミナスは長寿園とは何の関係も無い」

「以前あびる姉の前で言うたやろ、ウチにとってはBerryenのメンバーは掛け替えの無い大切なメンバーや、って」

「アタシも行くぞ、ギタリストとして」

「蒼絵お姉様の言う通りですわ」

「皆の者、感謝するぞ…。」

「あっでも、格好はどうする?。今のスタイルで行くのか?」

「いや、仮染めの姿で行こう。正装だと皆驚くではないか?、特にお年寄りが…。」

「せやな。サプライズしに行って、●人出したらシャレにならへん」

「だな。そのせいで社長から『やっぱり最初のスタイルに戻せ』とか言われたくねえし」

「瑠実お姉様の言う通りですわ…。」


 こうしてウチらは、長寿園の人達の為に急遽ライブをやる為に社長に許可を頂きに行く事にした。


「という訳なのですが、良ろしいでしょうか?」

「ああ、構わんぞ。後、私もお前達に報告がある。今回の結果のご褒美として、ドームツアーを開催する事にした」


 あまりにも突然の報告に、ウチらは何を言われてるか解らず、確認すると秋月さんが。


「はい。ちなみに日程は、7月19日に仙台ドーム、21日に北海ドーム、23日に九州ドーム、25日に中国四国ドーム、27日に関西ドーム、29日に中部ドーム、そして31日に関東ドームとなります」

「やったー、ウチら念願のドームツアーや!」

「くくく。我らの世界観をとことん表現する時が来たか…。」

「最高にロックだぜ!」

「蒼絵お姉様の言う通りですわ~!」


 こうして急遽、ドームツアー決行が決まる中、長寿園に翌日行く事を連絡し、2つ返事でOKされ、翌日に簡易ライブを行なう事になった。翌日ウチらは朝一で、ざくろ姉の恩返しに付き合う為に、以前ざくろ姉が勤めてた職場『長寿園』に来ていた。ウチらがホンマに来て皆驚いとったわ。そしてライブ開始直前、ざくろ姉がこう切り出す。


「皆さん、事情はどうあれ、突然辞めてしまって、本当に申し訳ありませんでした。皆さんの事はずっと気に掛かっていて、いつか恩返ししたいと想い、今日来させて頂きました。それでは聴いて下さい」


 こうしてウチらはサプライズを行ない、無事終える事が出来た。ライブ終了後、ざくろ姉が「有り難う御座いました。今日は出来る限り質問に答えたいと思います、質問のある方どうぞ」と言うと、ある老夫婦が何を想ってか?、ウチにこう質問して来おった。


「瑠実ちゃん、週刊誌見たよ。最近の若い娘は激しいね~♪」

「ワシも若い頃は色んな女と…。」


 お爺さんも、ご自身の過去を振り返りながら茶化して来おった。又、別の老夫婦からも。


「瑠実ちゃん、桂君とはいつ結婚するんじゃ?」

「これ、お爺さん!」

「もうとっくに別れました!」


 こんな感じで、斜め上の質問を何度もされた。多分この事はどこ行っても一生言われるんやろうな~、ウチは自業自得やからしゃあないけど、桂兄にはホンマに申し訳ない事をしてしもうたわ…。兎に角こうしてウチらは、長寿園の方々と素敵な想い出を作る事が出来た、と思う…。ウチは折角宮城に帰って来たので久々に実家に帰るり、長寿園での出来事を話すと、オカンが神妙な面持ちで…。


「瑠実、実はオトン先月一杯で会社辞めたんや、職場がどうしても合わへんかったみたいで…。後、瑠菜もこの間、人間関係で会社辞めてしもたんや…。」

「そうなんや…。実はウチらドームツアーが決まったから、興行収入ぎょうさん入って来る筈や。せやからオトンも瑠菜姉も焦って仕事探さんくてもええで。オカンもパート辞めてもええよ、何なら今流行りのFIREしてもええで、ウチが養ったるさかい!」

「ありがとな瑠実、ホンマにええ娘を持ったわ~」

「あたしもこれで婚活に専念出来るわ~」

「桂君と結婚せんで良かったな~」

「それ言わんといて~!。桂兄も桂兄なりに、ウチらの事を考えてあの時点での最善策を考えてくれてたんやから」


 こうして久々に、家族団らんしつつ、恩返しを報告する事が出来た…。


2030/4/9(金)PM4:00(明未の視点)


 この日学校が終わって、パパが退院出来ると言われて皆で迎えに行った。その帰りがてら、4月2日に国太達のせいで出来なかった生誕祭をやり直す為、ママの運転で近所のデパートへで買い出しをしようとしたその時「桂?」と声がする方を振り向いて、パパが驚きながらもこう返す。


「もしかして、杏樹?」

「パパの知り合い?」

「ああ。上京時代、俺が最初に組んだバンドのボーカルだよ」

「嗚呼~、パパを見捨てた女さんね。で、今頃何の用ですか~?」


 とママが冷ややかな視線を送りながらそう返す中、杏樹さんが。


「あの時は色々失礼な事をして、本当にごめんなさい。あの後も杏助達と頑張ったけど、色々あって解散し、他のバンドとも上手く行かず、大学卒業後も色んなバイトをやって、今は東京近郊の食品工場でパートしながらプロ目指してるのよ」


 と杏樹さんはバツが悪そうに語りつつ、更に続ける。


「昔のよしみとしてお願い、あたしをデビューさせて!。もうこれ以上職場の人間関係に苛まれたくないのよ!」

「そ、そんな事急に言われても…。」

「良いっすよ~♪」


 ママがまさかのOKを言って、わたしは思わず「ママ?」と聞き返すと、ママがこう続ける。


「社長がOKすれば、ですけどね~♪」

「ホント?、じゃあ桂が社長にあたしを紹介して!。あの時より歌と作詞数段上手くなって、しかも作曲も出来るようになったから、絶対即戦力になる筈よ!」

「ごめん、それは無理だ、それに…。例え俺が社長に紹介したとしても、多分社長はOKしないと思う…。」

「てかそんなに自信あるなら、自分で売り込めば良いじゃないっすか?」

「歌が上手いだけの30歳の女なんか、相手にされる訳無いでしょ!」

「多分杏樹さん今迄、自分に協力してくれた人をパパの時みたいに見捨てて来たでしょ?。今度はあんたが見捨てられる番ですよ~♪」

「ごめん杏樹。俺達これから、予定があるからこれで失礼するわ…。」

「待って桂、あたしを見捨てないで!」


 切羽詰まってる杏樹さんがあまりにもいたたまれなかったので、わたしは思わず。


「杏樹さん、音楽活動頑張って下さい、帰ったらネットで貴女の歌聴きますから…。」

「俺もそうするわ、久々に杏樹の歌声聴いてみたくなったし」

「ボクも聴きたいっす!」


「皆…。」と寂しそうな面持ちの杏樹さんを尻目に、わたし達はスーパーに入って行った…。

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