第26話佐藤千恵里その3
弟に邪魔されずに勉強したい佐藤さんは今日も俺の家に勉強をしにやってきた。
そんな彼女と肩を並べて勉強を始めたのだが……、英語で読めない文章が出てきた。スマホを使って調べるべく、英語の文章を打ち込み始めると……
「その文章は、気候変動を研究するための施設を建てたって意味ですよ」
横目で俺を見ていた佐藤さんが俺が読めなかった英文の意味を教えてくれた。
なるほど、climate changeで気候変動って意味があるのか。
調べる手間が省けてラッキーだな。
「ありがと。助かったよ」
「教科書に出てくる英語は大体意味を調べて覚えたので分からなければどうぞ」
「じゃあ、carbon monoxideってどういう意味?」
「一酸化炭素です」
「……ほんと、すぐに答えられるんだな」
「そりゃあ勉強してますから。っと、そういえば今輝明くんがやってる英語の問題を全部日本語訳に直したものがあるんでした。良かったらどうぞ使ってください」
佐藤さんが英文を日本語に直したものが書かれているノートを貸してくれた。
いちいち、スマホや電子辞書に英単語を打ち込まなくていいというのは、本当にストレスフリーであり、勉強がとても捗る。
これは本当に佐藤さんを家に呼んで正解だったな。
なんて思いながらも、俺は勉強を進めるのだが……
ぎゅるるるるるる……。
お腹が鳴ってしまった。
現在の時刻は20時15分であり、お昼を食べてから何も口にしていない。
こればっかりはしょうがないなと思い、俺はキッチンへと向かう。
お腹いっぱいになると眠くなるし、小腹を満たせるモノを俺は探してみる。
しかしまぁ、ちょうど良さそうなものはない。
「……我慢するか」
俺は水分補給だけ軽く済ませて、佐藤さんが居るリビングへと戻った。
「どこ行ってたんですか?」
「ちょっと小腹が空いてさ。何か食べようかな~ってキッチンに。でもまぁ、ちょうど良さそうなのがなくて泣く泣く戻ってきた」
「お菓子ならありますけどいります?」
佐藤さんはそう言いながら、カバンから最後までチョコたっぷりなプレッツェルを取り出した。
そして、お菓子をスッと俺の口元に差し出してくる。
「どうぞ」
俺は差し出されたお菓子をパクっと口で受け取ってしまう。
それはまぁ、普通にはい、あーんというお決まりなシチュエーションそのものであり、なんだか恥ずかしい。
そんな俺を見た佐藤さんは何とも言えない顔で俺に言う。
「男の子に『はい、あーん』するのキュンキュンしますね」
「俺なんかでも?」
「はい、意外と私は輝明くんのこと好きなので。こう、恥ずかしそうに私が手に持ってるお菓子を口にするところとか、普通に可愛いと思いましたよ?」
「……う、うん」
「なんですか、その私がそんなことを思うような子だと思ってなかったみたいな反応は……。いいですか、私だって女の子なんですよ? 男の子と仲良くしたいですし、仲良くなりたいですし、その先の関係にだってわりと興味ありますからね?」
俺の勘違いじゃなければ、佐藤さんって俺のことがわりと気になっていて、わりと気に入っていて、本気で好きに発展してもいいかも? って感じが凄いする。
佐藤さんは俺を結構評価してくれていて、俺次第で本当に何か起きちゃいそうだ。
「……そ、そっか」
「ちなみに、昨日今日とで輝明くんと仲良くなって、ドキドキワクワクですね」
「本当に佐藤さんって俺のこと意外と好きなんだな」
本当に意外と好きなのを実感していたときだ。
佐藤さんはグイグイと俺に迫ってくる。
「はい。なので、もっと仲良くなりたいし、もっと知りたいな~って思ってます」
「な、仲良くなって知ってどうする感じ?」
「それはそうなってからですよ」
「まあ、そりゃそうだよな……」
佐藤さんはすぐに告白してこないあたり、本気で俺のことが好きってわけではないんだろうけど……。
間違いなく、佐藤さんは俺のことが気になってはいそうである。
これってさ、つまりは……
とんでもなく俺に脈ありってことなのか?
「あ、トッポ食べます?」
俺が悩む中、佐藤さんはチョコ菓子のトッポを俺の方に向けてきた。
そんな彼女はどこか楽し気な顔をしている。
「随分とご機嫌だな」
「そりゃ楽しいですよ。男の子とこういう風に遊ぶの初めてですし。なんか楽しいな~って思わない方がおかしいと思いませんか?」
「言われてみれば、俺からしてみても、女の子と一緒に勉強会するとか普通にドキドキでワクワクだな。……っと、勉強の邪魔して悪いな」
気が付けば随分と話し込んでしまっていた。
佐藤さんに悪いなと俺は謝るのだが、佐藤さんはふふっと笑いながら俺に言った。
「このくらい別に邪魔になんて思いませんよ?」
俺とのやり取りを楽しく思ってくれている。
それが嬉しくないわけがない。
「本当に勉強再開しようか……。雑談なんて試験が終わったら、好きなだけできるんだから」
「それはあれですね。試験期間が終わっても遊ぼうって暗に誘ってる感じですか?」
「俺から誘ったら普通に遊んでくれるの?」
「誘ってくれたら普通に遊びますよ。というか、私の方から今度誘おうかなと思ってましたけどね」
「誘うって?」
「お邪魔してご迷惑をおかけしてますので、そのお礼にケーキでも一緒に食べに行きませんか? という感じです。私も普通の女子高生なので、普通に男の子とデートとかしてみたいですし」
デートしてみたいかぁ……。確かにその気持ちはよく分かる。
俺だって女の子と普通にお出かけしたくなることあるし。
そしてまぁ、一緒に俺とお出かけしたいと思えるってことは……
佐藤さんは本当に俺のことが意外と好きなんだろうな。
なんて思いつつ、俺は勉強を再開するべくシャーペンを手に取るのであった。
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