第25話佐藤千恵里その2
佐藤さんを軽い気持ちで家に来る? なんて誘ったら、本当に来てしまった。
リビングで礼儀正しく正座で座っている佐藤さんに聞く。
「今って俺の家には両親が居ないんだけど……。それでも平気だった?」
「大丈夫ですよ。というか、輝明くんの家にご両親が居ないの知ってたので、お誘いに応じましたし」
「え、なんで知ってたの?」
「ご近所さん伝手に『家入さんところ今は長男しか住んでないんですって』と聞いたお母さんが私に教えてくれましたから」
確か、母さんが仲の良かったご近所さんに言ったんだよな。
息子以外の全員が長く家を空ける予定ですって。
その噂が広まっていき、佐藤さんの耳にも届いたというわけだな。
「つまりまぁ、あれだ。男の子の一人暮らしの家にあがりこむってことになるけど、その、え~っと、本当に大丈夫?」
「大丈夫ですよ。私、輝明くんのことそこそこ好きですし」
「す、好きって?」
佐藤さんに好かれるようなことしたっけ?
苦笑いしていると、佐藤さんは俺に教えてくれた。
「去年、文化祭実行委員にされかけたときに助けてくれたじゃないですか」
「どう見てもやりたくなさそうな顔してたからな……。そんな子を見てるのもあれだったし、だったら俺がやるよって手を挙げただけだよ」
「それがまぁ、あれです。ちょっとキュンキュンしちゃいました。なので、家に上がりこんでもいいかなと思えるし、そこで多少の悪戯をされても、許してあげられるってくらいに輝明くんに攻略されてるわけですよ」
ショートカットにおしゃれなスクエア型のメガネをしている佐藤さん。
彼女は目立たないだけで普通に可愛い。
そんな子に意外と好きな方ですよと言われてデレデレとしてしまいそうになる。
「てか、あれだ。おしゃべりしてないでいい加減に勉強するか……」
「今、露骨に話題変えましたね」
「いや、だって、気まずいし」
「っと、机をお借りしてもいいですか?」
リビングにあるローテーブルに目を向けながら佐藤さんが言った。
「もちろん。てか、何時まで勉強する気なんだ?」
「21時まで……というのは大丈夫でしょうか?」
「全然いいよ」
「ありがとうございます……」
佐藤さんは軽く頭を下げた後、黙々と勉強をし始めた。
そんな彼女を見て俺だけがサボるのもなぁと思い、俺も横で一緒に勉強をすることにした。
※
21時になる数分前、佐藤さんはリビングの机に広げた教科書を片付け始めた。
どこか安堵したかのような落ち着いた声色で佐藤さんが俺に言う。
「今日はありがとうございました。それにしても、悪戯しませんでしたね」
「逆に聞くけど悪戯してよかったの?」
「別にいいですよ? だって、そういうことされるかもな~って言う覚悟のもと、輝明くんのお家にお邪魔してますし」
「……いや、いいのかよ」
水谷さんとはまた違った大胆さを見せてくる佐藤さん。
そんな彼女はやれやれと当然のことを言うかのように俺に言って来た。
「良くなかったら、お家にお邪魔なんてしませんよ」
思いのほか、佐藤さんに好意的に思われてるようだ。
どのくらい好意的に思われてるのか気になった俺はちょっとした質問をする。
「佐藤さんって意外と俺のこと好きって言ってるけど、どれくらい好きなの?」
「意外とですよ」
「その意外とってのが、どれくらいかって聞いたんだけど……」
「輝明くんが思ってるよりも私は輝明くんに好意を抱いているって感じです」
「つまり?」
「勉強中に悪戯でスカートを
本当に俺が思ってたよりも、佐藤さんは俺のことを好意的に思ってるっぽいな。
「じゃあ、スカートを捲ってもいいの?」
「怒るには怒りますので、それでも良ければどうぞお好きに」
「それは怖いからやめとくよ」
「ちなみに、今日のは可愛いのでお勧めですよ?」
佐藤さんって真面目に見えるけど意外と冗談が好きなようだ。
さてと、雑談もこれくらいにしとかないとな。
「夜も遅いし、家まで送って行ったほうがいいよな?」
「いえ、お気になさらず。ここから徒歩5分なので」
「うん、改めて思うけどめっちゃご近所さんだよな」
「ですね。今日は本当にお招きいただいてありがとうございました。おかげさまで、いつもよりも1時間30分も長く集中して勉強出来てハッピーです」
佐藤さんが両手でピースサインをしながら俺に言って来た。
ちょっと子供っぽいところもまた可愛いなとか思いつつ、俺は佐藤さんに聞く。
「明日も今日みたいに来る?」
「……いいんです?」
「まあ、俺も佐藤さんが居てくれるおかげで、集中して勉強できるから助かるし」
真面目に勉強する佐藤さんが横に居るだけで、勉強しなくちゃいけない気になる。
おかげさまで俺も今日は凄く勉強が捗ったんだよな。
「では、そういうことならお邪魔します」
「ん、わかった。明日も今日と大体同じ感じでいいよな?」
「大丈夫です。それでは本当にそろそろ帰りますね」
佐藤さんは帰りの支度を済ませて玄関へと向かいだした。
ご近所さんなこともあり、家まで送って行かなくてはいいと言われている。
とはいえ、せめて玄関までは見送りをと思い俺もついていくのであった。
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