第11話―おでかけ前日譚―
水谷さんと仲良くなってから随分と時間が過ぎた。
まだまだ梅雨だというのに、もう夏のように厳しい暑さが続いている。
そして、今日も今日とて、部活終わりにシャワーを浴びに俺の家に水谷さんがやってきた。
そんな彼女がシャワーを浴び終えてリビングのソファーでスマホを弄っているとき、俺は封筒を取り出して水谷さんの前に差し出した。
「お金を貸してくれてありがとうございました」
「うん、どういたしまして」
昨日、無事に仕送りが銀行口座に振り込まれた。
なので、俺は水谷さんに借りた2000円を返したというわけだ。
水谷さんは俺の目の前で封筒の中を確認するのは失礼と思ってか、中身を確認せずに封筒をそのままカバンへとしまった。
「さてと、水谷さんにはちゃんとお礼した方がいいよな?」
「え? お金もちゃんと返してもらったし別に何もなくていいよ?」
「でも……、ほら、この前さ友達にカラオケ誘われてたのに断ってただろ?」
水谷さんが友達にカラオケに行こうと誘われていたのを見た。
しかしまぁ、水谷さんはそれを断ったのだ。
俺が借りていなければ水谷さんは友達とカラオケに行けたに違いない。
とまぁ、これで申し訳ないと思わないような奴はクズである。
「あー、別に輝明君のせいじゃないよ。カラオケの面子にちょっと苦手な子がいて、金欠を理由にやんわりと断っただけだから」
「そうなの?」
「うん、お金は普通にあったよ」
「そういうことなら良かったよ。もしさ、俺のせいで友達と遊びに行く機会を奪ったのなら申し訳ないな~って思ってたから」
「ま、申し訳ないからとか
水谷さんは決め顔で俺の笑いを誘うかのように言ってくる。
そんな彼女に俺は笑いながら答えた。
「何がお望みで?」
「ん~、肩もみとか?」
「意外としょぼいな」
「だって、輝明君に大したことしてないし。本気でちゃんとしたお礼をして欲しい~なんて別に思ってないもん」
水谷さんは大それたお礼は望んでいないようだ。
どういうお礼が相応しいか悩んでいるときだ。
水谷さんはいい案を思いついたのだろうか、どこか得意げな顔でスマホを取り出して俺に画面を見せながら聞いてくる。
「じゃあ、お礼として、輝明君的にはどっちの水着が良いか意見を聞かせてよ!」
水谷さんはおしゃれなワンピース型の水着の画像を見せ、次に少しセクシーなビキニの水着の画像を見せてきた。
夏も近いし水着の意見を俺に聞こうってわけか。
「ワンピース型の方が俺は好きかな。デザイン可愛いし」
「なるほど」
「ちなみに去年とかはどんな水着だったんだ?」
「タンキニだよ。って、男子高校生にはわからないか。ごめんごめん」
「いや、去年の咲夜が着てたからわかるよ。たしか、語源がタンクトップとビキニから来てるやつだよな」
俺がタンキニなんて言葉を知ってるとは思うまい。
意外なことを知っていて驚いたか? としたり顔になっていると、水谷さんはニヤニヤと俺をからかってきた。
「ふーん。輝明君って咲夜ちゃんとは水着を見せ合うような仲なんだね?」
あー、そっちに食いついたか。
別に水谷さんの思うような大した関係ではないのだが、事細かに話したらもっと水谷さんが喜んじゃいそうなんだよな。
咲夜の水着を見る機会があったことについて、どう話そうかと悩んでいた時だった。
咲夜が俺の家にやってきた。
合鍵を使って我が家に入ってきた咲夜はというと、リビングにいた俺達に聞く。
「随分楽しそうね。スマホの画面を見る限り水着の話でもしてたのかしら?」
「輝明君にどういう水着がいいかな~って聞いてた。んでさ、その時に輝明君が咲夜ちゃんは去年タンキニを着てた~って口にしたわけですよ。そりゃもう、咲夜ちゃんの水着をどうして輝明君が見る機会があったのか気になって問い詰めてたとこ!」
「ああ、それは叔母様に頼まれたのよ。夏休みなのに夏らしいことを一切せずに冷房の効いた部屋で勉強以外の時間はゲーム三昧なこの引きこもりを外に連れ出して、とね。で、仕方がなく私はコイツをプールに連れて行ったわけ」
「んでんで?」
男女二人でプールに行った。
それはもう色恋沙汰が大好きな女子高生からしてみたら格好のネタだ。
水谷さんはキラキラと目を輝かせている。
「別に何も起きなかったわよ」
「え~、本当かなぁ? てか、あれだよね。話を聞けば聞くほど、二人は仲悪いとかいってるけどさ、仲良しなようにしか思えないんだけど」
「仲良くないわって何度も言わせないでくれる?」
「ごめんごめん。んでさ、咲夜ちゃん的にはどっちの水着が良いと思う?」
水谷さんはこの夏の水着はどっちがいいかと咲夜にも意見を求めた。
咲夜は水着を見比べるや否やキッパリと意見を述べる。
「ワンピース型の水着が水谷さんには似合うと思うわ」
「輝明君もワンピースの方が良いかもって言ってたし、二人の言う通りにしようかな」
「まあ、あれよ。結局は水谷さんが着るものだし、自分が好きな方にするといいんじゃないかしら?」
「ううん、私は二人のセンスを信じる! さてさて、今見てた通販サイトって、実店舗あるところだから今度直接お店に行こ~っと」
「ええ、サイズもあるでしょうし。実店舗があるなら行くに限るわね」
「咲夜ちゃんは水着を買い替えたりしないの?」
「去年のをまだ使う気だったけれども、水谷さんの水着選びを手伝っていたら新しいのが欲しくなってきたのよね……」
咲夜はどこか悩まし気にボソッと呟くように言った。
そしたらまぁ、水谷さんは咲夜を肘でつついて茶化すように言う。
「買っちゃいなよ」
「ふふっ、それもそうね」
「ねえねえ、せっかくだし一緒に買いに行かない?」
「じゃあ、そうしましょうか」
普段はクラスでは別の友達と仲良くしている咲夜と水谷さん。
そんな二人が仲良くなっていく光景を微笑ましく思っていたときだった。
水谷さんがいきなり俺の方を見てニコッと笑いながら聞いてきた。
「せっかくだし、輝明君も一緒に行く?」
いやいや、俺なんて邪魔なだけだ。
女の子だけで行った方が色々と盛り上がるんじゃないか?
俺は断ろうと思ったのだが、そんな間もなく水谷さんは楽し気に話す。
「んふふ~、いつメン意外とお買い物行くの新鮮だし楽しみっ!」
まだ行くとも行かないとも言ってないのにな。
すでに、水谷さんの中では俺も一緒に行くのはもう決定事項なようだ。
だがまあ、それでも俺が断ろうとした時だった。
咲夜が俺の脇腹を軽くつねりながらボソッと威圧するように言う。
「この雰囲気で断るのは、さすがに空気読めなさすぎよ?」
すっかりとその気な水谷さん。
彼女を幻滅させるようなことはするんじゃないと釘を刺されるのであった。
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