ルナス・タリア株式会社

壊れたガラスペン

第1話 社長室長、器用貧乏の人事係

 私は珍しく、社長に命じられて社員のスカウトへ向かった。相手は短冊学園の学生だ。学生だからといって気楽な相手ではない。短冊学園は超常氏族も多く通う有名校だ。わざわざそこの学生をスカウトするのだ。緊張しないわけがない。

 下校時間、対象学生を待ち伏せる。校門付近はまずいので、下校ルートを予測し待ち伏せている。車が通るたびに排ガスの匂いが鼻につく。ここは超常的な技術で解決できないのだろうか。いや、何なら我が社で開発してしまうのも手か。思考がそれてしまった。対象の学生は一応、社長とは知り合いらしい? よくわからないが、そうらしい。はぁ、ため息をついてしまった。知り合いなら社長からスカウトしてくれればいいのに、とも考えないでもない。

 我が社は社長のワンマン経営だ。会長、社長、役員は基本的に好き勝手に仕事している。楽しそうだ。社員の職務管理は私、総務係に任されている。魔法・魔導を扱う社員を募集しており、依頼を受けて対超常任務や都市インフラ支援、そして要人の警備などを行う。基本何でも屋だ。人員喪失の危険性がほぼゼロで尚且つ遂行不可能でなければ何でも行う。倫理観的にも判断されるが、最終決定権は社長にある。まあ、社長は優しい人だが、基本会社にいない。というか、会長、社長、役員は基本出社しない。兼務して他の仕事をしているらしい。何なら学生もいる。その分私が社長室長として、社長代理すらこなす。社内では万能者扱いされるが、こういうの基本的に器用貧乏と言うのだ。残念ながら私は万能ではない。

 情報部兼検閲係兼人事係兼広報係兼総務係兼非常勤臨時取締役兼執行役員兼特別参与兼顧問補佐代行取扱協力委嘱職代理監督調整統括参考参与代表取締役相談顧問暫定監査役、略して社長室長兼臨時取締役兼顧問であり社長代理もこなす。何だこの役職名は。

 ちなみに待ち伏せは苦手である。そもそも、学生の帰宅ルートに待ち伏せるのは不審者では? そこら辺で買ってきたペットボトルのジュースを飲みながら待っている。ちなみにコーヒーとも悩んだが、カフェインが入っているからやめた。それに、たまにコーヒーを飲むと気持ち悪くなる現象は何なんだろか。学生の帰宅ルートってそもそも変わるのでは? リサーチ不足? 不安になってきた。目が回る。少しふらついたが、大丈夫だ。いや大丈夫か?

 よかった、対象の学生を確認できた。情報部の名は捨てなくてよさそうだ。印象としては、普通の学生だ。そこら辺にも居そうだ。不信感を抱かれないように、堂々たる歩みで近寄る。足音が嫌に際立っている気がする。不安だ。向こうがこちらに気がつき見てきた。ちょうど話しかけるタイミングとしてはベストだろう。多分。名刺を取り出し、一度深呼吸する。


「はじめまして、私ルナス・タリア株式会社の人事係、壊筆 硝子かいひつ しょうこと申します。てるさん、ぜひ我が社へいらっしゃってください」


「はい、ぜひ。よろしくお願いします」


 即答だ。名刺もすぐに受け取った。確認もせずに。何だったんだ、今までの葛藤は。もしかして社長から聞いてた? 噂とは異なり礼儀正しい。ヤンチャな人だと社長から聞いていたが、誇張していたのだろうか。そして、やっぱりどこからどう見ても普通の学生だ。大丈夫だろうか。

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