第9話 なんで君がこんなところに?

「僕が先行して中の様子を確認してくる。入口ここから回廊かいろうを抜けた先に開けた空間があるはず。おそらく悲鳴はそこが発生源。ふたりは可能な限りの速度で僕に……」


 緊急な事案が発生したとはいえ、僕たちはチーム。しっかりと作戦行動をとらなければいけないと思い、行動指針を軽く話したつもりだったのだが……


「はぁ!」


 聞く耳は持ってくれなかったようだ。

 奥からの悲鳴に対して、その反応速度が最も速かったのはカナデ・アオイだった。


 得意?の次元魔法と元々のスピード性能を生かし、あっという間にマビトダンジョンの先へと消えて行く。


「ああッ! ちょっとカナデちゃん、フライングー!」


 負けじとメアもロケットスタートさながらの超加速をかまし、カナデの後を追ってダンジョンの暗闇へと一気に突入して行った。


 完全に出遅れた僕。


「たぶん、スピードだけの話だと、今の僕は彼女たちより完全に劣っているのだろうな……」


 事実は事実としてしっかりと受け入れよう。


 まぁだが、それも今だけの話だ。

 これからこのダンジョンで修行を重ねれば、スピードだって僕は彼女たちに決して負けることはないと自負している。


「おっと、そんなつまらないプライドの話をしている場合ではないな」


 急がなければ。

 もし仮にこの先の開けた空間で、冒険者がいきなり好戦的な魔人とエンカウントしていたのだとすれば……


 今のカナデとメアが力を合わせたとて、勝てるかどうかは未知数。


「まさか、地上1階の最初の広場で魔人に遭遇するとは到底思えないが……」


 原作では聞いた事ない話だが、もはやその原作は大きく改変されているんだ。あり得ないなんてことはあり得ない。


「とにかく急ごう」


 僕も足に加速の魔力を発現し、地を蹴って一気にマビトダンジョン最初の回廊を抜ける。





 1分ほど回廊を駆け、目的の開けた大広場までやってきた。

 おそらくすぐに戦闘になるだろうと覚悟を決め、戦闘態勢を整えたまま入口からその場への突入を決行したのだが……


 入ってすぐに僕の目に飛び込んできた光景は、僕の頭では到底思い描けなかった状況だった。


「あら? 貴方までこんな辺ぴなダンジョンにいらしていたのですね」


「……は?」


 思わず間の抜けた第一声を発し、キョトンとしてしまう僕。


 冒険者だと思っていた女性は、この広場の入口から少し中央付近へ寄った位置で優雅ゆうが


 彼女は僕がここへ入って来たことにはすぐに気が付き、後ろを振り向いてすぐに声をかけてきた。


 知っている女性の顔だった。


「アークは……あの子と、知り合いなの?」


「あ、ああ……」


 先に到着していたメアが警戒心をあらわにしながら、前方の金髪クルクルお嬢様をにらんでいる。いや、彼女は魔人じゃないから一旦落ち着こうか、メア。


「あの女からは……カオスを、感じます……」


 メアの隣にいたカナデの表情も非常に険しい。

 すでに携帯していた細身の剣を抜き、いつでも切りかかれる体制を崩していない。


「落ち着けふたりとも。彼女は僕の知り合いだ」


 ライラ・アイゼンバーグ。


 王立魔法学園グリンガム結界魔法科の3年。出は旧王家。いずれこのグランドテイルズの世界で最強の一角とうたわれる、結界魔法師の女性だ。つい最近まで僕と週に一度、夕食をともにしていた程度の仲である。


「お三方さんかた、なぜわざわざ学園からこんなにも遠い、SS級の危険度を誇るマビトダンジョンまでいらしたのですか? なにか目的でも?」


 いやいや。

 その台詞、そっくりそのままお返ししたいのですが。


「こちらの質問が先だ。ミズ.ライラ」


 ここは悪役らしくいこう。

 会話の主導権は僕が握る。


わたくしはスマートな紳士の質問にしか答えない主義なの。ごめんあそばせ」


 この女……

 やっぱり僕が太ったから、夕食会に誘わなくなったんだな! アイゼンバーグ家の夕食、めっちゃ美味かったのに!


 食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ、ライラ。


「強引に口を割らせることは簡単だ」


 少し凄みを効かせる僕。

 太ったとはいえ、一応まだ極悪の威圧感は出せていると自分では思っている。


「あら。それ、もしかして脅しかしら? ああ、なるほどですわね。前に私が薄皮程度に張った結界を簡単に破れちゃったから、調子に乗っているのですわね」


「なに?」


 前に、というのは僕がライラの家に最初に招かれた時のことを言っているのだろう。僕が帰宅しようとしたら結界を張って邪魔をしてきたから、それを僕が粉々に打ち砕いて帰った時の話をしているのだと思われる。


 だが、あれが薄皮程度とは大それたことを言う。


 本気じゃなかったと言いたいのか?


「まぁ、強引なのはわりと嫌いじゃないですから、やってみられてもよろしいかと思うのですけど。ただ、その前に……」


 飲み終えたティーカップをそのまま空中へと高く放り投げ、椅子から立ち上がるライラ。高速で両手を複雑に絡め合い、何かの印を結ぶ。


 そして……


結解リリース!」


 そうライラが高らかに叫んだ瞬間、僕たちのいるこの空間に、とんでもない異変が起こった。


「きゃっ!」


「う、うわぁ……」


「な、なんだ……これは……」


 突如現れた周囲の見るも無残な光景に、僕らシャンバラヤメンバー一同の驚きは隠せなかった。


 ライラが結解リリースと声を上げた瞬間、周囲の壁という壁一面からドロリと赤い血液が大量に流れ落ちている。


 よく見ると、その血液には薄く引き伸ばされた魔物の肉や毛が大量に混じっており、まるでなにかの圧力で押しつぶされたような形跡が見てとれた。


「デメリットは、やっぱりちょっと時間がかかっちゃうことですわよね。こう、ガッと素早く結界をいっぺんに広げて圧死させられるようになれば、わたくしも一人前なんじゃないかと思うのですけれど」


 空へ投げたティーカップを再び手元へ納めながら、ライラはこともなげに自身のおそろしい結界魔法の使用使途について説明してくれた。


 僕らが入って来た時にはもう、結界はほぼ広がりきっていたというワケか。

 

 壁と結界の間に敵を閉じ込め、ジリジリと結界を広げて空間を詰めていき、最終的には圧死させるというわけのわからない戦略で、この広場に跋扈ばっこしていた敵はすべて蹂躙じゅうりんしたということなのだろう。


 しかも内側からの透過度とうかどを無くし、遮音性しゃおんせいを上げ、敵が潰れていく過程を中からはまったくわからないようにするといった、高度な細工まで施して……


「ライラ……」


「さ、野暮用やぼようはもう終わったわよ、アーク・ヴィ・シュテリンガー。貴方の強引なところ、わたくしに見せてみてよ……」


 ライラは再び椅子に座り、足元に置いてあったティーポットで茶を注いでいる。

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