第5話 魔力の器

 魔力鑑定でわかるのはあくまでポテンシャルの話だ。いわゆる器。言い換えれば才能ってヤツだね。


 だから、鑑定で得られた結果は現時点の強さを推し量るモノではなく、あくまで将来的に努力を重ねたらそうなれる確率が高いってだけの話。


 ただ、器が具体化されれば今後の目指すべきしるべにはなる。

  

 アークに一定以上の魔法の才があるのはすでにわかっている。

 

 でもせっかくなら、知っておきたい。

 周回するにも、魔法を効果的に使えたほうが便利だしね。


 それともうひとつ。

 あえて破格の報酬を約束してまで、デュネイ・アーカイヴと関係を築いておきたかったのには理由がある。


「この精霊石に手をかざしてくれる?」


「これでいいのか?」


「ああ……そうそう、上手よ。アーク……」


「……」


 懐に所持していた巾着きんちゃく袋から金貨を5枚取り出し、前払いでそれを手渡したら、デュネイの表情はニッコニコになった。


 金遣いが荒いということは、金に溺れやすいということ。


 操りやすい。確実に。


 もしこの時点でデュネイに恩を売り、飼いならすことが出来れば。


 少なくとも僕の墓石はかいし直行フラグでもっとも回避が困難とされる、「原作主人公による理不尽な断罪」を止められる可能性が高まる。


 肉体改造も大事だが、1人でも多くの仲間を増やす努力も必要だ。出会いのひとつひとつを、大事にしなきゃいけない。


「そのまま集中して魔力を高めてみて。私の色気でこの精霊石くん、もう感度ビンビンになっちゃってるから、準備OKよ」


「……」


 色気と魔力鑑定の因果関係はゼロだと思うのだが。


 まぁいいか。

 とりあえずやってみよう。


 魔法を使う時のような感覚を、さらに研ぎ澄ませばいいのかな。


 えい。


「えっ? うそ。ヤダ、スゴい」


 深緑の精霊石がみるみるドス黒く変色していく。


「な、なにコレ……信じられない……」


 かと思ったのも束の間、今度は気持ちの悪い紫の奔流が渦巻く。


「どういうことだ。説明しろ、デュネイ」


「ああ……あああ……んッ!」


 最後は純白に光り輝き、そして……

 精霊石は粉々に砕け散った。


「はぁはぁ……最高、だったわよ。アーク……」


 何故かやり切った感を出し疲れ果てているデュネイ。ずっと精霊石を持ってくれてただけなのに、その息遣いはなんなんだ。


 で、どうなの?

 僕の魔力、結局どんな感じなの?


「精霊石はただの媒介。鑑定したのはあくまで私なの」


 その情報は別にいらない。


「そんなことはどうでもいい。結論を先に言え。方法論に興味はない」


「もう! ちょっとは余韻に浸らせてよ。情事のあとのアフタートークは大切よ」


 情事ではないですね。はい。


「早く結果を言え」


「興奮したのは本当なんだけどね。まぁ、おふざけはここまでにしましょうか」


 切れ長で漆黒の大きな瞳に闇が戻る。いきなり雰囲気が魔女になった。


 色狂いからのギャップで風邪を引きそうだ。


「お望み通り。結論から先に言うと、魔力の器は“海”ね」


「海?」


 原作ではなかった表現だ。

 どう解釈すればいいのかまるでわからない。


「ええ。まぁわかりやすく説明すると、一般的な魔法使いの器は普通のバケツ。一流だと井戸くらいかしら。さらに上位の概念だと湖ね。海はなんていうかもう、測定不能って感じ?」


 規格外ってことでいいのかな?

 デカいのはカラダだけじゃなかったんだな。


 たださっきも言ったがこれはあくまで器の話だ。現状、中に水(魔力)が満たされているという話ではない。


「得意属性は?」


「無属性ね」


「えっ?」


「目に見えた発光は3種類だけだったけど。私のナカでは虹だったわ。虹は無属性」


 このゲームにおいて無属性を扱えるキャラは最強の証だ。メインシナリオの原作主人公でも使用不可。特質と言っても過言ではない。


 まぁ、目の前にいる魔女もソレなんだけどね。当然のように無属性魔法を扱える。器が海かどうかはわからないが、彼女の魔力量も人外レベルなのは知っている。


 ちなみに無属性が扱えるからと言って、他の属性魔法が使えないということはない。現に僕は、土魔法や冷魔法をすでに操れている。


「貴女と同じ、ということか」


「才能はね。あとは鍛錬次第ってところかしら」


 努力しなければ結局は宝の持ち腐れということか。

 

 面白い。それならば。

 僕の肉体改造500日計画に、新たなミッションを付け加えるだけだ。


「デュネイ」


「なぁに?」


「僕の師匠になれ」


「はぁ?」


「異論は認めん」


 仲間を増やす意味でも、ここで接点を断つのはもったいない。デュネイには僕の先生役として、これからも関わってもらうことに決定だ。


「自由を愛するこの私、デュネイ・アーカイヴを勤め人にすると?」


「3日に1度で構わん。午後から2h程度だ」


「……高いわよ」


 金額の暗示は興味の証だ。

 やはりこの魔女、すこぶる金に弱い。


 この交渉、もらった。


「我が父、ガレスは君にいくら貸している?」


「金貨100000枚くらいね。たぶん」


 はっ? えっ? 借り過ぎでしょ。

 父上殿は気前が良すぎる。


 もしかして、弱みを握られているか、はたまた浮気でもしてんじゃないの?


 シュテリンガー家がかなり裕福な家なのは知っていたが。


 まぁいい。

 その資産も、ありがたく利用させてもらう。


「契約期間は500日。167日出勤、333時間労働だ。時給金貨は300枚。それで父上との借金は完済できる。どうだ? 破格の条件だろう?」


「ええ……」


 ありえない提案だと思うが、まだかなり悩んでいる様子だな。彼女にとって自由とは、お金以上の価値を持つものなのかもしれない。


 だが……


「わかった。後々の利払いも勘弁してやる。我がシュテリンガー家が管轄する魔法図書館への自由入室顔パスも許可する。それでどうだ?」


「ご飯も食べたい」


「いいだろう。昼食も用意させよう」


「好きっ! アークさまっ!」


 わっ! ちょっと、くっつくなよ!


「父には僕から話しておく。10日後、シュテリンガー家の修練場へ来るように」


「は~い」


 こうして、僕は天帝の魔女デュネイを魔法の師匠として招聘しょうへいすることに成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る