還り雛の揺り籠
siouni
プロローグ:霞鳥村の断片 - デジタルの囁き
始まりは、ありふれたデジタルの深淵からだった。
深夜、無数のサーバーのどこかに記録されている、匿名掲示板の過去ログ。そのオカルト超常現象板に、ひっそりと存在するスレッド。
『ガチで行ってはいけない村 Part.43』
無数に立てられては消えていくスレッドの一つに過ぎない。そこに書き込まれる体験談の九割は、退屈な日常に飽いた者たちの作り話か、承認欲求の産物だ。だが、残りの一割。ごく稀に、本物の怪異に触れてしまった者の、切実な叫びが混じる。
ある書き込みに、マウスのホイールが止まった。
『345 :本当にあった怖い名無し:
昔、サークルの連中と肝試しに行ったことがある。面白半分で村の奥にあるっていう社を目指したんだが、途中で日が暮れてきてな。霧がすごくて、マジで数メートル先も見えなくなった。
その時、一緒に行ってた先輩の一人が「うわっ」て短い悲鳴をあげて、それっきり。
いくら呼んでも返事がなくて、俺たちはパニクって逃げ帰った。
警察にも届けたけど、結局、先輩は見つからなかった。ただの遭難事故ってことにされたけど、俺は今でも信じてる。あれは、何かに「連れていかれた」んだって。』
陳腐な怪談話。そう切り捨てるには、妙に生々しい手触りがあった。改行のタイミング、句読点の使い方に、書き手の動揺が滲んでいる。
スレッドは、その書き込みに呼応するように進む。
『348 :本当にあった怖い名無し:
>>345
それ、マジなやつだ。
あの村は、よそ者を「稀人(まれびと)」って呼んで、村の災厄とか穢れを全部押し付けて、村の外に流すっていう古い儀式がまだ生きてるって噂だ。
表向きは歓迎されるんだけど、それは生贄として品定めされてるだけ。
役目が終わったら、神隠しにあう。それが「還り雛」の儀式。』
真偽は定かではない。だが、こうしたデジタルデータの片隅にこそ、現代の怪異は巣食うのだ。そして、その噂は、やがて現実のインクの染みとなって、公の記録に姿を現す。
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