8日は駅で

依田口孤蓬

8日は駅で

朝焼けは熟れたすももの色なのに昨日の日記がまだ終わらない


快速の停まらない駅 毎朝の海は青い残像として


隣から細い寝息が邪魔をしてときどきうねる数式の字


教室の隅であなたと冗談を象が砂をかけ合うように


紫陽花をたくさん摘んでコンビニをひとつふたつと過ぎる放課後


大袈裟な比喩を考えているうちに海の青さを忘れてしまう


教科書を右から左へ移すうち窓にだんだん太る三日月


にわか雨 傘を持たない人たちの群れに紛れて試験が近い


ありったけの「あなたと海へ行きたい」を改札口の向こうへ投げる


薄青のスカートの裾ひるがえし何も持たずに8日は駅で

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8日は駅で 依田口孤蓬 @kohouyodaguchi

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