消せない
花月 零
第1話
2年前の8月31日
幼馴染が赤に染まった。
理由は分からない。遺された言葉は何もなかった。手元のスマホの待ち受け画面は同じ高校に受かってハイになったテンションのまま撮ったツーショット。
この画面の幼馴染は満面の笑みでそれはそれは幸せそうに見える。
あの日、僕は次の日から始まるはずだった新学期に備えて早めに眠ろうとしていた。
ポコン、ポコン。そう連続してスマホがなって、スタ連でもされてるのかと少し鬱陶しく思いながらトークアプリを開いた。
送り主は幼馴染。規則正しい生活を送っているのを知っているからこそ、珍しいと思いながらもアプリを開いたのを鮮明に覚えている。
『起きてる?』
『寝てるかな』
『どうかな』
『起きてるけど、どした?』
『起きてた。』
なんとなく、変だと思った。送り主は幼馴染なのに、複数人いるように感じる文面だったから。
『え、なんかあった?』
『別に。ただ、なんとなく。』
『ならいいけど』
ここで、もっとその違和感の正体を突き詰めればあいつが赤に染まることは無かったかもしれないのに。
なんとなく。その言葉を信じてスマホの画面を落とし、眠りについた。
次の日、起きたら幼馴染は居なくなっていた。赤に染まり、ずっと綺麗に保っていたサラサラの髪も元の色が分からない部分があるくらいだった。
学校の始業式も勿論後ろ倒しに。でも、その日が来てもどうしても行く気にはなれなかった。
虚無感に苛まれたあの日から2年。また今年も8月31日がやって来た。最後のメッセージが来た日だ。
そして、僕は2年前の9月1日にスマホを機種変更した。データ移行をしないで。
なぜなら、あいつから来た最後のメッセージの通知マークが表示されているから。あの日の前日、僕は幼馴染とのトーク画面のままスマホを閉じてしまったから。開けば、あの通知は消えてしまう。
それが消えてしまえば、あいつからメッセージが来ていた証拠が無くなってしまう。
あいつが生きている気が完全に失せてしまうから。
「ねぇ、なんで急に居なくなったの。理由くらい、教えてくれたってよかったじゃんか。」
見てもすぐに記憶から消してしまう、最後のメッセージ通知。表示されているそれは、たった一言だけ。
『またね』
消せない 花月 零 @Rei_Kaduki
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