第11話

 初配信から二週間。

 わたしはスキップしそうになりながら、ぶいしゅご!事務所の会議室に向かっていた。

 その理由は……

「リーフ、チャンネル登録者一万人おめでとう!」

 会議室についたわたしに、先に来ていた四人がいっせいに声をかけてくれる。

「みんな、ありがとう!!」

 動画投稿サイトでの、夕暮リーフのチャンネル登録者数が、一万人を突破したの!

 たったの二週間でこんなに見てもらえたのは、わたしの実力じゃなくてぶいしゅご!の知名度のおかげだと思うけど……それでも嬉しいものは嬉しい!

 それで、記念にリスナーのみんなに喜んでもらえるような特別な企画をやりたくて、みんなに相談したら、翠が「私にアイディアがあるの」って言ってくれたんだよね。


「じゃあ、みんな揃ったから、始めていこうかしら」

 そう言って、翠は机の上に置いてあったドローンを手に取った。

 って、なんでドローン?

 両手にギリギリ乗るくらいの大きさで、下にはカメラがくっついてて……見るからに高性能な感じだ。

「これは、KUJOのチームと颯真が共同開発した3Dカメラよ」

「3Dカメラ?」

「そう。このカメラがあれば、ディスログと戦う私たちの姿を3Dで生配信できるの。記念のサプライズにピッタリじゃない?」

「ええっ!? すごい!!」

 颯真くんは個人でアプリ開発もしてるって前に言ってたけど……こんなことまでやってたの!?

「でも……カメラだけで3D配信ってできないよね?」

 わたしはハルくんを推し始めてから、ちょっとだけVTuberに詳しくなった。

 VTuberの3D配信には、カメラはもちろん、3D用のアバターや、現実の体の動きを反映させるための特別な機材が必要なはず。

 ましてや、バーチャルワールドの姿を配信するって……どうやるの?

「ここからは僕が説明しますね」

 颯真くんがメガネをカチャリと押し上げて、わたしたちの顔を見回した。

「まず、バーチャルワールドでは僕たちの体は0と1のデータになっているので、」

 うんうんそうだよね……

 って、

「えええっ!!?」

「なんだよそれっ!?」

 わたしとハル先輩が同時に叫ぶ。

 だけど、驚いているのはわたしたちだけ。

「水無瀬くんには昔説明しました。あなた立花さんにちゃんと教えてませんでしたね……」

 ゴホンと咳払いをして、颯真くんは言った。

「バーチャルワールドは全てがデータでできています。僕たちはVTuberの姿……つまりイラストデータであるアバターに変身することで、初めてログインが可能になるんです」

「そ、そうだったんだ!?」

 衝撃の事実すぎるよ!?

 けど、データの世界に入るには、わたしたちもデータになる必要がある……って言われたら、確かに納得かも。

 あれっ? でもそれじゃあ……

「それじゃ変じゃないか? 琴葉は最初、VTuberじゃなかった。現実のこの姿でバーチャルワールドに迷い込んで、それから仲間になったんだ」

 わたしが思ったことを、ハル先輩が聞いてくれた。

 颯真くんはその質問も予想済みという感じで、軽くうなずく。

「おそらく立花さんの姿は、バーチャルワールドに既にあったんだと思います」

「既にあった……?」

「あくまで、僕の予想ですが。バーチャルワールドには現実世界の全て……景色、人やその記憶、過去に起こった出来事などがデータ化されて入っています」

「もしかして、知らない人の過去が見れるのも、データがあるおかげってこと?」

「はい。僕たちにはデータを引き出すことはできないので、立花さんだけの能力ですね」

「へええ……そうなんだ」

 なんで他人の過去が見えるのか謎だったけど、ちゃんとした理由があったんだ。

 そういうものなんだ! って納得しちゃってたよ……。

「じゃあ、バーチャルワールドの景色が現実そっくりなのも、データがあるからなのか!」

「琴葉ちゃんのおかげで、ナゾがとけたんだね☆」

 みんなが感心してるのを見て、颯真くんは少し嬉しそうだった。

「話を戻しますが。アバターデータとなった僕たちは外から見れば、よくできた3Dモデルに見えます。その映像を撮影、配信できるのが、このカメラというわけです」

 みんなの視線がもう一度、カメラドローンに集まる。

「起動後は自動操縦で撮影しますので、みなさんはいつも通り戦ってください」

「さっそくだけど、次に出動通知が出たときに最初の配信をしようと思うの。みんな、いいかしら?」

 翠が話を引き継いで、わたしたちの顔を見回した。

 答えはもちろん——

「やってやろうぜ!」

「ここねバーチャルライブ☆ みんなも見てもらえるんだね!」

「みんなのかっこいい戦いを3Dで見れるなんて、最高だよ!!」

 配信ってことはアーカイブが残るから、何回でも繰り返し見れるし……!

 わたしがバーチャルワールドでみんなの戦う姿を見た時の感動を、リスナーのみんなも配信で味わえるってこと!?

 それって最高じゃない!?

「それじゃあ、決まりね。ディスログの出現は予測できないから、告知なしのゲリラ配信になるけど……それも斬新でいいわよね」

「みんなもワクワクするねっ♪」

「わたし、まだみんなと出動したことないし……緊張するけど、頑張るよ!」

 結衣とケンカした時のことは、ハル先輩しか知らないから……わたしの正式な守護者の活動と、初3D配信が同時ってことになる。

 リスナーのみんなにもだけど、わたしにとってもドキドキの連続だよ……!

 気合を入れたその瞬間、全員のスマホから、ピーピーと大きな音が鳴り響いた。

 しゅごナビの出動通知!

「ウワサをすればなんとやらですね。さあ、行きましょう」

 颯真くんがスマホとカメラドローンを両手に持って立ち上がる。

 わたしも慌ててしゅごナビを開くと、“ディスログ反応あり 場所:東京ドーム”と表示されていた。

「東京ドームって、あの東京ドーム!?」

「ここね、東京ドームで歌うのが夢だったの! 気合い入れていっちゃおう☆」

 うきうきのここねちゃんが、真っ先にログインしていく。

 わたしもスマホを握り締めて、バーチャルワールドにログイン。そして、ワープ!

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