1-1 暴力は人を傷つけるが「怠惰」は誰も傷つけない

「さて……じゃあゼフィーラ様。まずはそのお手を拝借……」



そういえば、この男は設定上元騎士だった。

その育ちの良さがあるのだろう、仮に凌辱するとしてもこの男も強引に服を脱がせるような真似はしてこず、手の甲にキスをするところから始めるようだ。



……だが、それでも嫌なものは嫌だ。

そう私が思ってこの男に手を取られた、その瞬間。

バチン! ……となにかが弾けた音がした。


「な……なに!?」


そう思って男を見るが、男は一瞬呆けたような表情を見せた。



「…………」


男はそうしてしばらくこちらを見据えた後、



「はあ~~~~~~~~」



と、凄まじい程のため息を着くなり、いきなりベッドから降りてごろんと横になった。



「あ~あ~あ~あ~! 面倒くさいなあ……。そもそもなんで俺がこんなことしなきゃいけないんだよ……」

「あれ……?」

「この女を無理やり犯す? 面倒くせえよな、たくよ……やってらんねーぜ!」



そういいながら男はゴロゴロと転がりながら私に顔だけ向けて答える。



「……叫んでください、ゼフィーラ様」

「は?」

「俺に犯されているような声で、思いっきり叫んでください。それで、凌辱はやったことにしましょうや」



そして男は器用に寝ながら煙草を付けると、ふうう……と旨そうに吸ったあと、目を閉じる。



「俺、後2時間したら出てくんで、そしたら起こしてください……。実は俺、最近あのババアにこき使われてて、寝てねえんすよ……」


ババアとは、義姉のことだろう。

彼女は28歳でありババアと呼ばれる歳ではないが、それだけ彼女が嫌われていることが分かる。



「あ、はあ……」

「ほら、早く叫んで? ババアに悲鳴が聞こえないと怪しまれるんすから!」

「わ、分かったわ……きゃああああ! 助けて! お願い!」



そういいながら、私は大声を出した。

あまり全力で叫ぶと疲れるから嫌だが、私は生来声がでかい。これくらいの声であれば外にも響くだろう。



「そうそう、そんな感じっす……はあ、にしてもこの香水、いい匂いっすね。この城で最後の思い出になりますよ」



見ると、男は私には完全に興味を失ったようで、部屋に転がっていた香水の空き瓶を胸いっぱいに吸い込んでいた。

私は叫ぶ演技をしながら、その男に声をかける。



「なんで私を襲わないの?」

「なんでって……。面倒になったんすよ。ババアの命令に従うのも、あんたを犯してラミントンの旦那に恨まれるのも……泣きながら抵抗して、絶望するあんたを無理やり押さえつけて犯すのも……そして何より、あんたに憎まれるのも」

「……へえ……」



本編では、私は凌辱されたことそのものが、物語を始める大きな起点となる。

凌辱の一件を知ったラミントン王子が怒りに駆られ、そして私とともに復讐劇に手を貸してくれるという展開だからだ。


……だが、彼がこのような態度を取るのであれば復讐劇自体が始まらない。

どうやらこれは、偶然ではなく私が持つ何らかの『スキル』によるものだろうと推測した。


私は男に尋ねる。



「あなたはどうするの、これから?」

「さあ……。とりあえず『仕事はした』って報告だけして、逃げ出しますわ。今夜のことがバレたらババアに殺されますし、犯したってことがラミントンの旦那に知られたら、結局殺されます。どっちに転んでも死ぬなら、わずかな人生を好きに生きようかと」

「……そう……無情な世界ね、まったく」



命令とはいえ女を犯そうとするような男がどうなろうが私の知ったことではない。


そう思っていたが、どの道を選ぼうとも殺される選択肢しかない彼を見ると、まるで『私に怒鳴られるか、私の代わりに家事をやるか』という理不尽な選択ばかり強いられてきた弟(めしつかい)に姿が重なり、同情的な気になった。



「それならこれ、盗んでっていいわ。路銀の足しにでもしなさいよ」


そして私は、近くにあった銀の燭台を彼に渡した。

すると男は驚いた表情を見せた。


「え……いいんすか?」

「ええ。……だから、私を逆恨みしないでね? 恨まれるのは面倒だし、恨むのも面倒だから……」

「あ……ありがとうございます! この恩は忘れません!」



それからしばらくして、男は部屋から出ていった。





「うーん……」


結局、私はあの男に凌辱されることなく、この問題を切り抜けた。



「やっぱり、手に何かの力が伝わったけど……それが原因よね……」



そういいながら私は自分の手を見た。

今は特に変わったところはないが、確かに彼に手を取られた時に私の手が光ったのをはっきりと覚えている。


恐らく、何らかの発動要因を満たすとこの手が光って、力を発揮するのだろう。



(いったい、何が発動要因なのかな……)



そう思って私は5分ほど考えた。

……だが、怠け者の私は、すぐに色々考えるのが嫌になった。


そもそも、なんでこんな面倒なことを考えないといけないのだ。

チートスキルを付けてくれるなら、あらかじめ女神様か誰かが説明してくれるのは常識だろう。まったく気が効かない。



「……ああ、面倒くさ……」



だが、そんな風に思っていると手が淡く光りだした。



「あ……そういうことか……」



それによって私は理解した。

……どうやら、私のスキルは、


「私が『面倒くさい』と思ったときに発動し、触れた相手から『やる気』を失わせる効果」


なのだ。


(へえ……。なんか、面倒くさがりの私にピッタリのスキルね……)



一見するとクソみたいな能力だが、使いどころは変幻自在だ。

漫画やゲームに出てくる『チートキャラ』であっても、触っただけで無力化できる。


いわゆる能力バトル物などでは、この手の『一撃必殺』を狙える能力は大抵反則扱いされる。



(だから……この能力をしっかりと鍛えて、そしてこの『作業ゲー』の世界で一生懸命鍛錬すれば、きっと私はチートな物語の主人公になれるはずよね!)



そう私は思った。

この世界は作業ゲーではあるが、逆に言えばしっかり鍛錬すればどんどん能力が上がるという特徴がある。


(うん! 前世では怠け者だったけど……今度こそ、心を入れ替えて頑張ろう!)


そうだ、ここみたいに『努力が直接結果に結びつく』という世界は素晴らしい!

私は前世ではニートだったけど、この世界でこそ一生懸命頑張るのだ!

この能力を世界平和に活かして、世界に名をはせるような素晴らしい英雄になるんだ!



そんな風に思いながら、私は自身の能力について研究を始めることにした。





「……ふあああ……やっぱ、面倒ね……」





……だが『努力が出来る』というのは、正直私にとっては何よりも羨ましい『チートスキル」だ。元の世界でろくに物事に取り組んでこなかった私が、急に習得できるわけがない。



(……どうせなら……神様……『努力する才能』も一緒に……私に付けてから転生させて……くれたらよかったのに……むにゃ……)



……最初の意気込みはどこへやら、5分後に面倒になって眠りに落ちたのは言うまでもない。

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