努力嫌いのニートは、悪役令嬢に転生しても頑張れません!~復讐メインの鬱ゲーの世界でぐうたらしてたら、王子から『慈愛の聖女』と溺愛されました~

フーラー

プロローグ 姉がいる家がうらやましい? 笑わせるな! 姉が主人なら弟は召使いだ!

「はあ、なんで主人公って、あんなに努力できるんだろうな……」



私は「異世界転移」や「異世界転生」の物語に出てくる主人公を見るたびにそう疑問を感じていた。


どの主人公も、現世の世界から仕事に勉学に、頑張りすぎだ。……私のようなニートの身としては『過労で転生』なんてするほど働ける人たちのことを心から尊敬する。



「断罪されて死ぬのが怖いからって、なんであんなに頑張れるかな、悪役令嬢様は……」



そして彼女たちは転移してからも、一生懸命自分のやりたいことをやるし、死なないために必死でレベリングや人間関係の構築にいそしんでいる。

……あんなこと、正直命がかかっていたとしても、私ができるとは思えない。



「もし私が転移したら、きっとすぐ死ぬよね。つーか努力も才能じゃない。『前世で頑張れない人間が、転生したくらいで急に努力できるようになる』なんてことが出来たら、苦労はしないわよ……」



そういいながら、私はプレイしていたゲームを辞めてベッドに寝っ転がりながら、自堕落にスナック菓子をぼりぼりと貪る。



……私は超が付くほどの怠け者で面倒くさがりだ。

そして何より、努力が大っ嫌いだ。



仮にデスゲームの世界に招待されたとしたとしても、生き残るために頑張るのが嫌で、最初に殺される役回りになるのが容易に想像がつく。

私はお菓子の食べかすを手近にあったチラシを使って集める。



(ん? 今度近所で砂糖が安売りされるのね……いいじゃん、明日買いに行こ!)


そんな私がやる気を出せることと言ったら、趣味のお菓子作りくらいだ。

恋愛は愚か、家事も仕事も友達作りすら面倒で、私には恋人も友達もいない。



そんな私がベッドの上で下着姿のままぐうたらしていると、弟(めしつかい)の哀灯(あいと)が私の部屋のドアを開けた。



「なあ、姉さん……って、きったないな。この部屋!」


私の部屋は、基本的にはゴミっためだ。

掃除なんて面倒くさいし、別にやらなくても死にはしない。



「なに、哀灯?」

「俺今日は塾だからさ。夕飯は作っといたから、それ食っといて?」



この可愛い弟(めしつかい)は、ニートの私の代わりに家事全般をやってくれている。

おかげで、母さんはこいつばかり可愛がっているが、まあ当然だろう。



「ああ、ありがとね」

「後さ……姉さん、少しは働いたら? こないだも母さんに叱られたでしょ?」

「え? ああ、そうだったわね」


「姉さんはいつも、俺ばっかり家事やらせるよな! 姉さんがやることと言ったらゲームとお菓子作りくらいで……! しかもさ、後片付けするのは俺! ゲームのレベリングは俺! 失敗作が出来たら、食わされるのも俺! もういい加減にしろよな!」

「あ~はいはい。ごめんごめん」



弟(めしつかい)は、年下の分際で私に偉そうに説教をかましてきた。

だが、正直なところ弟(めしつかい)のいうことなど、私にとっては虫のざわめきだ。私がしばらく生返事をしているとようやく説教を諦めたようで、はあはあと息を枯らす。



「ったく……まあいいや。それじゃ、塾行ってくるから留守番してくれよ」

「はいはい……あ、そうだ。帰りにアイス買ってきて。バイト代出たんでしょ?」

「はあ!? なんで俺が……」

「あん!?」

「ひ!」


弟(めしつかい)には「はい」以外の返答は許可しない。

そう思って私が睨みつけた。


「……ゴメン、口答えしたように聞こえたけど……。まさかとは思うけど、聞き違いよね?」

「あ、いや、その……」



すでに腕力はとっくに逆転しているが、力関係は微塵も変化しない。姉弟とはそういう生き物なのだ。


……おかげで弟はすっかり『兄妹もの』ばかり読むようになってしまった。あいつの居ない隙に、ベッドの下に隠している本を漁ったが、姉が出てくる漫画は一つもなかった。

まったく、こいつは妹に幻想を持ちすぎだ。



「あ、いや……。分かったよ……ったく……。まあいいや、洗濯物干しといたから、姉さんは自分の分くらい畳んどいてよ?」



そういうと弟(めしつかい)は出ていった。




「はあ……面倒くさいな……」


私はああ言ったが、正直洗濯物をたたむのはやりたくない。

なんでそんなことを私がやらないといけないのだ。帰ったら理由を付けて弟(めしつかい)にでもやらせよう。



そう思いながら私はペットボトルに口を付けようとする。

だが、



(あれ、空だ……)


私はそう思うと、その場で動かずに大声を出す。


「哀灯? ジュース!」



だが、反応がない。

……そうだ、弟(めしつかい)は塾に行ったんだった。

下に降りるのも面倒だから、ゲームでもやって気を紛らわせよう。



そう思いながら私はベッドに横たわりスマホゲームを始めた。

……だが、それが良くなかった。それがこの『現代日本』で私が見た最期の景色になったのだから。




ーーーーーー



「……あれ、ここは……どこ?」


次に目が覚めた時、私は天蓋付きの美しいベッドの上で、おしゃれなネグリジェを来た状態で、ベッドに横たわっていた。



(え……?)



しばらく私はその状況を飲みこむことが出来なかった。

だが、現状を見渡して、そして自分が直前まで何をして過ごしたかを思い出して、ある結論が導かれた。



そう、私は元の世界では水分補給を怠ったことで、熱中症で命を落としたのだ。

まったく、怠け者の私が現場で必死になって働く作業員の方々と同じ死に方をするなんて皮肉なものだ。



そしてもう一つは、今私が居る世界は、あの鬱ゲーにして作業ゲーである『恩讐の姫君』というゲームだ。



(確か、このゲームは……オープニングからアクセル全開だったわよね……)



このゲームの冒頭で、側室の子である主人公『ゼフィーラ』が、暴君で知られる辺境伯『ラミントン男爵』のもとに輿入れが決まる。……だが、私が先に結婚することを気に入らなかった異母姉が、男を私の部屋にけしかけるのだ。


そして私は凌辱されることで、その異母姉と実行犯の男に復讐を誓うことで物語が始まるという話だ。



(そういや、このゲームは……レベリングが大変だったわよね……。哀灯が嘆いてたものね……)


そのために必死で鍛錬してレベル上げをしながら、ラミントン男爵にうまく取り入って操ることで、異母姉をこの国ごと葬り去るという筋書きだ。その中で、多くの人の命が失われるし、私自身も『悪役令嬢』として恐れられることになる。



(……はあ……)



筋書き自体はそういう、典型的な『復讐もの』だ。

私は鏡で自分の顔を見た。



(やっぱり……ゼフィーラの顔だ……)



この『恩讐の姫君』は恋愛要素は極めて強いが、王子との関係は共依存的なものだ。

……会話イベントも正直かったるいので、スチルが出るまで音声を飛ばしまくってプレイしたのを思い出した。



そんな風に思っていると、ドアがバタン! と開いた。



そこには、卑しい身分の……だが、不自然な程整った容姿をした男が、ニヤニヤと笑いながら立っていた。


「へっへっへ……。ゼフィーラ様? ご機嫌麗しゅう……」


彼が妙に恵まれた容姿をしているのは、これが女性向けのゲームであり、プレイヤーに与えるダメージを少しでも軽減しようと考えたためだろう。

ここにこいつが来た理由は分かるが、一応尋ねてみた。


「……なんの用?」

「残念ながら、ある方のご命令でな。……これからあんたは、死よりも恐ろしい苦痛を与えることになる。女として生まれたことを後悔するほどにな。……何をされるかは理解できますよね?」

「まあ、大体は、ね……」

「……まったく、貴族様ってのも大変だな。婚約が決まるなり、俺のようなろくでもない奴に、無理やり犯されることになるんだから……」

「……まったくね……」

「ま、これも仕事だ。やらなきゃ俺が殺されちまう。……神にお祈りはすませたか? ……ま、このクソの世界に神なんて居ればな」



ストーリーの展開上、この男が、私をこれから凌辱することは分かっている。

普通だったら、泣き叫んだり必死で命乞いをしたり抵抗したりするのだろう。

……だが、私は極度の怠け者だ。最初に思ったことは一つ。



「面倒だ」



だった。


私だって女だ。

いくらこいつがイケメンだからって、無理やりされるのなんて嫌に決まってる。だが、ストーリーの展開的にも状況的にも逃げることは不可能だし、抵抗しても意味がない。



……そして面倒なのが、私はきっと彼と異母姉を『憎むことになる』ということだ。

誰かを憎むことがどれほど疲れることかなんて、私だってわかる。



(折角なら、もっといいゲームに転生したかったんだけどな……)



本編でも私は、何年もかけてこの男を探し出し、そして拷問の末に殺す展開だ。だが、何年も誰かを憎んで生きるのは面倒だ。


……私は誰も恨まず※誰にも恨まれず、お菓子だけ作って毎日を過ごすような生活を送りたい。(※彼女は、自身が弟にした仕打ちを悪いこととは微塵も思ってません……)



男は、憐れむような笑みを浮かべながらベッドに乗り込み、私をそっと横に倒す。



「あまり痛くしないようにしますので、とりあえずベッドに寝てくださいね、ゼフィーラ様?」




(ああ……本当に、何もかもが面倒……! 面倒面倒面倒!)



そう思った私の両手がほのかに光っていることに、その時の私は気づかなかった。

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