『風船葛』という題を見たときに、名前の響きには何となくの既視感があったが、果たしてどんな植物だったのか上手く思い出せなかった。調べて写真を見ると、成程確かに覚えている。小学生のときに夏休みで育てていた妙な形状の植物だ。
そう思い出した時、溜飲が下がると同時に、沁み入るようなノスタルヂアに襲われた。じんわりと体を包むような郷愁と言いようもない淋しさ。
その写真を見たときの気持ちが、この掌篇小説に詰まっている。
肝試しをした事は無いし、作中の出来事も私には経験が無い縁遠い話だったのだが、なぜか声をあげて泣きだしたくなった。
彼岸と此岸の狭間の風船葛は、あの頃の思い出を一身に背負うように、作中でふんわり咲いている。
感情の引き出しをそっと開いてくれる、素敵な小説だった。