第27話 間堺狂騒曲

 ゲート発生の報告は、町役場に蜂の巣をつついたような騒ぎをもたらした。

「まさか本当にあるとは驚きましたね」とは一次報告を受けた亀永さんの反応で、

「あー、思ったよりおおごとじゃないんだなあ」とのんびり構えていたら、ぜんぜんそんなことはなかった。


 冷静に考えてみたら当然である。

 この片田舎に、外国への直通路が湧いてきたようなものなのだ。

 それはたとえば新幹線が唐突に開通したようなもの……いや、スケールが小さくなってるな。国際空港が突然出来たような? いやいや、それでもスケールが小さい。っていうか、たとえ話になんかこだわっている場合ではない。


 最初に、政府の調査チームがやってきた。

 そして大量のマスコミ、スマホをかまえた野次馬も。

 わたしの業務はもっぱら裏山に無断侵入しようとするマスコミと野次馬への対応になっていた。そんなのは警察の仕事だと言いたいところだが、田畑の真ん中にぽつんとある山もどきだ。その気になれば道のない場所からでも入り込める。


 いくら小さな山とはいえ、全周囲をカバーするとなると人手がいくらあっても足りない。山に入り込んだ者に怪我をされても困るし、田んぼや畑を踏み荒らされても困るし、ゴミのポイ捨てをするやつらも困る。とにかく困るので、地元の警察署と協力し、役場も総出で警備(?)に当たっているというわけだ。


「うう、疲れた。やっとお昼休みかあ。お弁当ひとつー」

「いらっしゃいませー。間堺弁当1500円ですー」

「げえっ、おかあさん、娘からもお金取るの!?」

「当たり前じゃないの。他のお客さんの目もあるんだから」


 そんな中でもわが母はたくましく、緊急で出張弁当屋を開いている。

 裏山から最寄りのコンビニまでは徒歩30分ほどで、都会の感覚のままやってきた昼食難民たちをターゲットに荒稼ぎをしている。ペットボトルのお茶も定価の倍ほどだ。


「あこぎな商売……」

「どうせ一時的にしかやってこない人たちよ。常連客には絶対なってくれないんだから、初見でむしれるだけむしらなきゃ」

「やっぱりあこぎだ……」


 スナックはなみずきは良心的な価格で営業しているが、それはあくまでリピーターを重視するがゆえの戦略だったらしい。別にお人好しで安くしていたわけではなかったのだ。


 母の弁当屋の盛況を見て、他の人たちも次々と屋台を出店した。

 同じく弁当屋もあれば、野菜や鶏卵を売る店もある。

 あ、あっちには民芸品ののぼりが。

 でも間堺におみやげになるような民芸品なんてあったっけ?

 疑問に思って少し覗いてみると、


「おお、嬢ちゃんか。買うなら安くしておくぞ」


 ビヤ樽みたいな体型の店番はドワーフのゴドドルガさんだった。

 商品は木彫りのフィギュア。

 手のひらサイズのトライクロウが1000円に、一回り大きなメガロレイヴンが3000円。看板代わりなのだろう、人間大サイズのメガロレイヴンには20万円の値札がかけられている。


「アイガモゴーレムの方は大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。というより、秋口に入ってスライムが穫れる量が減ったじゃろ。作りたくとも魔石が足らんのだ。ま、手すきの副業にはちょうどいいわい」


 話しながら、手元は忙しく木片を削っている。

 素材は間堺で伐採された雑木だ。

 それなら間堺特産品……と言っても嘘にはならないのか?


 あちこちの農家さんに野積みにされていたものを格安で分けてもらっているらしい。もともと売れるようなものではないし、処分するにも金がかかるので結構ありがたがられているそうだ。


 こんなものが売れるのかと疑問だったが、少し言葉を交わしている間にもぽつぽつと買い物客が現れる。


「ほほう、これがメガロレイヴンですか」

「国内での出現報告は間堺だけですな。世界でも数例しかなかったかと」

「いやいや、マルファスの化身という話もありますぞ。とすればメガロレイヴンは古代ソロモン王国の時代からこちらの世界に現れていた可能性も」

「ふひひ、浪漫ですなあ。そういえばエリア51のUFOの正体もじつは異世界からの来訪者であったとか」


 こんな会話をしながら、木彫りフィギュアを惜しげもなく買っていく。

 いわゆる異世界UMAオタクと呼ばれる人々だ。

 先日のメガロレイヴン騒動はちょっとしたニュースになったのだが、それによってこの種のオタクには注目を浴びているらしい。


 冷凍されたメガロレイヴンは観光資源として活用できないか町で検討中とのこと。観光資源に乏しい間堺としては使えるものは何でも使いたいのだろう。

 自慢じゃないがこの間堺、過疎とまではいかないが、決して前途洋々の活気ある田舎町ではないのである。


「ほほほ、こんなに町が賑わうのはいつぶりかねえ。ほら、ミコちゃん、差し入れて持ってきたよ」

「あっ、ありがとうございます!」


 間宮田のおばあちゃんもやってきた。

 手渡されたコンビニのビニール袋の中には、干した果物がたくさん入っていた。


「干しいちじくだよ。みんなで食べてねえ」

「ドライフルーツは好きよ」


 いつの間にか横にやってきていたウーナが手を伸ばし、干しいちじくをさっそく頬張っている。

 じゃあわたしも遠慮なくひとつ。

 うーん、ねちっとして歯に絡みつく食感。

 しつこくない自然の甘酸っぱさ。

 美味である。


「お山はこれからどうなるのかねえ」

「お山? ああ、裏山のこと?」

「そうそう、子供らはみんな裏山って呼んどったねえ。何の裏でもないのに不思議だねえ」

「あはははは……」


 たぶん猫型ロボットのせいですよ、とは言いにくい。


「昔はねえ、お社様の境内で毎年お祭りをしとったんだがねえ。うふふ、わしも昔は巫女装束なんて着たりしてねえ」

「おばあちゃんって、巫女さんだったんですか?」

「一応ねえ。間宮田はそういう家だったからねえ。間山さんが宮司、間宮田が巫女、そういう決まりだったんだよねえ」


 へえ、寂れたお社だと思っていたけど、そんな歴史があったのか。


「神降ろしって言ってねえ。お彼岸から神様を迎えていたんだけどねえ。いつの間にかそういうのは流行らなくなっちゃってねえ」


 彼岸に迎えるのは先祖の霊じゃなかったっけ?

 間堺ならではの土着信仰ってやつだろうか。

 興味が湧いたのでもう少し詳しく聞こうと思ったら、スマホが震えた。

 着信画面に表示されたのは亀永さんの名前だ。


「もしもし、水崎です」

『もしもし、水崎さん? ちょっと人手が足りなくて。こちらに応援お願いできますか』

「はい! わかりました!」


 少々名残惜しいが、仕事が優先だ。

 改めて干しいちじくのお礼を言って、その場を後にした。

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