第14話 進撃のアイガモゴーレム隊
ぐゎっぐゎっぐゎっぐゎっぐゎっぐゎっ。
ぐゎっぐゎっぐゎっぐゎっぐゎっぐゎっ。
アイガモが列をなし、水稲の隙間を縫っていく。
ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ。
ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ。
水面には、ひと掻きごとに涼し気な波紋が走っていく。
我らがアイガモゴーレム隊は今日も元気にスライム駆除に取り組んでいる。
人力では対応のむずかしい水田の中に入り、稲に産み付けられたスライムの卵塊をパクパクとついばんでいく。
スライム本体に出会ったときにはくちばしで鋭い一突き。
ゲームのスライムはやたらにタフだったりするが、ここいらの田んぼに現れるスライムはてんで虚弱体質で、身体に大きな穴が空くと死んでしまう。
だいたいクラゲくらいの生命力だと考えれば間違いない。
ついでにアメリカザリガニもびしっと仕留めてくれている。
ザリガニも稲の根や茎を切る迷惑者なのだ。
お腹いっぱい食べると畔まで戻り、バケツに卵塊を吐き出して再出動。
回収した卵塊はゴドドルガさんの工房へと運ばれ、魔石に加工されて新たなアイガモゴーレムの材料や燃料として消費される。
まさにSDGs。無駄のない持続可能なスライム駆除体制である。
なお、スライム本体よりも卵塊の方が魔石の回収効率が高いことが判明したので、いまは卵塊だけを回収対象としている。
ゴドドルガさんの工房を訪ねてから早2週間。
短い期間であるがアイガモゴーレムの生産は軌道に乗り、いまでは予約で一杯の状況だ。
価格は一機10万円ほどで決して安くはないが、メイオーアグリカルチャーのスライム駆除剤に比べればはるかにリーズナブル。
本当なら燃料の魔石代がかかるところだが、原材料の卵塊とバーターで無料。
万一故障をしても、地元に開発者がいるのだから修理対応は万全だ。
これで農作業の負担を減らしつつ、スライムの食害を抑えられる。さらにいえば、スライム以外の害虫も駆除でき、農薬代を減らせるのだからお得でしかない。
アイガモゴーレムがカバーできる面積は広く、操作も不要なため、農家さんたちは近隣で声を掛け合って共同購入をしている。
「ほんにありがたいねえ。今年はスライムにやられる稲はなさそうだねえ」
そんなわけで、おばあちゃんはニコニコとえびす顔でアイガモゴーレムの活躍を見守っている。
「水を混ぜてくれるのもありがたいねえ。ウーナちゃんにも助けられてたけど、そんなしょっちゅうはお願いできないからねえ」
「水を混ぜると何かいいことがあるんですか?」
ウーナが助けていたことと言うと、水温を下げて高温障害の対策をしてたんだっけ?
水を混ぜると少しは涼しくなるってことなんだろうか。
アイガモがぱちゃぱちゃする程度じゃ焼け石に水に思えるけど……。
「熱い水が溜まってるとねえ、溶存酸素量が足りなくなって、稲の根っこが窒息しちゃうからねえ」
溶存酸素量?
「熱い水にはねえ、酸素があまり溶けないんだよ。それでも混ぜてやると溶存酸素量が増えるからねえ。窒息を防げるのさあ」
おばあちゃんの口から、耳慣れない科学用語がすっと出てきて面食らってしまった。
溶存酸素量……水に溶け込んでいる酸素の量ってことか。
高温だと気体が溶けにくいというのは中学の理科で習ったような気がする。
農業って、なんとなく「自然と共に~」って感じで科学とか関係ないイメージだったけど、ぜんぜんそんなことはないんだなあ。
お金の面ではバリバリ経営が関わってくるし、農薬では環境問題まで考えてるし。
ISEKAI課で働くようになってから、わたしの中の農業イメージがどんどん刷新されている。
おばあちゃんに限らず、他の農家さんもみんな、わたしなんかよりもずっと勉強家で、経験も豊富だ。
正直、東京の大企業で働いていた自分の方がビジネススキルは高いだろうとどこかで思っていた。
たかだか3年ぽっち、下っ端社会人をやってただけなのに、とんだ自惚れだ。
「冷やして混ぜたらもっと効果的なのかしら」
「そうだねえ、効果的だねえ。お願いできるかねえ」
「冷や汁はゴマダレも好きよ」
「そうだねえ、お昼はゴマを擦ろうかねえ」
そしてなんやかんやと老獪でもある。
しょっちゅう頼むわけにはいかないと言ったそばから、もうウーナに田んぼクーラーを依頼していた。
そんなこんなで劇的に環境の変わった間堺町のスライム駆除の中で、わたしがどうしているかというと……
ごりごりごりごりごりごりごりごり。
相変わらず、用水路の側壁をスコップで削っている。
アイガモゴーレムが壁を歩けるようになるアタッチメントは開発中ということで、ここは人力で対処するしかないのだ。
いや、開発されても今期のISEKAI課の予算じゃどうせ買えないんだけどさあ。
一応、アイガモゴーレム開発の仕掛け人であるわたしにももうちょっとこう、何か還元があってもよいのではなかろうか。
「おー、ミコちゃん。今日もがんばってるね」
「あっ、佐藤さん」
「用水路は任せっぱなしだったからなあ。今日は本腰入れてこっちを手伝うよ」
「鈴木さんも!」
用水路の向こうから、胴付長靴を履いてスコップを持ったおじさんたちがやってきた。
水田のスライム駆除をアイガモゴーレムに任せられるようになったことで、用水路の駆除に時間を割いてくれる農家さんが増えたのだ。
前言撤回。
わたしには何も還元がないというのは嘘だった。
共にスライム駆除に挑む仲間がしっかり増えていたのだ。
この分なら、今月中にはひととおりのスライム駆除が完了できるのではないだろうか。
……そう、思っていたのだ。
間堺の空を、あの黒い翼が覆う日が来るまでは。
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