第28話 わたしは弱くない


 わたしが学園に戻るまで学園長は付いてきてくれた。教室の少し前で学園長と別れて、わたしは教室に入った。授業の途中で抜け出してしまったので凄く気まずかったけど、だからといって逃げちゃいけないと思った。


「あ!!!!(大声) 逃げ出した豚が自分で戻って来ましたわ!!!!」


 わたしに人差し指を突き付けたのはテオシアーゼだった。


「どうしましたのーーーーーーー???? 折角泣き出しそうになるほど辛い学園から逃げ出しましたのに!!!! お腹が空いて戻って来たんですのーーーーーー!!?!? 弱者は大変ですわねーーーーーー!!!! 家畜になる事でしか生きていけないんですわーーーーーー!!!!(ゲラゲラと笑う)」


 相変わらずマジでデカい声でわたしを罵ってくる。


「……わたしは弱くない」


 彼女に比べれば小さな声で。けれど、わたしははっきりと言い放った。

 すると、僅かに彼女は固まって、その後に大声を発する。


「えーーーーーーーーーーーーーー!!!?!?!?!?! 今、聞き間違いじゃなければ自分は弱くないと言いましたのーーーーーーーーーーー!?!?!? 自分の弱さすら分からない弱者とは、本当に滑稽ですわねーーーーーーーーー!!!!! 片腹痛いどころじゃありませんわーーーーーーーーー!!!! 両腹、五臓六腑が痛いですわーーーーーーー!!!!」


 腹を抱えて、わざとらしく笑うテオシアーゼ。


「弱くない……少なくとも、あんたよりはわたしの方が強い!」


 そう告げると、彼女の目が丸くなったのが分かった。


「はーーーーーーーーーーーーーーー!!!?!?!? 何を言ってますのーーーーーーーーー!!!?!? 庶民が!!! 貴族であるわたくしより!!! 強い!!! なんて!! 有り得ないですわーーーーーーーーーー!!!!!!(大声で否定)」


 彼女は笑いながらも、自らが侮辱されたと受け取ったのだろう、地団太を踏んでいた。


「テオシアーゼ・フィン・スーケンベルエ」


 わたしは彼女の名前を告げ、そして宣言する。


「――あんたに、『魔炎闘技』を申し込む!」


 教室がざわつく。そして、目の前のテオシアーゼは愕然としていた。


「わたしは弱くない。この言葉の正しさを、あんたに勝つ事で証明してみせる」

「~~~~~~~~ッ!!!!! 笑! 止! 千! 万! ですわーーーーーーーーーーー!!!!! わたくしに『魔炎闘技』で勝とうだなんて、おこがましいにもほどがありますわーーーーーーー!!!! ていうか、無理ですわ、無理無理無理無理ーーーーーーーーーーーー!!!!!(顔を横にブンブン振る)」

「……無理だっていうなら、わたしの挑戦を拒んだりしないよね?」


 そう言うと、テオシアーゼは少し硬直した。


「あっ、あったりまえですわーーーーーーーーー!!!!! ボコボコに返り討ちにして差し上げますわよーーーーーー!!! わざわざ衆目に晒されながらボコられて、わたくしに勝負を挑んだ身のほど知らずを後悔させてあげますわーーーーーーー!!!!」

「あと一週間わたしは修行の期間を貰うから『魔炎闘技』は一週間後にするけど別に構わないよね?」

「えッ!!?!?!?(素でびっくり) ま、まあ別に構わないですけど……」


 ちゃっかり言ってみたら通った。後半声量が普通になるくらい戸惑ってた。


「それじゃあ一週間後、覚悟してなよ」

「ふ、ふん!!! 一週間あったところで何も変わらないですわーーーーーーーー!!! せいぜい無駄な足掻きをするがいいですわーーーーーーーー!!!!」


 いいや。一週間でわたしは変わる。

 そして、あんたに勝ってみせる。


   ◇


「「ファイッ、オー!」」

「「ファイオー!」」

「ファイッ、オー!」」

「「ファイオー!」」


 早朝。皆の声があたりにこだまする。中等部三年の生徒たちが走り込みでサバンナの草食動物みたいな群れを作っている。


「ふぁいっ、おー!」


 わたしは気合を入れてそう叫んだ。

 走るのは辛い。息が苦しい。脚が痛い。だからわたしは昔からランニングが嫌いだった。個人的な見解だけど、ランニングがどのくらい嫌いかという事と陰キャの度合いは比例すると思う。

 ド陰キャのわたしにとって、ランニングなんて苦行も苦行だ。

 それでも、やると決めた。

 あの悪役令嬢との戦いに勝って、わたしが正しいと突き付けてやる。

 わたしの前方を走るテオシアーゼがちらりとこちらを見て、忌々し気な表情を浮かべた。早くこの間みたいに根を上げろとでも言いたいように見えた。


「ファイッ、オーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!(大声)」


 テオシアーゼの声はデカい。わたしにここまでの声量は出せない。


「ふぁいおーー!!」


 それでも、わたしに出来る精一杯の大声を発した。

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