第10話 俺、悩める少女がもがいているのに何やってるんですか(後編)!?

通常のARビジョンによる演出とは別に、不気味な雰囲気が漂う中でのデュエル。

このデュエルでは、闇のカードを持つプレイヤーが与える戦闘ダメージは相手へのリアルなダメージとなる。ARビジョンによる演出だけでは済まない。


だが、俺は、犬飼リョーマは怯まない。

目の前の、闇に堕ちた少女。水瀬リナの苦悩が、痛いほど分かるから。

転生前の俺も、同じ苦悩をしてきた者だから。


「私の先攻、 ドロー!」

「私は、《均衡の守り手》を召喚」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《均衡の守り手》

攻撃力:1500 レベル:4 アルカナ:正義

①このカードが戦闘によって破壊された時、このカードを破壊したモンスターと同じ攻撃力を持つ「均衡」モンスター1体を、デッキまたは手札から特殊召喚する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「破壊された後も事後の策を用意し、返しのターンでの反撃に繋ぐモンスター」

「ツバサを相手にした時と同じだな」


「侮らないで。私には闇のカードがある。 あの時と同じじゃあ断じて無い!」

「私はスペルカードを2枚セットし、ターンエンド」


「俺のターンだ! ドロー!」

「俺は、《戦姫後衛 ナツバ》を召喚!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫後衛 ナツバ》

攻撃力:1500 レベル:3 アルカナ:正義

①このカードが戦闘により破壊され、墓地へ送られた場合に発動できる。自分のデッキから「戦姫前衛」モンスター1体を特殊召喚する。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「そのままナツバで《均衡の守り手》を攻撃! 刻め!ナツバ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫後衛 ナツバ》

攻撃力:1500

      V.S.

《均衡の守り手》

攻撃力:1500

◇◆◇◆◇◆◇◆


同じ攻撃力同士のモンスターが激突し、双方が破壊される。

ライフポイントへのダメージこそ無いが、自分の体に感じるのはARビジョンによる風圧だけではない。もしダメージが入れば、実際に体に傷を受けることになる。


「《均衡の守り手》が戦闘で破壊されたことにより、守り手を破壊したモンスター、あなたのナツバと同じ攻撃力を持つモンスターを、デッキから特殊召喚する!」

「出でよ! 《均衡の祈り手》!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《均衡の祈り手》

攻撃力:1500 レベル:4 アルカナ:正義

①このカードが戦闘によって破壊された時、デッキから「均衡」カード一枚を手札に加える。

◇◆◇◆◇◆◇◆


今、水瀬リナは俺の事を『お前』ではなく『あなた』と呼んだ。

どうやら、水瀬リナの本来の彼女の口調が出ている。まだ、完全に闇に支配されてはいない。

読んだとおりだ。彼女はまだ、救い出せる。

ならば、デュエルで彼女を救うしかない。


「俺は、同じく戦闘破壊された《戦姫後衛 ナツバ》の効果を発動!」

「デッキから、《戦姫前衛 コガネ》を特殊召喚!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫後衛 ナツバ》

攻撃力:1500 レベル:3 アルカナ:正義

①このカードが戦闘により破壊され、墓地へ送られた場合に発動できる。自分のデッキから「戦姫前衛」モンスター1体を特殊召喚する。


《戦姫前衛 コガネ》

攻撃力:1900 レベル:4 アルカナ:正義

効果なし

◇◆◇◆◇◆◇◆


「俺は! 特殊召喚された《戦姫前衛 コガネ》で《均衡の祈り手》を攻撃! 貫け!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫前衛 コガネ》

攻撃力:1900

      V.S.

《均衡の祈り手》

攻撃力:1500

◇◆◇◆◇◆◇◆


ズガン!という破壊音と共に、ARビジョンの風圧がリナを襲う。

だが、あくまで風圧だけ。身体へのダメージは、無い。


「くうっ……、だけど、破壊された《均衡の祈り手》の効果発動!」

「私は、デッキから《均衡の儀式》を手札に加える!」

(水瀬リナ LP:4000 → 3600)


「俺は、スペルカードを2枚セットして、ターン終了!」


まだ序盤も序盤だが、ここまで水瀬リナは戦線を維持し続けている。

『自分は弱い』なんて卑下する必要は無いと思うが、今はその言葉は届かないだろう。

今はただ、カードで語るのみだ。


「私のターン ドロー!」

「私は、《均衡の巫女》を通常召喚!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《均衡の巫女》

攻撃力:1500 レベル:4 アルカナ:正義

①このカードが戦闘以外でフィールドから墓地へ送られた場合、デッキからカードを1枚ドローする。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「そして、さっき手札に加えた《均衡の儀式》の効果を発動!」

「フィールドと墓地から1体ずつ「均衡」モンスターを使い、高レベルの「均衡」モンスターを特殊召喚する!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《均衡の儀式》(スペルカード)

①フィールドのモンスターを任意の枚数墓地へ送って発動できる。墓地へ送ったモンスターの合計レベル以下の「均衡」モンスターを、手札から特殊召喚する。

②自分の墓地・フィールドに「均衡」モンスター以外のモンスターが存在しない場合、フィールドのモンスター1体の代わりに、墓地のモンスター1体をデッキに戻すことで①の効果を発動できる。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「墓地の《均衡の守り手》とフィールドの《均衡の巫女》を使い、モンスターを特殊召喚!」

「現れよ! 《均衡の守護者 ティアル》!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《均衡の守護者 ティアル》

攻撃力:2500 レベル:8 アルカナ:正義

①自分のライフポイントが相手より低い時、このカードは戦闘では破壊されない。

◇◆◇◆◇◆◇◆


ARビジョンによるエフェクトと共に、現れるリナの高レベルモンスター。

…思っていたよりずっと展開が早い。闇のカードを倒すために、ある程度こちらのカードは温存しておきたかったが……


(正直、カードを温存してたら、闇のカードの前にこっちがやられそうだな)


「更に私は、墓地へ送られた《均衡の巫女》の効果発動!デッキから1枚ドローする!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《均衡の巫女》

攻撃力:1500 レベル:4 アルカナ:正義

①このカードが戦闘以外でフィールドから墓地へ送られた場合、デッキからカードを1枚ドローする。

◇◆◇◆◇◆◇◆


カードを引いた瞬間、水瀬リナの表情が「ニヤリ」と歪む。直感で分かる。引いたのだ。闇のカードを。

カードの温存がどうとか思った矢先にこれだ。まったく嫌になる。


「私は、《均衡の守護者 ティアル》で《戦姫前衛 コガネ》を攻撃!」

「ブルー・リベレーション!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《均衡の守護者 ティアル》

攻撃力:2500

      V.S.

《戦姫前衛 コガネ》

攻撃力:1900

◇◆◇◆◇◆◇◆


ズドォン!というARエフェクト。しかし、それ以上に身を裂くような痛み。分かってはいたが、闇のカードの影響で、ARビジョンではない、現実のダメージが入っている。

頬に、僅かだが傷が出来る。


「くっ…そ…、闇のカードを直接使わないでもこれかよ!」

(犬飼リョーマ  LP:4000 → 3400)


「だが、俺は伏せていたカウンタースペル、《戦姫反撃 メイデンズ・リベンジ》を発動!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫反撃 メイデンズ・リベンジ》(カウンタースペルカード)

戦闘により自分の「戦姫」モンスターが破壊され、ライフポイントにダメージを受けた際に発動できる。

①手札から「戦姫」モンスターを1体特殊召喚する。その後、相手モンスター1体を選択し、この効果で特殊召喚したモンスターと強制的にバトルさせることができる。

②このカードの①の効果で特殊召喚されたモンスターは、ターン終了時に破壊される。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「このカードにより、手札から高レベルの「戦姫」モンスターを……」


「甘い! 私は伏せていたカウンタースペル《闇よりの呪縛》を発動!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《闇よりの呪縛》(カウンタースペルカード)

相手がスペルカード・カウンタースペルカードを発動した際に発動できる。

①このカードの発動トリガーとなったスペルカード・カウンタースペルカードの効果で、相手はレベル8以上のモンスターを特殊召喚出来ない。

②このカードの①の効果は、オラクルデッキからの特殊召喚には適応されない。

③自分の墓地に「闇よりの呪縛」が存在する場合、このカードの①の効果は無効になる。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「《闇よりの呪縛》の効果により、貴方はレベル8以上のモンスターを特殊召喚出来ない!」

「別に私は、相手の行動にカウンターしていく戦術を完全に捨てたわけじゃない」

「中途半端なレベルのモンスターでは、私のティアルを倒すことは……」


「出来るさ。俺は手札から《戦姫宿将 サイ》を特殊召喚!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫宿将 サイ》

攻撃力:2800 レベル:6 アルカナ:正義

①このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、このカードは破壊される。

②自分の墓地に「戦姫宿将 サイ」が存在する場合、このカードの攻撃力は半分になる。

③このカードが墓地に存在する時、自分の墓地の「一騎当戦姫」カード1枚をデッキに戻し発動できる。デッキから「戦姫」カード1枚を手札に加える。この効果は相手ターンでも発動できる。「戦姫宿将 サイ」の③の効果は、デュエル中に1度だけ発動できる。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「れ、レベル6で攻撃力2800……。…団体戦の時も出てきたカード!」


「その通りだ。 まあ、相応にデメリットもあるカードだが、今回の場合は《戦姫宿将 サイ》と《戦姫反撃 メイデンズ・リベンジ》でデメリットがかぶっているから、大きな問題じゃないな」


「そして、《戦姫反撃 メイデンズ・リベンジ》の効果で、俺のサイとお前のティアルは強制的にバトルを行う!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫宿将 サイ》(効果一部抜粋)

①このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合、このカードは破壊される。


《戦姫反撃 メイデンズ・リベンジ》(カウンタースペルカード)

戦闘により自分の「戦姫」モンスターが破壊され、ライフポイントにダメージを受けた際に発動できる。

①手札から「戦姫」モンスターを1体特殊召喚する。その後、相手モンスター1体を選択し、この効果で特殊召喚したモンスターと強制的にバトルさせることができる。

②このカードの①の効果で特殊召喚されたモンスターは、ターン終了時に破壊される。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「行け! サイ! 相手の場のティアルを打ち砕け!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫宿将 サイ》

攻撃力:2800

      V.S.

《均衡の守護者 ティアル》

攻撃力:2500

◇◆◇◆◇◆◇◆


ARビジョンによるダメージ演出と風圧が、水瀬リナを襲う。


「くうぅっ…!」

「私のティアルが…、こうも一瞬で……」

(水瀬リナ LP:3600 → 3300)


「ティアルの戦闘破壊と同時に、俺のフィールドの《戦姫宿将 サイ》も、自身のデメリット効果で破壊される」


敵の大型モンスターを倒す大任を果たしたサイが、俺のフィールドから静かに姿を消す。

…ここまでの展開を考えるなら、水瀬リナは以前より弱くなっている。

団体戦でツバサを追い詰めた時は、時に自らのライフポイントを犠牲にしてでも相手の攻撃をカウンターし、その「ライフの犠牲」と、ティアルが持つ「ライフポイントが相手を下回っている時、戦闘破壊されない」効果が上手くかみ合っていた。

単に、彼女の精神状態の不安定さが自分の戦術を崩壊させ自爆しているだけなら、これは楽な勝負だが…、恐らく違う。

レベル8のモンスターを惜しげもなく使い潰してなお、余裕があるのだ。『闇のカード』という、余裕が。


「さて、お前の場はガラ空きになったわけだが、何も無いなら次は俺のターンだぞ?」


「…スペルカードを1枚セットして、ターンエンド」


水瀬リナは落ち着いている。だが、闇のカードはまだ出てきていない。

ならば、今はリナのライフポイントを削れるだけ削っておく!


「俺のターンだ! ドロー!」

「よし! 俺は、手札から《戦姫戦線》を発動!」

「手札の「戦姫」モンスターを1体墓地へ送り、カードを2枚ドローする!」


「更に、俺は手札からカウンタースペル《戦姫の意地》を発動!」

「墓地から「戦姫」モンスター1体を特殊召喚する!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫戦線》(スペルカード)

①手札の「戦姫」モンスター1体を墓地に捨てて発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。


《戦姫の意地》(カウンタースペルカード)

①自分の墓地から「戦姫」モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃可能な場合、必ず攻撃しなければならず、ターン終了時に破壊される。

②自分の墓地に《戦姫の意地》が存在する場合、このカードの①の効果は無効になる。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「蘇生対象は、《戦姫戦線》で墓地へ送ったカード!」

「仲間の声を力に変えて、戦場を駆け抜けろ!一騎当千の力をその身に宿し、敵も逆境も討ち払え!我が切り札―― 《一騎当戦姫 ヒビキ》、召喚!!」


ARビジョンの荘厳なエフェクト共に、墓地より甦る俺の切り札。

その瞳に見据えるは、目の前の相手。闇に堕ちてしまった、救うべき相手。


◇◆◇◆◇◆◇◆

《一騎当戦姫 ヒビキ》

攻撃力:2600 レベル:8 アルカナ:正義

①手札を任意の枚数墓地へ捨てて発動できる。捨てたカードの内、「戦姫」と名の付くカードの数×500ポイント攻撃力が上昇する。この効果はターン終了時まで継続する。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「俺は! 《一騎当戦姫 ヒビキ》でダイレクトアタック!」

「闇の支配を打ち砕け! メイデンズ・ストライク!!」


ヒビキの攻撃が、水瀬リナに炸裂する。勿論、肉体的なダメージは無い。

だが、攻撃力2600、相当量のライフポイントダメージに対してどう対応してくるか……。


「…へえ。大ダメージね」

(水瀬リナ LP:3300 → 700)


「なっ……無抵抗!? 2600ダメージだぞ!?」


てっきり、ダメージを防ぐための何かを仕込んでいると思ったが…。


「慌てなくても、すぐに教えてあげる。 無抵抗の真相をね」

「私は伏せていたカウンタースペルを発動! 《ダスキー・カウンター ダメージバッテリー》!」

「大ダメージを与えてくれてありがとう。感謝してる。 お陰で、3体のモンスターを同時に展開できる」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《ダスキー・カウンター ダメージバッテリー》(カウンタースペルカード)

戦闘ダメージを受けた際に発動できる。受けたダメージ量によって、以下の効果から1つだけ適用できる。このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。

1000以上:デッキから「ダスキー」モンスター2体を特殊召喚する。

2000以上:デッキから同名の「ダスキー」モンスター3体を特殊召喚する。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「来なさい! 3体の《ダスキー・メニアル》!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《ダスキー・メニアル》 ×3

攻撃力:300 レベル:2 アルカナ:吊るされた男

①このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。自分フィールドのレベル2以下の「ダスキー」モンスターのレベルは4になる。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「…「ダスキー」モンスター……。アルカナは「吊るされた男」……か」


「驚いたかしら? これが、私のデッキの中の真なる闇、その眷属よ」


「まあ、驚いたさ……本当に」


俺の言葉に嘘は無い。「ダスキー」モンスター…。原作を全て履修している俺ですら、知らないカード。驚いて当然だ。

ツバサ然り、アヤカ然り――俺は、俺が今まで戦ってきた相手のカードを、戦う前から全部知っていた。

なぜなら俺は、原作アニメ『アルカナ&モンスターズ』を最初から最後まで見ている。

だから、彼ら彼女らがどんなカードを使うのか、把握していて当然なのだ。

もっとも、俺はカード全部を知っていたのに、アヤカは俺をあと一歩のところまで追いつめたわけだが。原作の強キャラはやっぱり強いな。


だが、水瀬リナはこれに当てはまらない。何故なら、そもそも『誰が犬飼リョーマを闇に堕としたか』、『どんなデュエルの果てにリョーマは闇に堕ちたか』、『そもそも闇に堕ちる過程でリョーマはデュエルしたのか』。全て、アニメでは描かれなかった内容なのだ。故に、情報は全く無い。


つまりこのデュエル、ここから先は予測不能。原作知識が通用しない。『転生者』という俺のチートが通用しない初めてのデュエルだ。

だが、それは分かっていた事だ。…油断など、無い。


「モンスター3体はいずれも貧弱…。まず間違いなく罠だが、カードを使わせない事には何も始まらないか」

「俺は! 手札から《戦姫継承 バトンタッチ》を発動!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫継承 バトンタッチ》(カウンタースペルカード)

自分フィールドの「戦姫」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。以下の①~②の効果から1つだけ選んで発動できる。

①墓地へ送ったモンスター以下のレベルを持つ「戦姫」モンスター1体を手札から特殊召喚する。

②墓地へ送ったモンスター未満のレベルを持つ「戦姫」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「フィールドのヒビキを墓地へ送り、そのレベル以下の「戦姫」……」

「《一騎当戦姫 カナデ》を特殊召喚!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《一騎当戦姫 カナデ》

攻撃力:2400 レベル:7 アルカナ:正義

①自分フィールド、または自分の墓地に「一騎当戦姫 ヒビキ」が存在する場合に発動できる。手札を任意の枚数墓地へ捨て、捨てたカードの内、「戦姫」と名の付くカードの数まで、このカードは追加で攻撃宣言できる。

②このカードは自身と同じ攻撃力を持つモンスターとの戦闘では破壊されない。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「カナデは手札を捨て、複数回攻撃する効果を持つ…」


が、相手の手の内が全く見えない今、残り1枚の手札を捨てるのはあまりにも分の悪い博打だ。


「カナデの効果は発動せず、俺は《一騎当戦姫 カナデ》で《ダスキー・メニアル》を攻撃!」


カナデの攻撃力は2400。対する相手の攻撃力は300。この戦闘が成立すれば俺の勝利だが、そんな甘い話も無いだろう。


「私は伏せていたカウンタースペルを発動! 《ダスキー・カウンター デコイ》!」

「《ダスキー・メニアル》1体を墓地へ送って、このターンの全てのバトルを強制終了する!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《ダスキー・カウンター デコイ》(カウンタースペルカード)

相手モンスターの攻撃宣言時に、自分フィールドの「ダスキー」モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

①このターンのバトルを終了する。

②このカードの①の効果の適用後、自分フィールドの「ダスキー」モンスターのレベルは2アップする。

◇◆◇◆◇◆◇◆


カウンタースペルに阻まれ、カナデの攻撃は儚く霧散する。

この状況では追撃も不可能だ。


「更に、墓地へ送られた《ダスキー・メニアル》と、《ダスキー・カウンター デコイ》の効果により、私のフィールドに残った2体の《ダスキー・メニアル》のレベルは6になる!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《ダスキー・メニアル》 ×2(リナ場)(情報一部抜粋)

レベル:2 → 6


《ダスキー・メニアル》(効果一部抜粋)

①このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。自分フィールドのレベル2以下の「ダスキー」モンスターのレベルは4になる。


《ダスキー・カウンター デコイ》(効果一部抜粋)

②このカードの①の効果の適用後、自分フィールドの「ダスキー」モンスターのレベルは2アップする。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「場には正体不明のレベル6モンスターが2体」

「そしてこのターン、俺はもうバトルできない…」


ちょっとマズいかもな…、これは。


「俺はこれで、ターン終了だ」


この状況、相手のターンに何が飛んできて、何をされるのか分かったもんじゃない。だが今は、ターン終了以外に出来ることなど何もない。


「…ふふっ。私のターン。 ドロー!」


対する水瀬リナは、楽しそう…いや、嬉しそう、の方か?

デュエルの前、彼女は今、勝てなくて、勝てなくて、苦しんでいるというような事を言っていた。

だが今の状況はどうだ。闇を宿したカードの力で、盤面は確実に彼女の有利に向かっている。

『本当に久しぶりに、自分の思惑通りのデュエルが出来ている』。それが嬉しいのかも知れない。

闇堕ち云々は論外だが、彼女の気持ちは、痛いほどに分かってしまう。


「私はレベル6となった《ダスキー・メニアル》1体を生贄に、《ダスキー・ルーテナント ランドル》を召喚!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《ダスキー・ルーテナント ランドル》

攻撃力:1900 レベル:6 アルカナ:吊るされた男

①このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「ダスキー」カード1枚を手札に加える。モンスターカードの場合、特殊召喚することも出来る。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「…攻撃力1900、効果もどちらかと言えば『繋ぐ』タイプのカード……。こいつは本命じゃないな?」


「焦らなくても、今からちゃんと見せてあげる」

「私が手にした、闇の力を」


彼女が1枚のカードを手にする。見る者の心をざわつかせる、不気味な雰囲気が、そのカードからは漂う。

次第に周囲の空気がゆっくりと重くなり、まるで視界そのものまで暗く染まったかのように感じられる。足元の影が伸び、輪郭が歪むような錯覚が襲う。微かに、だが確かに、心臓の奥がひりつくような寒気が走る。


彼女はカードを掌の上で軽く揺らし、「ふふっ」と、薄く笑みを浮かべた。笑いは口元だけでない。瞳の奥からも冷たく鋭く、言葉にはできない威圧感を放つ。カードから漂う不気味な気配は、闇の力そのものが意思を持っているかのように、静かに、しかし確実に周囲を覆っていた。

正直、息をつくのも忘れそうになる。


だが、吞まれてはならない。闇の力などには負けられない。


何より、これは昨日までは全く考えなかった事ではあるが、俺は水瀬リナの心の叫びを聞いてしまった。

勝てなくて、勝てなくて、遂にはアルカナ&モンスターズが嫌いになって……。

その気持ちは、痛いほどに分かる。転生前の俺が、何度となく悩んだことなのだ。


だから、彼女をこのまま放ってはおけない。

かつての俺と同じ悩みを抱えた、同じデュエリストの、水瀬リナを。


「私は手札から! 《ダークネス・オラクル》を発動!!」


「馬鹿な!? そのカードは!」


さっきの決意はどこへやら、俺は素っ頓狂な声を挙げて驚いてしまう。


「驚いているようね。 このカードは、フィールドのモンスター2体をフュージョンさせ、闇のモンスターを生み出すカード」

「私は! 私の場の《ダスキー・ルーテナント ランドル》と《ダスキー・メニアル》をフュージョンさせる!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《ダークネス・オラクル》(スペルカード)

①自分フィールドのモンスター2体をフュージョンし、条件を満たす「ダークネス」モンスターをオラクルデッキから特殊召喚する。

②このカードの効果で特殊召喚されたモンスターは、次の効果を得る。「このカードは効果で破壊されない」

◇◆◇◆◇◆◇◆


「闇に潜みし策謀の将、暗黒の鎖を引き千切り、ここに顕現せよ!」

「《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》

攻撃力:100 レベル:8 アルカナ:吊るされた男

「ダスキー・ルーテナント ランドル」 + レベル5以上の「ダスキー」モンスター

上記モンスターを「ダークネス・オラクル」でフュージョンした場合に、このカードはオラクルデッキから特殊召喚できる。

①このカードが相手のモンスターと戦闘を行う攻撃宣言時に1度発動できる。その相手モンスターの攻撃力を半分にし、その数値分このカードの攻撃力をアップする。

(追加効果:このカードは効果で破壊されない)

◇◆◇◆◇◆◇◆


俺は驚愕のあまり目を見開いたまま、しばらく立ち尽くしてしまう。

こんなことは有り得ない…。


いや、俺は《ダークネス・オラクル》というカードの存在は知っている。

オラクルデッキ。通常のデッキとは別に15枚まで用意でき、特殊な召喚条件を持つモンスターを入れることができるカード群だ。各カードは、条件を満たすことでオラクルデッキから特殊召喚できる。例えば、《ダークネス・オラクル》で指定のモンスターをフュージョンさせる、などだ。


問題は、タイミングだ。《ダークネス・オラクル》の登場は、この新入生歓迎デュエル大会が終わった後。本格的に闇の組織が動き始めてからのはずだ。

原作の展開と違う……。いや、これでは言い訳にもならない。ここが『壊れてしまった原作の世界』なのは、とうに理解していたはずではないか。

この事態を想定できなかったのは、俺のミスだ。


反省は後でしよう。今は、目の前の闇のモンスターを撃破し、水瀬リナを解放する事に集中する。

間違いなく、水瀬リナに与えられた『闇の力』の根源は、《ダークネス・オラクル》と《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》の2枚だ。

これを突破できなければ、このデュエルの勝利も、水瀬リナの救出も、無い。


「《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》は戦闘を行う時、あなたのモンスターの攻撃力を半分にして、その数値分だけ自分の攻撃力として吸収する」

「分かるかしら。 要するに、戦闘では絶対に負けないの」

「そして、《ダークネス・オラクル》の効果でフュージョンしたモンスターは、効果では破壊されない」


水瀬リナは怪しく光る瞳を歪め、自信とも恍惚とも取れるような表情を見せる。


「つまり、戦闘でも効果でも破壊されない! 絶対無敵のモンスター!!」

「これで私はもう負けない! これなら私は勝てる!!」


闇堕ちした水瀬リナが原作で描かれなかった以上、俺にとっても《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》は未知のモンスターだったが…、なるほど。

さしずめ、『負けたくない』という思いが、戦闘で『負けない』効果を生み出したというところか。


「…まあ、やべぇモンスターが出てきたのは認めるよ」


気を引き締め直して、俺は啖呵を切る。


「だが、保証してやる。 『絶対無敵のモンスター』など、この世に存在しない!」


俺の啖呵に、リナは顔を歪める。 俺の発言はハッタリではない。策は、ある。


「倒せるモノなら、倒して見せなさいよ!」

「《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》で、《一騎当戦姫 カナデ》を攻撃!」

「コーン・オブ・デセプション!!」


瞬間、リナのモンスターから黒い霧のようなものが現れ、俺のモンスターにまとわりつく。次第に力を失っていくカナデ、反対に力を増すディヴィアス。

攻撃力の吸収効果……。間近で見るとなかなかに気分が悪い。


◇◆◇◆◇◆◇◆

《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》

攻撃力:100 → 1300

      V.S.

《一騎当戦姫 カナデ》

攻撃力:2400 → 1200

◇◆◇◆◇◆◇◆


あっけなくも、《一騎当戦姫 カナデ》は戦闘破壊され、

ARビジョンの破壊エフェクト共に、闇の力によるダメージが俺を襲う。


「ぐうっ…」

(犬飼リョーマ LP:3400 → 3300)


痛い。痛いが、ダメージはまだ知れている。

問題があるとすれば、今のダメージはたったの100ポイントだけだったが、次の攻撃では1300のダメージが襲ってくると言う事か。


「痛そうね。 私はこれでターン終了。 足掻けば足掻くほど、もっと痛いわよ」


まあ、それは否定しない。次の1300のダメージは、恐らく甘んじて受けることになるだろうから。


「俺のターン、 ドロー!」


今はまだ、カードが足りない。ここはひたすら耐えるしかない。


「俺は、《戦姫補給隊 コトネ》を召喚!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫補給隊 コトネ》

攻撃力:1000 レベル:3 アルカナ:正義

①このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「戦姫」カード一枚を手札に加える。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「俺はこれで、ターン終了だ」


「威勢のいいことを言った割に、おとなしいターンだったわね」

「私のターン、 ドロー!」


瞬間、水瀬リナが「ニヤリ」と笑い、思わず警戒してしまう。


「安心しなさい。 このカードであなたのライフを0にはできない」

「でも、面白いカードではある」


…どういう意味だ? 正直、全く測りかねる。


「私は手札から、《ダスキー・ウェポン バッシュハンマー》を発動!」

「このカードの効果で、ディヴィアスの攻撃力は1000上昇する」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》(情報一部抜粋)

攻撃力:1300 → 2300 レベル:8 → 10


《ダスキー・ウェポン バッシュハンマー》

自分フィールドの「ダスキー」モンスター1体を対象として発動できる。

①対象のモンスターの攻撃力を1000アップし、レベルを2つ上げる。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「ここでディヴィアスの攻撃力を1000上げても、戦術的にアドバンテージは無い」

「でも……」


言いながら、リナは嗜虐的な笑みを浮かべる。


「こうすればあなた、もっと痛いでしょ?」


なおもリナは愉しむような笑みを浮かべている。

まあ確かに、次の攻撃は痛いだろう。洒落にならないぐらい痛いだろうが、逆に俺の思考はクリアになる。


「やっぱ、闇の力なんて大したものじゃないな」


リナの笑みが、僅かだが揺らいだ。


「お前、負けたくなくて、勝ちたくて、闇のカードを手にしたんじゃないのか?」

「それがお前、見てみろよ。 今は戦術的にアドバンテージは無いと自分でも認めてる行動で笑ってるぜ、お前」

「ブレてるんだよ。 今のお前は。 勝ちたいのか? ただ痛みを与えたいだけなのか?」


俺の発言に、リナの表情が一気に怒りのそれに変わる。


「知ったような事を……っ!」


「でも図星だろ?」


「っ……! 私は!《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》で《戦姫補給隊 コトネ》を攻撃!」

「潰してしまえ! 全部全部! 潰してしまえ!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》

攻撃力:2300 → 2800

      V.S.

《戦姫補給隊 コトネ》

攻撃力:1000 → 500

◇◆◇◆◇◆◇◆


攻撃力の差は2300ポイント。ズドォン!という豪快なエフェクト共に、俺のモンスターは撃破され、ダメージエフェクトが迫る。

同時に、闇の力によるダメージが俺を襲う。


「ぐっ…うぉぉぉぉお!!!」

(犬飼リョーマ LP:3300 → 1000)


あまりの衝撃に身体が跳ね上げられ、地面から足が離れた。次の瞬間、背中から叩きつけられるように倒れ込み、俺は無様に地を転がってしまう。


「ぐっ…うぅっ…」


呻くような声など出すまいと思っていたが、流石に体の限界が近いか。


「は……はははっ! 無様ね。本当に無様ね」

「威勢のいい事は言えても、結局私の《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》は無敵! 成す術なんて無い!」

「私はこれでターン終了。 さ、転がったままだとカードを引けないわよ」


全身を走る痛みに悲鳴を上げる体へ無理やり鞭を打ち、俺は歯を食いしばって立ち上がる。


「戦闘終了時に…俺はコトネの効果で「戦姫」カードを1枚手札に加える……」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫補給隊 コトネ》

攻撃力:1000 レベル:3 アルカナ:正義

①このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「戦姫」カード一枚を手札に加える。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「そして……、俺の…ターン!」

「ドローッ!」


策はある。あるのだが…。カードが、揃わない。


「俺はこれで、…ターン、終了」


「あは、ははははっ! 何もせずにターン終了?」

「いよいよ成す術無しのようね! やっぱり無敵! 私のモンスターは無敵!」

「私のターン! ドロー!」


水瀬リナはドローしたカードを一瞥した後、すぐに攻撃態勢に入る。


「闇の力のダイレクトアタックで沈め!」

「《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》で、あなたにダイレクトアタック!」


ARビジョンで実体化した、闇の力の化身が迫る。

このダイレクトアタックを受けたら、ライフポイントが0になるだけでは済まないだろう。ここまでも闇の力によるダメージを受けてきたが、冗談抜きで命が危うい。


「俺は! カウンタースペル、《緊急障壁》を発動!」

「ライフを半分払い、ダイレクトアタックを無効にする!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《緊急障壁》(カウンタースペルカード)

自分のライフポイント以上の攻撃力を持つ相手モンスターのダイレクトアタック宣言時に発動できる。

①相手モンスターの攻撃を無効にし、自分のライフポイントを半分にする。

②「緊急障壁」の①の効果は1ターンに1度しか発動できない。

◇◆◇◆◇◆◇◆


このカードの発動が妨害されれば、もう打つ手は無い。

頼む。通ってくれ……!


「…しぶとい男。 命拾いしたわね」


ARビジョンによる、《緊急障壁》のエフェクトに阻まれ、リナのモンスターの攻撃は霧散する。


「とりあえず、首の皮一枚繋がったか…」

(島津カオリ LP:1000 → 500)


「死が1ターン遠のいただけでしょう?」

「私の《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》を倒す手段など無い」

「次のターンで決着。 あなたは闇の力に飲まれ、死ぬの。ご愁傷様」

「私はこれで、ターン終了」


『次のターンで決着』。その点には全く同意だ。

もはや俺に、ディヴィアスに対する有効な防御手段など残っていない。

『あのカード』を引かなければ、このデュエルは間違いなく敗北。闇の力を使ったデュエルで、闇の力を持たない俺が敗北すれば、恐らく命は無いだろう。


俺は呼吸を整え、カードをドローするべくデッキに手をかける。


(全く。1枚のドローに全てを賭けるなんて、原作主人公たるツバサの役割だろうに)

心の中で愚痴りながらも、山札にかけた手に力を籠める。

そして、すぅ、と息を吸い込み、宣言する。


「俺の、ターン!! ドロー!!!」


高らかにドローを宣言し、山札から手札に加わったカードを見る。


「…全く。来るのが遅いんだよ」


来た。来てくれた。この土壇場で、来てくれた。

俺の表情が変わったのを察してか、水瀬リナは問うてくる。


「いいカードが引けたのかしら」


だが、彼女は余裕を崩さない。


「でも、どんなカードでも、今更この盤面を突破なんてできない」

「《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》は戦闘では無敵。そして、《ダークネス・オラクル》により、効果で破壊もされない」

「絶対無敵のモンスター! もはや逆転などありえない」


水瀬リナは自信に満ちている。闇のモンスターに寄せる絶対的な信頼に基づく、自信。だがそれは、単なる慢心に過ぎない。


「ちょっと前に俺が言った事を覚えているか?」


リナは怪訝そうな表情をする。もはや俺の発言などいちいち覚えていなかったのか。無理も無いが。


「絶対無敵のモンスターなど、この世に存在しない」

「今からそれを証明してやる」


ハッタリなどでは決して無い。

俺の言葉に、リナの表情は徐々に怒気を孕み始める。


「やれるものなら、やってみなさいよ!」

「闇の力は無敵! その現実を思い知るだけ。 せいぜい足掻いて、思い知りなさい!」


「思い知るのはお前だ!」

「俺は、手札から《戦線復活》を発動! 墓地からモンスターを特殊召喚する!」

「戻ってこい! 《一騎当戦姫 ヒビキ》!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《一騎当戦姫 ヒビキ》(リョーマ墓地 → リョーマ場)

攻撃力:2600 レベル:8 アルカナ:正義

①手札を任意の枚数墓地へ捨てて発動できる。捨てたカードの内、「戦姫」と名の付くカードの数×500ポイント攻撃力が上昇する。この効果はターン終了時まで継続する。


《戦線復活》(スペルカード)

①自分の墓地からモンスター1体を特殊召喚する。「戦線復活」の効果は、デュエル中に1度しか使用できない。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「《一騎当戦姫 ヒビキ》…、たしかあなたの切り札だったかしら」

「でも、いくらヒビキの攻撃力を上げたところで、《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》には勝てない。無駄よ」


リナの言う事は正しい。だが、間違っている。


「慌てるなよ。 まだまだここからだ」

「更に俺は、《戦姫補給 リサプライ》を発動!」

「墓地の《一騎当戦姫 カナデ》と《戦姫宿将 サイ》をデッキに戻し、その後デッキから最上級レベルの「戦姫」モンスターを特殊召喚できる!」

「再び舞い戻れ! 《一騎当戦姫 カナデ》!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《一騎当戦姫 カナデ》(攻撃不可・効果無効・ターン終了時破壊)

攻撃力:2400 レベル:7 アルカナ:正義

①自分フィールド、または自分の墓地に「一騎当戦姫 ヒビキ」が存在する場合に発動できる。手札を任意の枚数墓地へ捨て、捨てたカードの内、「戦姫」と名の付くカードの数まで、このカードは追加で攻撃宣言できる。

②このカードは自身と同じ攻撃力を持つモンスターとの戦闘では破壊されない。


《戦姫補給 リサプライ》(スペルカード)

墓地からレベル6以上の「戦姫」モンスター2体をデッキに戻して発動できる。

①デッキからレベル7以下の「戦姫」モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、効果は無効になり、ターン終了時に破壊される。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「これで俺の場に、2体の「一騎当戦姫」が並んだ!」


俺の発言に、リナは余裕を通り越した、呆れのような表情で返す。


「並べただけでしょ。 盤面の突破には到底至らない」

「それとも何? 最後に切り札を2体並べて、華々しい最期でも飾りたかったの?」


「切り札……、か」

「確かに「一騎当戦姫」は俺の切り札だが、今回のデュエルにおいては違う」

「…本当は竜崎レオナにぶつかるまでは温存しておくつもりだったが、そうも言っていられないな」

「オラクルデッキの利用はお前の専売特許じゃないと、今教えてやる!」


リナの表情が余裕・呆れから徐々に驚愕のそれに変わっていく。

俺のやろうとしていることを、ようやく理解したのだろう。


「俺は手札から! 《オラクル・フュージョン》を発動!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《オラクル・フュージョン》(スペルカード)

①自分フィールドのモンスター2体以上をフュージョンし、条件を満たすモンスターをオラクルデッキから特殊召喚する。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「俺は! 俺のフィールドの《一騎当戦姫 ヒビキ》と、《一騎当戦姫 カナデ》をフュージョンさせる!」

「二つの魂が一つとなりて、正義の旗は翻る! その歩みを阻む者すべて、裁きの槍で討ち払え!」

「《戦姫聖女 ジャンヌ・ダルク》! フュージョン召喚!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫聖女 ジャンヌ・ダルク》

攻撃力:2500 レベル:8 アルカナ:正義

「一騎当戦姫 ヒビキ」 + 「一騎当戦姫 カナデ」

上記モンスターをフュージョンした場合に、このカードはオラクルデッキから特殊召喚できる。

①このカードは相手のカードの効果を受けない

②自分または相手フィールドに、このカード以外の元々の攻撃力と異なる攻撃力を持つモンスターがいる場合、このカードの攻撃力は2500アップする。

③このカードは攻撃可能な場合、必ず攻撃しなければならない。

④相手モンスターは攻撃可能な場合、このカードを必ず攻撃しなければならない。

◇◆◇◆◇◆◇◆


まばゆい光がフィールドを覆う。

その輝きは太陽にも似て、柔らかく、しかし荒々しくもあり、見る者の目を釘付けにする威容を放っていた。


光の中から、ゆっくりと歩み出る影が一つ。

長き戦場を駆け抜けてきたかのような、甲冑を纏う女性の姿――。

彼女の背には、勝者を象徴するかのような純白の旗が翻り、その布地に宿る紋章は、ただの紋ではなく「正義」の象徴そのものの輝きを放っていた。


目の前の闇を打ち払う、「正義」。それを体現する存在が、今降臨したのだ。


「オラクル…モンスター……」


水瀬リナも、その威容に驚きを隠せていない。

だが、彼女は自身のモンスターに絶対の自信を持っている。すぐに気を立て直し、俺に告げる。


「驚いた。ええ、驚いた。 あなたもオラクルモンスターを使うのね」

「でも、私のモンスターは戦闘でも効果でも無敵。 さしもの、聖女様でもどうしようも無いんじゃないかしら?」


「それは、どうだろうな?」


今度は、俺が不敵に笑う番だ。


「ジャンヌは、フィールドに『元々の攻撃力と異なる攻撃力のモンスター』がいる場合、攻撃力が2500アップする!」

「お前の《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》が俺のモンスターの攻撃力を吸収したおかげで、その条件は満たしている!」

「よって! ジャンヌの攻撃力は5000!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫聖女 ジャンヌ・ダルク》(攻撃力・効果一部抜粋)

攻撃力:2500 → 5000

②自分または相手フィールドに、このカード以外の元々の攻撃力と異なる攻撃力を持つモンスターがいる場合、このカードの攻撃力は2500アップする。

◇◆◇◆◇◆◇◆


「こ……、攻撃力5000……!」

「で、でも、どれだけ攻撃力が高かろうと、《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》はそれを吸収できる!」

「5000だろうが10000だろうが関係ない! 私のモンスターは無敵なの!」


「じゃあ、試してみようぜ!」

「俺は!《戦姫聖女 ジャンヌ・ダルク》で、《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》を攻撃!!」


攻撃の瞬間、リナのモンスターが発する黒い霧のようなオーラがジャンヌを襲う。俺のモンスターの攻撃力を何度も吸収してきた、闇の霧。


「血迷ったのね! 迎え撃ちなさいディヴィアス! 聖女を返り討ちに……」


しかし、ディヴィアスの発するオーラを受けてなお、ジャンヌの突撃は一切の怯みを見せない。

まるで、『そんなものは通用しない』と、言外に示すように。


「な…、何が……、起こって……」


「ジャンヌにはもう一つ効果がある」

「ジャンヌに対するお前のカード効果は、全てが無効化される!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫聖女 ジャンヌ・ダルク》(効果一部抜粋)

①このカードは相手のカードの効果を受けない

◇◆◇◆◇◆◇◆


「よって、お前の《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》の攻撃力吸収は、ジャンヌに対して適用されない!」

「正義の槍で闇を打ち砕け! ジャンヌ!!」

「ジャスティス・クルセイド!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆

《戦姫聖女 ジャンヌ・ダルク》

攻撃力:5000

      V.S.

《ダークネス・ダスキー・ジェネラル ディヴィアス》

攻撃力:2800

◇◆◇◆◇◆◇◆


ジャンヌの手にした槍が、鋭い光をまとって突き出される。

その一撃はただの攻撃ではない。罪を裁く断罪の光であり、闇を祓う聖なる裁きだった。


刃が触れた瞬間、轟音と共に黒き影が裂ける。

水瀬リナの心から生まれ、彼女を絡め取り支配していた闇の化身は、抗う間もなく砕かれていった。

黒い靄が悲鳴のような震えを上げながら空気に溶け込み、やがて風に散らされていく。


ほんの一瞬前まで圧倒的な存在感で場を覆っていたはずの闇は、もうどこにもない。

残されたのは、澄みきった光の余韻と、胸を満たす静かな解放感だけだった。


「嘘……、でしょ……」

(水瀬リナ LP:700 → 0)

 ⇒水瀬リナ LOSE


「嘘なんかじゃないさ」

「…でも、温存しようと思っていた奥の手を晒しちまったな。やっぱ、闇の力は侮れないな……」

 ⇒犬飼リョーマ WIN


闇のカードを使用し、そして敗北した水瀬リナから、闇の気配が消えていく。どうやら、闇の支配から解放されたらしい。そのまま、彼女は意識を失う。

原作アニメでもそうだったが、闇のカードの使用による精神の消耗はかなり大きいらしい。


学園の各所で、他の1年生達はDPをめぐって今もデュエルを続けているのだろうが、流石に、目の前で倒れている少女を置き去りにして『じゃあ俺はDP稼ぎにデュエルしてきまーす』という心境にはなれない。

とりあえず彼女を近くのベンチに寝かせ、起きるまで待つことにした。彼女が心配なのも勿論あるが、聞きたいこともあるのだ。彼女が闇に堕ちた、その経緯を。


ベンチに彼女を横たえたまま、俺はしばらくその場に腰を下ろしていた。流石に疲れた。無理も無いだろう。

夕暮れの光が中庭を赤く染め、やがて夜の帳が静かに降りてくる。学園の遠くの方からは、まだデュエルの喧騒が響いていた。勝敗を決する声、カードの効果音、歓声や叫び。

だがこの場所だけは、時間が止まったかのように静かだった。


時折、リナの胸が上下しているのを確認しては、ようやく安堵する。呼吸は穏やかで、命の危険はなさそうだ。原作アニメの知識から、『闇の支配はもう無い』、『命の危険はもう無い』と分かっていても、目の前にするとやはり心配が勝ってしまう。

彼女の寝顔には、僅かだが苦しげな影が残っていた。眉間に刻まれた皺は、夢の中でもまだ葛藤していることを物語っている。


(……闇のカードってのは、本当に洒落にならないな)


原作アニメで見た光景を思い出しながら、俺は小さく息を吐く。カードひとつでここまで人を追い詰め、消耗させる。そして、強大な力を発揮する。今回の勝利だって、一歩間違えば危ない物だった。


夜風が少し肌寒くなってきた頃、ようやくリナが小さく身じろぎした。

「…ん……」

掠れた声とともに、閉じられていた瞼がゆっくりと開いていく。藍色の瞳が月明かりを反射して揺れ、まだ焦点を結ばないまま宙を彷徨った。


「…ここは……?」

かすかな声が漏れる。まだ夢と現実の境をさまよっているようだった。


「気がついたか」

俺は声をかける。

リナはぼんやりと俺の顔を見上げ、しばらくしてから小さく瞬きをした。少しずつ意識が戻り、そして自分がベンチに寝かされていることに気づいたようだ。


「…そっか。 私……負けたんだ」

弱々しくもはっきりとした言葉。その声には、悔しさと、どこか安堵が入り混じっていた。


「覚えてるんだな」


「うん。何となくだけど……」

「迷惑、かけちゃったね」


「お前はお前で、闇のカードの被害者なんだ。気にすることは無いさ」


「…うん……」


俺の言葉は、あまり慰めになっていないようだった。彼女とは、ちゃんと話をしないといけないだろう。


「負けるのって、怖いよな」


「え? ああ、そっか。私が言っちゃったんだっけ」

「…恥ずかしいよね。こんなの」

「実際、コレが原因で、私おかしくなって……。あなたに迷惑かけちゃったし」


「恥ずかしくなんて無いさ。負けるのが怖くて何が悪いんだ?」


リナの反応を待たずに、俺は続ける。


「俺もさ、昔、全然勝てない時期があってさ」

「一日で20戦くらいデュエルして、1勝19敗なんて日もあって…、その頃は本当に、絶望したもんだよ」


驚いたような表情を見せるリナ。


「へえ、驚いた。犬飼君でもそんな時期があったんだ」

「…ねえ、それ、どうやって乗り越えたの?」


リナが問うてくる。気休めなど無意味だろう。俺はただ、正直に言葉を紡ぐだけだ。


「とりあえず、『1000回負けるまでは負け続けてやろう』って思ったな」


リナは『きょとん』とした顔をする。


「ただし、負けるまでの過程で、色んなデッキ、戦術を使う事にした」

「今まで自分が扱ってこなかった戦術、難しくて自分には扱えないと思っていたカード、『どう考えてもこの組み合わせは弱いだろ』って思うようなデッキ」

「『どうせ負けて当たり前なんだ』って思いながら、まあ色々試したもんだよ」


俺は続ける。


「でもさ、そうやって負け続けてると、今まで見えなかったものが見えてくるんだよ」

「『ああ、この戦術ってこういう意味だったのか』とか、『このカードの使い方、ちょっとだけ分かった』とか、『このデッキ、こんな使い方できるのか』とかね」

「なにせ1000回負けるために戦ってるからさ。つまり色々なカードを使いながら1000回は戦おうとするわけだ。直接的に勝利に繋がるかどうかは別として、色々な事に気付けるんだ」


「俺、昔は結構、バカ一直線の速攻デッキ…、ちょうど、お前が団体戦で戦ったツバサみたいなデッキを使ってたんだ」

「『とにかく攻めればいい』っていうのは楽だったし、デュエル中に色々考えるの、苦手だと思ってたからさ」

「でも、負けに負けるようになって、悩んで、取りあえず、負けてもいいから色んなカードを、今までとは全然違うデッキを使うようになって、少しずつ気付き始めたんだ」

「今まで自分は、『頭使わないで速攻で攻めるのが楽でいい』なんて思い込んでいたけど、実は『テクニカルな方が向いてるかもしれない』、『試合中に頭使うの、結構楽しいかも知れない』って少しずつだけど思い始めた」

「で、相も変わらず負け続きの中で、それでも色々試して、ようやく『自分の戦術』、『自分のデッキ』っていうのを見出すことが出来た」

「それ以降は勝てるようになったけど、はっきり言っちゃうと、『乗り越えた』なんて大層な物じゃないさ。極論すれば、偶然の産物でしかないからな」

「だから、こんな俺からあえてアドバイスがあるとすれば、『とりあえず1000回負けてみろ』かな」


「…ふふっ、何それ」


言いながらも、リナは少しだけ笑ってくれた。

リナの思いは『負け続きの現状を脱するアドバイスが欲しい』だっただろう。それに対して『1000回負けてみろ』なのだから、確かに笑える話だ。

それでもリナが俺の話を突き放さないのは、俺が本音で語っていると、彼女も察しているからだろうか。


「そっか。色々試す、か」

「私、一ノ瀬さんみたいなデュエルに憧れてた」

「それでカウンター戦術を使って、最初は上手くいってたから…、あんまり考えなかったな。全然違う戦術を使うなんて」


「アドバイスとしては下の下かも知れないけどさ、取りあえずこの大会、残りの期間でDPがゼロになるまで負けてみたらどうかな?」

「ただし、今まで使おうなんて思わなかったようなカードを使って」


「負けてみろ、なんて。 ホント、もうちょっとマシなアドバイスしたら?」


そんな風に言うが、リナは少しだけ笑顔になった。


「分かった。やってみる」

「まだ負けるのは怖いけど、それでも、犬飼君みたいに、『何かを掴むために負ける』なら、悪いことばっかりじゃ無いかも知れない」


「その意気だ。 負けて勝てよ。水瀬」


…その後、俺とリナはいろんな話をした。

これまで接点はなかったが、考えてみれば同じカードゲーマー同士だ。話題なんていくらでも出てくる。

信じられないような勝ち方をした時の話。ありえない負け方をした時の話。勝てない時期や、連敗が続いた時期の話。

そして、「もう終わりだ」と思うほど負けが重なっても、ほんの小さなきっかけで立ち直れた時の話。


俺が元いた世界では、新しいカードの発売や、レギュレーションの変更といった『負けを抜け出すための外からのキッカケ』があった。だが、この世界の人間は、自分の力でキッカケを掴むしかない。

過酷な話だが……それでも、彼女なら乗り越えられる。少なくとも俺は、そう信じたい。


色々と話が弾み始めた頃に、デュエルガジェットからアナウンスが流れる。


『只今をもちまして、DPストーン奪取戦を終了します』

『現在、DPストーンを保持している方に、ボーナスでDPが付与されます。おめでとうございます』


すっかり忘れていたが、DPストーン奪取戦なるものが開催されていたな。それにしても、全く空気を読まないアナウンスだ。


更に俺のデュエルガジェットから、DPのボーナス獲得を告げるアナウンスが追加で流れた事ところで、リナが言葉を発する。


「あ、犬飼君、DPストーン見つけてたんだ」

「私は結局見つけられなかったけど…。 どこにあったの?」


「いや、俺もストーンを持ってる奴からデュエルで奪っただけだから、元々どこにあったかは分からないな」


「ふふ、他の人から獲得したんだ。犬飼君らしい」


「俺らしいって…、あんまり褒めて無いだろ、それ」


まあいい。ちょうど話題が変わったのだ。

俺は、ちょっと聞き辛いが、絶対に聞かなければならない話、『どういう経緯で水瀬リナが闇に堕ちたか』を聞く事にした。


「うん。その話…。実は、頭の中にモヤがかかったみたいで、上手く思い出せないの」


予想通りではある。原作アニメでも闇の組織は、断片的ながらも記憶をいじるような力があり、闇に堕とされた者はことごとくその時の記憶を消されていた。


リナが言うには、負けが続いていることに悩み、トボトボと歩いていた事、その際に、誰かに話しかけられ、カードを渡された事までは覚えているらしい。不気味な、とても不気味なカードを渡された光景。きっとそれが、闇のカードだろう。

その後は、何となく俺とのデュエルが記憶に残っていて…、気付けばベンチに寝かされていた。そんな塩梅らしい。


そして、最も重要な情報、彼女に闇のカードを渡した存在について。リナの記憶は定かではないらしいが、…どうも、同じくらいの年齢の少女だったらしい。


リナの記憶が消されていることは想定していた。敵とて、そう簡単に尻尾は掴ませないだろう。だが、『同じくらいの年齢の少女』、これが分かっただけでも大きい。

原作知識も総動員しながら、可能ならば誰が闇の使者なのか、特定しなければ。

ここが『壊れてしまった原作の世界』である以上、もはや『待ち』の姿勢は危険だ。


リナのデッキからは、闇のカードとその関連のカードは消え去っていた。原作では、《ダークネス・オラクル》は所有者の精神を蝕んで発動する危険なカードであったため、出来れば回収して誰の手にも触れられない状態にしておきたかったが、まあ消えてくれたならそれはそれでいいだろう。


まだフラついているリナを寮へと送りながら、俺は彼女の横顔を一度だけチラリと見た。

その瞳に宿るのは、かすかな決意。彼女は悩みに悩み抜き、一度は闇に堕ちながらも、再び歩み出そうとしている。

俺も、俺として生きる。その歩みを止められないのだと、自分に言い聞かせる。


そして、夜の帳が学園を包み込む頃、俺達は静かに中庭を後にした。


――――――――――


リョーマとリナの戦いからしばしの時を置き、視点は、この話の冒頭の少女に戻る。


彼女は自身のデュエル、ひいては自身の道について悩みに悩み抜き、その心の隙を突かれ、闇へと堕ちた。


だが彼女は、救われる。

まるでお伽噺の王子様のような存在が現れ、闇の中に居る彼女を、光の世界へと連れ戻すのだ。

しかし、それはまだ、先の話。今はまだ、闇の中に居る。


「諸々の実験は上手くいきましたが、水瀬さんの件だけは想定外ですね」

「まさか、こんなに早く闇の支配が解けるとは…、本当に想定外です」

「闇のカードを持つ者を倒せるデュエリストがいる…。下手に眷属を作れば、かえって足が付きかねませんね」


手元で妖しく光るカードを「くるくる」と回しながら、彼女は呟く。


「しばらくは単独行動。まあ、急ぎの要件もありませんし、どっしり構えて事を成しましょう」

「鳴かぬなら 鳴くまで待とう―――。かの徳川家康公は、ためになる事を言ったものです」

「時間も力も、沢山あるのですから」


彼女は、未だ楽し気に微笑む。

ほんの少し前まで、自分が前に進めていない事、大切な人に置いていかれてしまうかもしれない事…、様々な事に悩んでいた。

しかし、今はとても、晴れやかな気分。


「今は静観。でも、動き出す時が本当に楽しみです」


呟きながら、彼女は微笑む。

島津カオリは、とても晴れやかな気分だった。


―第10話、 了

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