第3話 池田潤也、オジサンと邂逅する

『気付けば悪の組織に囚われていた高校2年生の池田潤也いけだじゅんやです。

前回、お色気ムンムンのお姉さんによって意識をまたもや失わされてしまったのですが、つい今しがた意識を取り戻しました。今度の場所はやけに圧迫感を感じる薄暗い小部屋です。印象的には刑事ドラマとかでよく見る取調室に似ている気がします。

低い天井には、ひとつしかない裸体族らたいぞくよろしく素っ裸の豆電球が孤軍奮闘こぐんふんとうで小部屋の中を薄明かりながらも必死に照らし、中央には一台の質素な金属製のテーブルがポツンと置かれ、そのテーブルを挟んで向かい合うようにパイプ椅子が二脚用意されているのですが、その一脚には俺が座らされていて、その向かいにはこれまた見知らぬ四十過ぎであろう中年男性が座っているのです。

無造作さに整えられた黒髪に、気怠けだるそうな目つき。全身からやる気の無さを目一杯めいっぱいに発信しているそのオジサンは、未成年である俺の前で堂々と煙草を吸っているのです!

未成年の前で煙草を吸うなど言語道断! 煙草は喫煙所で吸わなければならないと学んでいないのでしょうか、このいい歳をこいたオッサンは!

まったくこの組織はどんな構成員教育をしているのでしょう!』



「悪の組織に社会的常識を持ち込んではいけないな、池田潤也くん」


「え? どうして俺が心の中で思っていたことが分かったんだ?」


「それはオレがお前の心を読んだからさ」


「心を読んだ? ふぅ、オジサン。もう年齢も年齢なんだからいつまでもそんな中二病みたいなことを言ってちゃ駄目だよ。年老いた親御さんだってきっと心配してるはずだから」


「……悪いが、高校生のアンタに説教されるほど、オレは落ちぶれちゃいないぜ」


「悪の組織の一員ってことだけで結構けっこう落ちぶれているようにみえるけどなぁ……」


「口の減らないガキだなテメェは! いいか、一昔前ひとむかしまえの男ってのは正義の味方よりも悪の怪人に憧れとロマンを抱いていたもんなんだよ! だからたとえ人様から後ろ指を指されようともオレは悪の道に進んだことを後悔してもいないし、みじめとも思っちゃいねんだよ!」


「はい、減らず口」


長台詞ながせりふをたった一言で一刀両断しやがった!?」


「いい。オジサンみたいな人を世の中では老害ろうがいって言うんだよ」


「言葉をオブラートに包めよ! 老害っていう言葉は思いのほか中年世代の心に深い傷を負わせるんだぞ!」


「だってオジサンが心が読めるだなんて妄想を言うから」


「妄想じゃなくて真実だ! オレは悪の超人になって人の心の中を覗き見ることができる超能力『超絶ちょうぜつ、そして剛胆ごうたん、さらに神技しんぎゆえ最強心眼さいきょうしんがん』を手に入れたんだからな!」


『……………………………』


「おいっ! 心の中で、『長っ!』『ダサっ!』『ネームセンス無さ過ぎ!』なんて思ってんじゃねぇぞ!」


「おぉっ! ほんとうに心の中が読めるんだ!」


「悪口で真偽のほどを確かめるんじゃねぇ! 言葉よりも心の中で思っている悪口のほうがオレは傷つくんだぞ!」


「メンタル弱いなぁオジサン。そんなんで悪の超人としてやっていけるの?」


「余計なお世話だ! それにオレは小さな頃からやれば出来る子って親から言われて育ってきたんだ。そんなオレに不可能なことなんてこの世にひとつもねえんだよ!」


「親から愛されていたんだねオジサンは。それなのに悪の組織に入るだなんて、親御さんは悲しんでいるよ。さらにそこにネームセンスが絶望的なほど皆無という追い打ちまでかけて」


「おい! 悪の組織に入って親が悲しんでいるっていうのは百歩譲っていいとして、ネームセンスの無さはまったく関係ないだろうが!」


「オジサン、現実から目を背けちゃ駄目だよ」


「オレがいつ現実から目を背けた! まったく、とことんフザケたガキだなお前は! どうりでオレの元に送られてきたわけだぜ!」


「ん? それどういう意味? 俺がオジサンの所に来たのはなにか理由があるの?」


「そりゃそうだろ。なんの訳もなくオレの場所――お仕置き部屋に送られてはこないだろうよ」


「うわぁ~。オジサンからお仕置き部屋とか聞くのきっついなぁー」


「少しは緊張感を持て! 緊張感を! これからテメェはこれまで体験したことのない苦痛をたんまりと経験することになるんだからな」


「苦痛? まさかここまでコメディ一筋でやってきたのに、もうネタ切れだからと急な暴力的展開にへと移行する気か!?」


「おいおい。そんな暴力なんて無粋なマネはしねえよ。オレのやり方は肉体的苦痛じゃなくて、精神的苦痛を与えることなんだからな」


「精神的苦痛?」


「そうさ。さっきも説明したが、オレは人の心の中を覗き見ることが出来る。だがそれは心の中でなにを思っているのか意外にも、そいつが心の奥底に慎重しんちょう巧妙こうみょうに隠している後悔やら、トラウマやら、他人に知られたくない恥ずかしい過去の出来事まで覗き見ることができるんだ」


「ほぇ~。それがほんとうなら凄いなぁ」


「ほんとうさ。たとえばお前さん、中年三年生の頃に三日連続おねしょしたんだろ?」


「――! なんでそれ知ってんだ!!」


「だからと言ったろ、オレは人が心の奥底に隠してるモノも覗き見れるってよ。しかしお前さん、恥ずかしいなぁ。中年三年生にもなって三日連続おねしょするなんてよ!」


「あぁそうさ、恥ずかしいさ! 四日連続おねしょできなくて!」


「……………はぁ?」


「家族も喜んでいたんだ! 中年三年生にもなって三日連続でおねしょするなんて誰しもが達成できる偉業じゃないって。だから俺、家族にもっと喜んでほしくて四日目も必ずおねしょをしようと固く誓ったんだ! それなのに、四日目のベッドのシーツは真っ白で、湿り気が一切なかったんだ……。その目の前の惨状さんじょうに思わず慟哭どうこくしたよ。そして俺は家族に悔しさと恥ずかしさを押し殺しながらおねしょしなかったことを伝えたんだ。前日墓参ぜんじつはかまいりして先祖にもおねしょが出来ますようにとお願いしたのに……」


「よーしよし、ちょっと待てよ。随分ずいぶんと熱く語ってくれたけど、これっておねしょの話しだよな?」


「あぁ、そうだよ。俺にとっては屈辱と恥ずかしい話だけどな」


「そうか。だったらまず言いたいのは、お前んちの家族はお前が三日連続でおねしょしたことを喜んでいるんじゃねえよ!  そこはしっかりと注意しとけ! それとおねしょしなかったことに慟哭どうこくすな! それが普通なんだから! 最後に墓参りまでして先祖に変な願い事を頼むな! 先祖も困惑するだろうが!」


「そんなことないぞ。俺の先祖だと名乗る顔も知らない老若男女が夢の中に現れて、おねしょができますようにと一心不乱に応援してくれたんだから」


「気が狂ってんなお前の一族は!」


「てへへ」


「そこは照れ笑いするところじゃ絶対にねえ! チッ! このガキ、報告通りたしかに一筋縄ではいかないようだな。こうなったらさらに深く心の奥底を覗き見てやる! ……ん? なんだ? 弟? 行方不明? 掟? オギヌの大神サマ? なんなんだこりゃ?」


「…………オジサン。これから先は踏み込まないほうがいいよ。戻れなく


「つまらん脅しだな。そんなんでオレがひるむとでも思っているのか?」


「……………………………」


「そこで黙るは反則だろ! それに心も急にからっぽにすんなよ! 怖ぇーよ! 本音を言えばすっげぇ怖ぇーよ! なんだよ弟、行方不明、掟、えぇっとオギヌの大神サマだったか? それらホラー感丸出しの言葉どもは! オレそういう系は大の苦手なんだよ!」


「……慣れてしまえば心地良いもんだよ、オジサン」


「それ闇落ちした奴が言う十八番おはこ台詞せりふじゃねえか! あぁクソっ! どうもこのガキ相手だといつもの調子が出ないぜ!」


「頑張れオジサン」


「テメェが言うな! テメェのせいでコッチは悪戦苦闘してるってのに!」


「成長には苦しみが伴うものだよ」


「ガキがしたり顔で一端いっぱしのこと言ってんじゃねえ! というかさすがのオレもテメェにはもうお手上げだ! これ以上テメェと話しているとコチラの精神がおかしくなっちまう!」


「そう? だったら元の場所に帰らせてくれよ」


「あぁ、そうだな。帰らせてやるよ、最初の場所にな!!」



『オジサンはそう言うや否や、俺の顔に目掛けて煙草の煙を吹き付けてきた。

すると毎度毎度のことではあるが、俺の意識が遠ざかっていくのをまたまた感じるのであった。

どうやら再度の移動らしい。

そして先程のオジサンの言葉から察するに最初の場所――あの暗闇の空間に戻されるようだ。

だったら始めからあの場所にずっと居てもよかったんじゃないのか、と心中で愚痴りながらも、俺は一時いっときの意識との別れを受け入れるのであった』


しつこくもまた次回へと続かせてもらいます。



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